東京カンテイが価格調査！
①あたしンちのマンション、とことん読み込み推理編

ここは 不動産データサービスを提供する東京カンテイ。特にマンションに関する専門知識を活用して、マンション図書館を運営しています。そんな東京カンテイに最近入社した新入社員ちゃんは、TwitterやWeb領域を担当。今日もマンション図書館の記事更新をお知らせするついでに、Twitterで情報収集中です。

ふと、タイムラインのおすすめタブに流れてきた『あたしンち』のツイート。『あたしンち』と言えば、女子高生の主人公「みかん」や、おおざっぱだが何か憎めない「母」をはじめとするユニークなキャラクターの日常を描いたコメディです。もともとYouTubeの公式チャンネルを見ていた新入社員ちゃん、スクロールする手が止まります。台所で料理をする母、食卓を囲むタチバナ家…

新入社員ちゃん（以下、新入）：佐伯さん、『あたしンち』ってご存じです？ 私、YouTubeでよく見ているんですけど。

佐伯：全巻持っています！

新入：え、いいなぁ！ そういえば、タチバナ家の皆さんが住んでいるマンションって分譲ですかね？ いくらなのか、気になりません？

ストーリーの中でも多くの舞台となっているタチバナ家のマンションは、一体いくらなのか？ 新入社員ちゃんのこの一言から、マンション専門家集団による価格調査が始まったのです。

早速、タチバナ家マンション価格調査団が結成されました。新入社員ちゃん、この機会に『あたしンち』全21巻を読破！ タチバナ家の世界にどんどんハマっていきます。その熱い気持ちをもって作者のけらえいこ先生に、タチバナ家のマンションを価格調査させてほしいとアプローチを試みますが…

新入：いきなりメールを送っても大丈夫かな？

　有名作品の作者を前に緊張気味。しかし、熱い気持ちは止まらない！ 思い切ってメールを送ります。

後日、仕事中の新入社員ちゃんPCに新着メールの通知が。もしかして、と恐る恐る開くと、けら先生事務所からのご返信！ しかもご快諾！ 新入社員ちゃんにとって初めての自分発信企画、気合が入ります。

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■井出上席主任研究員

東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。マンションで特に好きなものは間取り。

■石川鑑定士

東京カンテイにてマンションの評価・調査に携わる。中古マンションに特化した評価手法で複数の特許を取得する理論派の一方、「マンションマイスター」として、自ら街歩きとともにお勧めマンションを巡る企画を展開するなどユニークな取り組みも。

■佐伯調査員

大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。マンション調査員として年間2000棟以上のマンションの実査を務める。

『あたしンち』全巻保有者、YouTubeも拝見。

■新入社員ちゃん

東京カンテイに入社したばかりの新入社員。質問係を務める。

Twitterやweb領域を担当。『あたしンち』はYouTubeとTwitterを見ていた。

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　数日後のマンション図書館企画会議の日、新入社員ちゃんのデスクには『あたしンち』がタワーのように積み上がっていました。単行本のところどころから覗く付箋。新入社員ちゃんなりに、マンションの設備や仕様が分かるシーン、価格調査に関わるであろうシーンをピックアップしていたのです。会議では、これらのシーンをもとにタチバナ家のマンションの姿を導き出していきます。

　けらえいこ先生公式ホームページには、タチバナ家の間取り図も掲載されていました。父母、みかん、ユズヒコそれぞれの個室がある３LDKです。

井出：この間取りだったら、少なくとも専有面積は80㎡あるよね。最上階・角部屋だから、他の部屋よりも広い85㎡くらいあるプランかもしれない。

佐伯：エントランスのポストの数や並び方から察するに、5階建てで1フロアに5戸ありますね。となると、建築面積は1戸80㎡×1フロア5戸＝400㎡。隣の工事は「よっぽどな豪邸」が建つ規模みたいなので、ここの用途地域は準住居地域など、ある程度の大きさの建物が建てられそうです。みかんの通学路でのエピソードがあったかと思いますが、最寄り駅まではバスを使う立地みたいですね。マンションからバス停まで5分、乗車時間5分で、駅まで歩くと25分くらいかな。

新入：工事のシーンは、騒音に関連するかなぁと思っていたのですが、そんなことまで分かるんですね！

石川：1フロア400㎡の5階建てということは、延べ床面積は400×5＝2,000㎡になります。前面道路は一定の交通量・幅があるようなので、こういった幹線道路沿いにあってマンションを建てるのに適した土地を想定すると、建蔽率60％／容積率200％の建築制限がしっくりきますね。であれば、敷地面積は1,000㎡あると思います。延べ床面積が販売収入につながるので、デベロッパーは容積を目いっぱい使いたいわけです。1,000㎡の敷地に建築面積400㎡ですから、建蔽率60％もクリアできていますね。

佐伯：リビングと父母の部屋は南東向きで確定ですね。たぶん敷地北側に駐車場があるのだと思います。エントランスはオートロックがなさそうだし、1階の建物中央にあるんだろうな…

新入：？？？建築制限とか、駐車場とか、エントランスの位置とか、どうして分かるんですか？

佐伯：僕は年間2000棟のマンションを見ているから、ですかね。経験でおおよそ推測できるようになるんですよ。

新入：これがマンション調査員の特殊能力…！

井出：あと、2段サッシやレンジフードの形が80年代を感じさせますね。バルコニーの手すりにコンクリートが使われているあたり、民間の分譲っぽいなあ。

新入：ユズヒコが小さいときに引っ越してきた描写があったので、漫画連載当時の90年代で中学2年生となると、引っ越しから約10年後ですね。新築で入居したのであれば、80年代の特徴が見られるのは納得です。年代によって、マンションのつくりに特徴があるんですね！ というか見ただけで年代が分かるなんて、これも特殊能力か…

佐伯：80年代だとオートロックのあるマンションって珍しいですよね。一般家庭が購入するようなマンションには、ほとんどなかっただろうなぁ。価格を判断するときにどう影響するかは考えておきたいですね。…ところで、ずっと気になっていたんですが、メーターボックス横のスペース、なんだと思います？

井出：本当だ。水回りから離れているからパイプスペースではなさそうだし、扉もない。これは何だ？？

母が不燃ごみの一時置き場にしている「ゴミメーター」ならぬメーターボックス横、謎のスペースにざわつく専門家たち。百戦錬磨の専門家の脳内にも、ヒントになるような知識はなかったようで、答えは出ず…

新入：まさかこのスペースで皆さんが議論するとは！ 私は疑問にも思わなかったです。さて、（謎スペースは謎のままだけど）だいぶタチバナ家のマンションの姿が見えてきました！ できれば漫画の中にマンション全体が登場していたら、私たちの予想が当たった！って言えるんだけどな～

佐伯：あ、ちょっとこれ見てください。『あたしンち』劇場版オープニングなんですけど、マンションの外観が映っています。中央にエントランス、反対側に駐車場という配置はだいたい当たってそうですね。

新入：本当だ！ ぐっとタチバナ家に近付けた気がします！

漫画をヒントに、タチバナ家のマンションの全体像が見えてきました！ これをもとにモデルとなるようなマンションを見つければ、価格を割り出せそうです。

新入：作品の舞台って、東京の田無駅やひばりヶ丘駅なんですよね。ウェブマップで近いマンションを探してみます！

早速PCを開く新入社員ちゃんですが…

佐伯：ちょっと待った！ 現地に行かなくちゃ分からないことがたくさんあります。現地に行きましょう！

新入：えっ？ 現地に？？