甘い生活2021/12/15

家で仕事をする時間が劇的に増え、それが会う人合わない人、嬉しい人嬉しくない人がいることが、この2年間ではっきりわかった。そして、リモート生活が実は性に合っていることがわかった人は、コロナ収束の兆しが見えてきた途端、何事もなかったように出社命令が出たりして、これまでにないストレスを溜めているのだろう。

 

働き方改革はコロナ前から進められていたもの、それがコロナで一気に進み、世の中は劇的に変わるだろうと思ったものの、やはりそこは保守的な日本、元に戻ろうとするベクトルが思いのほか大きかったと言うこと。それでも、自宅の位置づけはきっと大きく変わったはずだ。それこそ多忙を極める人にとっては“帰って寝るだけの場所”だったのが、突然“仕事場”として浮上したのだから。

 

以前書いたコラムでは、部屋の模様替えをする人が多いことを取り上げた。言うまでもなくリモートの画面に部屋の中が映るから。もちろんバーチャルな背景に切り替えることもできるけれど、何か自分の家が客観的にどのように映るのか、それを見たことで、暮らしを改めなければと思った人が少なくなかったということなのだろう。

 

でもさらに、リモート生活が長くなるにつれ、家の中での働き方も少し変わってきた。どこで仕事をしたら1番落ち着くか、最初はそういう発想だったのに、パソコン1つあればどこにでも動ける、いわゆる「フリーアドレス」的な発想が家でも展開されるようになっていった、そう考えてもいいのではないだろうか。

 

最初は家族の視界から逃れるような場所を探していたのが、リビングでも仕事ができるようになったりする意識の変化もあったはず。なんとなく周りがざわついていたほうが仕事に集中できたりするような、ちょっと不思議な心理にまで気づいた人がいるはずなのだ。

 

よく言われるのは、東大合格者には家族がいるリビングで勉強する生徒が多いということ。その数半数とも、8割とも言われるほど。それは一体なぜなのか? 一つに、家族がテレビを見ていたりする中で勉強することによって、集中力が身に付くこと。また勉強と日常の差がなくなることで、勉強が嫌でなくなること。勉強したりおしゃべりしたりと言う方が、勉強が楽しく感じられたりもすると言うことなのだろう。

 

実は私も、たった1つの特技が、テレビを見ながらでも原稿が書けること。映画を見ながらだって仕事ができる。もちろん仕事に集中するあまり筋が飛んでしまうこともあるけれど、そういう「ながら」の方が仕事がはかどったりするのである。逆に言えば、あえてそういう環境を作ってあげているといってもいい。フリーとして家で仕事することが多いこともあり、それこそ、仕事部屋にこもると気持ちが暗くなり、自分は仕事ばっかりしている不幸な女、そう思えてくるからこそ、わざわざテレビの前で仕事をしているのだ。東大には100年勉強しても入れないだろうが、リビング勉強のその効果はとてもよく理解できるのである。

 

リビングばかりじゃない、お天気の良い日はテラスにコーヒーを持って仕事に行くし、ダイニングが気分の日もある。このコロナ生活になって買ったエアロバイクに座りながらiPadを持ってという日も多々。いずれにせよ、どこでだって仕事ができると思うにつれ、厄介な仕事も厄介でなくなる感覚があったのだ。

 

そう、バスルームでだってできるし、キッチンでカレーを煮込みながらでもいい、季節が良くなったら夜の庭も心地良い。そうやって家の中をフリーアドレス化していくと、仕事はもう少し楽しいものになるのではないかと思うのである。少なくとも、オフィスにおけるフリーアドレス化では、自分のペースで自分の気分で仕事ができることを喜ばしく思った人は多いはずで、家も同じ。自分らしい仕事の仕方ができるはずで、リモートはもうたくさんと言う人も、自分の中に働き方改革を起こしてみて欲しい。

 

ちなみに、従来のデスクワークは寿命を縮めると言う説もある。同じ姿勢で長時間椅子に座っていることが、血行を悪くし巡りを悪くするからで、時々立ったまま仕事をすることを推奨しているオフィスもあるほど。だからパソコン持って家の中を歩きまわると言うのも1つの健康法なのである。

 

そうやって家の中のあちこちで仕事をするうちに、家をもっと魅力的にしたいと思うようになるかもしれない。ソファーを仕事をしやすいものに変えてみたり。トイレの壁紙を変えてみたくなったり。いっそテラスを作ってしまったり。それだけで少しだけ人生が変わる気がすると思うが、どうだろう。

 

 

 

齋藤薫 美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーと幅広く活躍。『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『されど“男”は愛おしい』(講談社)など著書多数。

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