甘い生活2018/5/15

友人がマンションを買った。中古のマンションを全面的にリフォームしたその新居を、先頃ようやく披露してくれたのだ。買ってから1年。以前に見せてくれた間取り図が全く思い出せないほど、その部屋は見事に生まれ変わっていた。

 

なるほど今、何故わざわざ中古を買って全面リフォームするのが流行っているのか? その意味が、明快にわかった気がした。新築マンションは、どうにも手がつけられない完成度を見せるから、良くも悪くも出来上がったものをそのまま受け入れるしかないけれど、リフォームはすべて心置きなく変えられる。ゼロから自分らしさを出していける。いや、ゼロからと言うよりむしろ、マイナスから始めるほど、変えようというエネルギーがそこに生まれるから、どこか大胆になれる。チャレンジャーになれるのだ。

 

友人も、最初は消極的に見えたけど、仕上がってみたらかなり大胆な改造を行っていた。各部屋をガラスで仕切り、全てが見通せて、ワンルームに見えたかと思うと、ガラス戸にシェードをひいて独立性を持たせることもできるというふうに。このアイディア素晴らしい。

 

そこでふと思ったのが、新築で、まさにゼロから考えたら、これは思いつかないかもしれないと言うこと。中古のリフォームという、ゼロでなく、マイナスからのスタートだからこそ、こういうアイデアが出てきたのではないかと感じたのだ。つまり、工夫のマジックが働いたのだ。

 

ゼロからの新規設計だと、工夫が生まれない。欲しいものをただ思い通りに並べるだけ。いらないものや、イメージと違うものがあり、納得のいかない形をしているからこそ、私たちはリフォームの名のもとに、一生懸命に考え、悩み、アイディアをひねり出す。何事もそういうところに傑作が生まれるのだ。まさにマイナスからの出発の方が、ゼロから物事を組み立てていくよりもずっとずっと結果として良いものが生まれる。新築よりリフォームの方が感動的な仕上がりになるのはそのためなのだ。

 

今や記録的な長寿番組となった”ビフォアフター”を見せる住宅リフォーム番組だって、問題のある家ほど感動的な仕上がりになるのと同じ。納得できない部分がたくさんあるほど、良いリフォームができると言うことなのではないか。

 

妙な話だけれど、自分は新築で家を建てたが、中古を買って直せばよかったと、今更ながらに思ったりしてしまった。いやおそらくその方が、今なお愛着を感じられる家になっていたかもしれないとまで。苦労させられた分だけ、工夫させられた分だけ、思い入れが深いはずだから。

 

この友人も、実はもともと新築を探していたと言う。でも場所と、サイズと、テラスがあること、という条件を、予算内でクリアしようとした時、新築をあきらめないければいけなかった。結果として中古を買うことになったらしい。
そして、リフォームに関しては最初ここまで変えようとは思っていなかったものが、変えることを前提に考え始めると、ここもこうしたい、ここもああしたいといろいろ欲が出てきた。どんどん変えたくなって、最終的に仕上がるまで1年間かかってしまった。でもこの1年間楽しくて楽しくて仕方がなかったと言う。そして自分でも本当に納得のいく、大好きな家が出来上がったと。新築を買わなくて本当によかった。中古を買って本当によかった。今は、全くそう思っているのと。

 

深く深く納得した。新築より中古………実はそこに家づくりの真実がある。

 

 

齋藤薫 美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーと幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』(講談社)など著書多数。

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