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更新日:2023.11.22
登録日:2023.11.22
修繕積立金が足りないのはなぜ?不足しないための対処方法をアドバイス
マンションの修繕が必要となった場合に備えて積み立てられる「修繕積立金」。
住民から毎月定額を徴収しているものの「実際に修繕工事が必要となったとき、足りなくて困った」「このままでは資金不足に陥る恐れがある」このようなお悩みを抱えながら、このページを開いたマンション管理者の方は多いかもしれません。
修繕積立金が不足する原因は複数あります。原因や対処法についてあらかじめ知っておくことで、磐石な管理体制を築きましょう。
この記事では修繕積立金が不足する原因や不足時の対処方法、不足しないための予防策について解説します。修繕積立金の不足にお困りの方はもちろん、資金繰りがうまくいっている方も、リスクマネジメントのひとつとして参考にしてください。
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修繕積立金が足りないのはなぜか
修繕積立金が足りないのはなぜか
マンション管理において修繕積立金が不足する原因は、大きく4つあります。
・滞納者が増えてしまった
・工事費や人件費が高騰した
・修繕積立金の金額設定が低い
・修繕積立金に段階増額積立方式を採用している
ひとつずつ解説します。
滞納者が増えてしまった
修繕積立金の滞納者が増えてしまった場合、修繕積立金が不足する恐れがあります。修繕積立金は、マンションの住民(管理組合員)から徴収することで積み立てられています。
しかしながら、修繕積立金が予定通りに支払われないことで毎月の積立額が減り、修繕予定時期までに必要資金が集まらないマンションは全国に多いといわれています。国土交通省の調査によると、調査対象となった管理組合の約4割が「管理費等の滞納者を抱えている」と回答しており(※)、滞納者の増加による資金不足のリスクは軽視できません。
滞納者がいる場合は催告するなどの対策を取り、滞納を常態化させないことが重要です。
工事費や人件費が高騰した
修繕工事費や人件費の高騰により、修繕時に資金が不足する恐れがあります。少子化による労働人口の減少や近年の物価高騰などにより、マンションの修繕にかかる費用が増加傾向にあることが理由のひとつです。
またマンションの築年数や使用する建築資材、依頼会社の違いなどによっても、修繕費用が予算を上回る可能性があります。物価高騰や築年数などは避けられない要因である一方、建築資材や依頼会社などを見直すことで、費用を抑える余地はあるでしょう。
修繕積立金の金額設定が低い
修繕積立金の金額設定が低い
修繕積立金の設定金額がそもそも低い可能性があります。新築分譲時に立てた初期計画と現状にズレが生じていることが主な原因です。
たとえば、前述の物価高騰などにより、分譲当時に設定した修繕積立金の金額だけでは修繕費用をまかなえなくなっているケースが増えています。地震や台風の多発などにより、長期修繕計画で想定されてなかった修繕が増えたことで、資金繰りが苦しくなったケースもあるでしょう。
修繕積立金の設定金額が現状にそぐわない場合、社会情勢に合わせて修繕積立金の設定金額を見直すことも大切です。
修繕積立金に段階増額積立方式を採用している
修繕積立金の積み立て時に「段階増額積立方式」を採用している場合、将来的に修繕積立金の値上げ交渉が難航する恐れがあります。
修繕積立金の徴収方法として、毎月一定額を徴収する均等積立方式と、築年数の経過に合わせて金額を段階的に増やしていく段階増額積立方式の2種類があります。段階増額積立方式では住民の修繕積立金の負担額が年々増加するため、値上げに応じない住民が出る可能性があるのです。
値上げを行う際には、値上げの背景について住民に説明する機会を設け、了承を得ておくことが重要です。
修繕積立金が不足している割合
修繕積立金が不足している割合
「平成30年度マンション総合調査」によると、3割以上(34.8%)の管理組合が、修繕積立金が長期修繕計画よりも不足していると回答しました。また、長期修繕計画に対して20%超の資金不足を抱える管理組合の割合は15.5%となっています。(※)
これらは平成30年(2018年)時点での統計ですが、自然災害の急増などにより、修繕積立金不足に悩む管理組合はますます増加していることが予測されます。
鑑定士コメント
修繕積立金の適正価格はいくらでしょうか?修繕積立金の相場としては、たとえば国土交通省の平成30年度時点の調査によると、修繕積立金の月額平均値は一戸あたり11,243円となっています。ただし、築年数によって修繕積立金の平均が異なり、築年数が古くなれば金額は上がります。
また、国土交通省「マンション修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月、令和3年9月改訂、令和5年4月追補版)によると、目安は20階未満のマンションで255〜335円/㎡・月、20階以上のマンションで平均338円/㎡・月です。なお、機械式駐車場などがあれば、さらに別途加算されていきます。
修繕積立金が足りない場合の5つの対処方法
修繕積立金が足りない場合の5つの対処方法
修繕が必要な状況であるにも関わらず、修繕積立金が足りない場合、具体的にどうすればよいでしょうか?対処法は大きく5点あります。
・一時金を集める
・修繕積立金の値上げを実施する
・大規模修繕の時期を変更する
・足りない分を借り入れする
・工事の内容を見直す
ひとつずつ解説します。
一時金を集める
修繕費用の一部を「一時金」として住民に負担してもらう方法です。修繕積立金だけでは足りない費用をマンションの住戸数で等分し、住民から一括徴収します。
住民に金銭的負担を強いることになるため、管理組合総会での議決が難航する可能性を想定しておく必要があります。議決に至った後も、着工直前になり「一部の住民が徴収に応じない」などの事態も考えられるでしょう。
以下に挙げる対処法も選択肢として持ちながら、リスクに備えてください。
修繕積立金の値上げを実施する
修繕積立金の設定金額を引き上げる方法です。前述の一時金と同様に、値上げ時に管理組合総会での議決が必要となるため、反対意見が出る可能性は想定しておく必要があります。
またこの方法は、急を要する修繕費用の補填には向いていません。不足分を補填するために、数ヶ月から数年ほどの時間がかかるためです。長期修繕計画に含まれる費用の補填など、長期目線で修繕積立金の不足を解消したい場合には、修繕積立金の値上げを検討するとよいでしょう。
修繕積立金の値上げ時の注意点については下記の記事でより詳しく解説しています。
修繕積立金が値上げされた!相場や理由についてわかりやすく解説
足りない分を借り入れする
修繕費用の不足分を金融機関から借り入れる方法です。たとえば住宅金融支援機構には「マンション共用部分リフォーム融資」という制度があります。この融資制度では、一定条件を満たす場合に、担保不要で総工事費用の8割までの融資が可能です。
金融機関から融資を受ける方法は、住民の金銭的負担が少ない分、管理組合総会で議決に至りやすい選択肢といえます。ただし当然ながら、後々返済が必要です。借り入れ期間に応じて金利もかかってくるため、修繕積立金の値上げ措置も合わせて想定する必要があります。
大規模修繕の時期を変更する
大規模修繕の時期を変更する
大規模修繕の工期を見直す方法です。大規模修繕とは、経年劣化したマンションの骨組みや共用設備などを定期的に改修・補強する工事を指します。大規模修繕の実施周期としては、13年から16年程度が一般的です。
安全性に関わるような損傷がある場合を除き、大規模修繕の実施時期を見直すのは現実的な選択肢といえます。ただし、大規模修繕を後ろ倒しにすることで建物の劣化等がさらに進み、将来的に工事費用がかさむ可能性も想定しておく必要があるでしょう。
日頃からマンションの劣化箇所や劣化程度に気を配っておき、大規模修繕のタイミングを適切に見極めることが重要です。
工事の内容を見直す
修繕工事の内容を見直すことも、現実的な選択肢です。修繕積立金でまかなえる範囲で修繕工事を実施し、まかなえなかった範囲の修繕は保留・延期するという折衷策などが考えられます。
たとえば床下浸水や雨漏りなど、急を要する修繕を優先的に実施し、景観改善工事などの急を要さない修繕に関しては、一旦保留する方策などです。管理組合総会で議題として取り上げ、住民の意見を取り入れるのもよいでしょう。
どこをどの程度修繕するのがもっとも効率的か、緊急度や優先順位を考えて修繕を実施するのがポイントです。
修繕積立金不足に陥るマンションの特徴
修繕積立金不足に陥るマンションの特徴
修繕積立金不足に陥りやすいマンションの特徴を3つ解説します。もしもあなたのマンションが下記の特徴に当てはまる場合、修繕積立金の積立状況に問題がないかどうかを今一度確認することをおすすめします。
・マンションの築年数が20年以上
・修繕積立金の値上げを延期している
・修繕積立金の滞納者が多い
マンションの築年数が20年以上
築年数が20年以上のマンションは、修繕積立金不足に陥りやすい傾向にあります。築20年〜25年ほどのタイミングで2回目の大規模修繕工事が必要となるために、このタイミングで修繕費用が足りなくなるマンションは多いです。
もうひとつの要因として、築年数が経過すればするほど故障時の部品交換が困難になる点が挙げられます。一般的に、20〜25年(四半世紀)で廃盤となる部品は多く、新製品への買い替え工事が必要となる場合が多いものです。
たとえばエレベーターが故障した場合、部品交換ではなく、故障機を買い替える必要が生じ、メーカーや機種によっては1基あたり1,000万円近くの費用がかかる可能性があります。
築20年をひとつの目安として、修繕積立金の資金繰りを見直しましょう。
修繕積立金の値上げを延期している
修繕積立金の値上げを延期しているマンションも、修繕積立金不足に陥りやすい傾向にあります。値上げに踏み切れない背景には、住民から反発などがあるでしょう。
修繕積立金の値上げは、住民への負担を強いることになるため、強い反発が出るのはやむを得ません。しかし先延ばしにしていると、必要な修繕が実施できずに、マンションを維持できなくなる恐れもあるのです。
住民からの合意を得るまでに時間はかかるかもしれませんが、資金不足の現状を丁寧に説明し、住民に値上げの必要性を理解してもらいましょう。管理組合総会での議決にはある程度の時間がかかることをあらかじめ想定し、数ヶ月から数年単位の移行期間を設けることをおすすめします。
修繕積立金の滞納者が多い
修繕積立金の滞納者が多い
修繕積立金の滞納者が多いマンションは、修繕積立金の不足に注意が必要です。滞納者がいる分毎月の積立額が減り、修繕が必要な時期までに予定金額を積み立てられない恐れがあります。
とくに住民の高齢化が進んでいるマンションは、注意が必要です。収入が年金に限られており、修繕積立金を支払えない状況にある住民も増えている可能性もあります。
鑑定士コメント
修繕積立金が払えないときに確認しておくポイントはどこでしょうか?修繕積立金が足りず、修繕工事費用が払えなくなる前に確認しておきたいことは、「長期修繕計画」の内容です。たとえば国土交通省による「長期修繕計画作成ガイドライン」では、計画期間に関しては「30年以上」かつ「大型修繕が2回以上含まれている期間以上」の2ポイントを満たす修繕計画を立てる必要があると明記されています。現時点での修繕計画と積立金の設定が適切かどうかの判断材料にしてください。
※参照:国土交通省|長期修繕計画作成ガイドライン
修繕積立金が不足しないための4つの方法
修繕積立金が不足しないための4つの方法
修繕積立金が不足しないためにすべき対策を4点解説します。
・長期修繕計画を定期的に見直す
・修繕積立金は適正な額を設定する
・できるかぎり費用を削減する
・修繕積立金の値上げを住民に理解してもらう
前述の修繕積立金が足りない場合の対処法と合わせて、資金不足を未然に防ぐ対策も大切です。
長期修繕計画を定期的に見直す
長期修繕計画の内容を定期的に見直しましょう。長期修繕計画で予定されている収支通りに進まない可能性があるためです。
前述のように、長期修繕計画は25〜30年に及ぶ長期計画となっており、当初の計画とのズレが生じる可能性は大いにあるでしょう。たとえば自然災害の発生などで追加の修繕が必要となるなど、想定外の出費が重なる事態も考えられます。
定期的に修繕計画を見直すことで、計画と現状のズレをこまめに修正することが大切です。なお国土交通省の定めるガイドラインでは、約5年ごとに計画を見直すことが推奨されています。(※)
修繕積立金は適正な額を設定する
修繕積立金は適正額を設定しましょう。新築分譲の時点で適正額を吟味するひと手間が、その後数十年の管理体制を左右します。前述のように、一度定めた金額を変更する場合、住民からの反発が出やすいためです。
また修繕積立金の徴収方法として、徴収金額を段階的に増やしていく「段階増額積立方式」は不確定要素が多く、高リスクです。国土交通省のガイドラインにもあるように、毎月一定額を徴収する「均等積立方式」の選択が推奨されます。(※)
できるかぎり費用を削減する
できるかぎり費用を削減する
余分な出費をできるだけ減らし、資金を温存しましょう。現時点で修繕積立金が十分に足りていたとしても、自然災害の発生などにより、急な修繕費が必要となることがあるためです。
余分な出費を減らすためには、建物の劣化を最小限に抑える意識が重要です。たとえば管理組合で共用部分の劣化具合を定期的に確認し、劣化が激しい場合、住民に適切な利用を促すなどの具体策が考えられます。
また修繕工事を依頼する際には相見積もりを依頼するなど、できるだけ低コストで実現できないか検討する視点も大切です。急な出費に備え、防げる出費は最小限に抑えましょう。
修繕積立金の値上げを住民に理解してもらう
修繕積立金の値上げについて住民に理解してもらいましょう。前述のように、修繕積立金の値上げをすることで住民の負担が増えるため、議決の難航はやむを得ません。
住民に修繕積立金の収支状況を報告する機会を定期的に設けるなど、日頃からマンションの管理体制について理解を深めてもらう努力が大切です。
まとめ:修繕積立金が足りなくならないように、長期修繕計画は定期的に見直そう
まとめ:修繕積立金が足りなくならないように、長期修繕計画は定期的に見直そう
修繕積立金が不足する原因として、滞納者の増加、修繕費用の高騰、修繕積立金の金額設定と現状のズレなどが考えられます。修繕時に資金難となった場合、一時金の徴収や大規模修繕時期の見直しなどの対処法が考えられます。
築年数が20年以上のマンションなど、修繕積立金が不足しやすい条件が揃っている場合は、とくに注意が必要です。長期修繕計画を見直すなどリスクマネジメントの視点も持ちながら、ぜひ安泰なマンション管理につなげてください。
不動産鑑定士/マンションマイスター
石川 勝
東京カンテイにてマンションの評価・調査に携わる。中古マンションに特化した評価手法で複数の特許を取得する理論派の一方、「マンションマイスター」として、自ら街歩きとともにお勧めマンションを巡る企画を展開するなどユニークな取り組みも。
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