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更新日:2024.10.18
登録日:2024.10.11
小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編③「“紀子のアパート”室内の特徴」
「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。“東京物語”に出てくるマンションなんだけど、小津安二郎ファンが70年以上研究してもわかっていなくて。もし確定させられれば、“マンション図書館”史上最大の大発見になるよ」
ある日の会議で“マンション図書館”館長・井出がいつになく熱く語った。平成生まれの私にとって、小津安二郎とは“世界の小津”と称される映画監督であることは知っていても、小津映画を観たことはなかった。館長たってのお願いとあらば、マンション図書館ライターとしての誇りを胸に、受けないわけにはいかない。まずは“東京物語”を観ることから、日本映画界70年来の謎を解き明かす挑戦が始まったのであった。
調査・検証内容は以下のとおりである。
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調査編
①小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは
②鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”
③“紀子のアパート”室内の特徴
④“紀子のアパート”共用部分の特徴
⑤“紀子のアパート”外観の特徴
検証編
①“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証
②”紀子のアパート”内部の検証
最後に:調査を終えて
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【前回の記事】
小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編②「鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”」
館長井出の一言から始まった本企画、全8回にわたって調査・検証していく。
今回は②「鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”」について語っていく。
“紀子のアパート”室内の特徴
話を“東京物語”に戻そう。周吉・とみは、紀子のアパートを劇中で二度訪れている。一度目は紀子が東京見物に連れて行った晩の食事・晩酌、二度目はいよいよ実子たちに泊めてもらえなくなった晩にとみが身を寄せる場面である。その際に室内が描かれているカットを観ながら、私が間取り図を描き起こしたのが、以下のものだ。その中でも特徴的な要素をいくつか分解してみよう。
① 室内に対して幅が広い共用廊下
② 居室は典型的な6畳
③ 水回りは無い(=トイレ・台所は共同)
④ 同じ間取りが並ぶ(線対称でない)
⑤ 布団が収納できる押入れ
“紀子のアパート”の専有面積は居室(畳)6畳、土間1.5畳、収納1畳とすると約8.5畳=14.195㎡(1畳=1.67㎡とする)に過ぎず、現代のワンルームマンション(約20㎡)の約4分の3に過ぎない。とはいえ、同潤会アパートの時代では浴室は銭湯なのが当たり前で(同潤会アパートではアパート内に共同浴場を設けている場合もあった)、“紀子のアパート”の専有部分には茶箪笥や寿司桶が置いてある程度で、トイレや台所といった水回りが一切ない。それらを外しての15㎡弱なので、居室としてはほぼ現代のワンルームと同等と言ってよいだろう。それでも、共用廊下側の換気窓や玄関扉に摺りガラスがあること、土間上空の天袋収納が充実していることなど、限りある空間を立体的に活用している点には、現代のマンションと変わらない。
▲室内の全景(1:25:30)。玄関扉(左奥)の脇は茶箪笥などが置かれ、換気・採光の透かし窓がある。手前は畳。水回りは無い。
次に目を引くのは共用廊下の幅が広いこと、そして風雨を避けられる内廊下構造であることだ。紀子が隣家へ酒瓶を借りに行くシーンがあるが、共用廊下には子ども用の三輪車が置かれている上、玄関脇には下足箱のような物入れまである。初期の集合住宅の設計思想として、共用廊下を“身近な子どもの遊び場”や“井戸端会議の場”といった“住民同士のコミュニティスペース”として重視する傾向があり、この同潤会アパートでも同様の設計が行われたものと考えられる(URまちとくらしのミュージアム:晴海高層アパート等、初期の集合住宅でも同様の思想が見られる→後述)。
コミュニティスペースとして用いるからには、風雨や直射日光を避けられる内廊下の方が望ましいのは言うまでもなく、玄関脇に三輪車のようなちょっとした物を置いておいても、風で飛ばされたり盗難に遭ったりする心配も少ない。専有部分の狭さを共用部分の充実で補う思想は“限りある土地を分け合う”集合住宅・マンションの肝といえ、現代のマンションにも見られるラウンジ等の充実と相通ずる思想を見出すことができる。
▲三輪車が置かれた共用廊下(41:17)。紀子の部屋は画面手前の右。室内と対比すると、玄関扉と透かし窓の位置関係が一致する。
ただ、専有部分15㎡弱では“食寝分離”には至っておらず、これは現代のワンルームマンションでも変わっていない。詳細は別記事(以下リンク)を参照いただきたいが、「食事部屋を容易に寝室に転用できる」という「部屋の融通性・転用性」は、長きにわたり日本住宅の長所とされており、ましてや1920年代の集合住宅黎明期における同潤会アパートでは疑いなき常識であった。“紀子のアパート”でも、就寝時にはちゃぶ台を畳んで布団を押入れから出しており、6畳間であっても客布団(亡夫・昌二の遺品)が用意され、とみが寝ている。
台所・浴室・トイレが共同という、言い換えればプライバシー性の低さは課題であり、これは約30年後の“DKの発明”を待つことになる。戦後「住まい方研究」の第一人者として「食寝分離」を唱えた京都大学・西山夘三(うぞう)教授は1940年に同潤会の“研究部”に属しているが、若き研究者であった頃の同潤会での経験が、その後の西山氏の研究に影響を及ぼした面もあるだろう。
“DKの発明”“食寝分離”の研究についてはこちらを参照
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小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」
「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。」
館長井出の一言から始まった本企画、全8回にわたって調査・検証していく。
今回は④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」について語っていく。
※特記以外の画像は2024年5月筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。
賃貸不動産経営管理士
佐伯 知彦
大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。
東京カンテイ顧問
井出 武(マンション図書館顧問)
1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
24年間、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。
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