バビロン再訪~バブル時代のマンション物語~2021/4/12

「R50的買い食いのすすめ ~コロッケサンド前編」で買った《ペリカン》の食パンに合わせるポテトコロッケを選ぶ。

 

必須条件は、ただ一つ、ラードで揚げたコロッケであるということ。コロッケという昭和を代表するおかずの唯一にして最大のポイントは、ラードで揚げる、この一点である。

 

じゃがいもの種類、タマネギの炒め具合、豚挽の割合、ナツメグの利かせ方、パン粉の吟味、さまざまな形状の試行錯誤などは、それに比べるとトリビアルな、どうでもよいイシューと言っても過言ではないほど、コロッケにとってラードで揚げることは大切だ。しかも良質なラードで揚げることが。

 

ラードで揚げることは単純で容易だが、簡単ではない。何個かのコロッケを揚げられる量のラード、できれば2リットルぐらいのラードを保管・維持することは、普通の家庭ではなかなかできないことだからだ。

 

そこで登場するのが、まちの肉屋だ。今回フィーチャーするのが、学芸大学の《栄屋》のポテトコロッケ。《栄屋》は昭和39年創業の精肉店で、現在の店舗は昭和44年(1969年)からと、すでに50年以上の歴史を有する。

 

 

清潔だが、整然としすぎない。無頓着だが、決まっている。どこにでもありそうだが、めったにない。これこそ、まちの肉屋、これこそ買い食いにぴったり、これこそ探していた店だ、と思わず膝を打つ佇まい。

 

揚げ物はすべて注文が入ってから揚げる。揚げたてコロッケが一個80円という良心的な値段。揚げたてフライが入った各種お弁当も用意されている。こちらもコロッケ弁当がなんと480円という驚愕価格である。

 

 

特筆されるのは店構えや値段だけではない。《栄屋》ではコロッケの最重要事項であるラードが自家製なのである。《栄屋》のコロッケが、香ばしくや甘さが際立ち、脂っぽくないところは、自家製ラードの質と新鮮さ故だ。

 

早速、ポテトコロッケを揚げてもらう。値段からくる予想を優に裏切る厚さ2センチを超えるボリュームのあるコロッケだ。熱々の揚げたてからは、ラードの香りが立ち上り、その場で買い食いしたなるのを抑えるのが一苦労だ。ここはじっと我慢だ。

 

コロッケパンは、パンとコロッケだけと書いたが、実は忘れているものがある。ソースと辛子である。

 

浅草のパンと学芸大学のコロッケに合わせるのは、武蔵小山発祥の地元ソース「ポパイソース」と、これら国産品とは一転のアメリカ産「フレンチ・マスタード」だ。

 

 

「ポパイソース」は、武蔵小山で創業したポパイ食品工業のソース。とんかつ&フライソースと銘打たれているように、揚げ物向けソースとして開発された商品。濃厚な旨味とフルーティーな酸味と意外に辛い後味が、揚げ物との相性がぴったりだ。東京カンテイさんの地元、目黒のとんかつの名店《とんき》のソースのベースになっているのもこちらのソースだとか。ちなみにポパイ食品工業は現在はライフドリンクカンパーに合併され、工場も茨城にある。

 

一方の「フレンチ・マスタード」 French’s Musterdは、フランスの辛子ではなく、アメリカ人のフレンチさんが開発したことから命名された商品名。1904年の商品化からすでの100年以上の歴史を誇る、アメリカのホットドッグには欠かせない定番マスタードだ。辛さはほとんどなく、ややビターな酸味が油ものを引き立てる。

 

パンを切って、網でこんがり焼いて、コロッケを乗せて、ソースとマスタードをかけまわす。ものの5分もかからない。

 

 

 

はたして夢のコロッケサンドの出来はいかに?

 

パンとコロッケのそれぞれが、その個性と存在感を遺憾なく発揮する。ソースとマスタードの味と香りが仲立ちとなって、パンとコロッケは刻々と混然一体となり、個別が総合へと昇華され、コロッケサンドとしか言いようのない、新しい味覚と食感へと生まれ変わる。

 

それは、ぼんやりとした、どっちつかずの、あいまいなコロッケサンドではなく、優れた四重奏のようなコロッケサンドだ。

 

 

 

大村哲弥 一級建築士/ブロガー

有限会社プロジェ代表:1984年、セゾングループのディベロッパー株式会社西洋環境開発に入社。住宅・マンション事業のマーケティング・商品企画・事業企画に従事する。バブル前夜からバブル崩壊とその後のカルチャーシーンのなかで20歳代、30歳代を過ごし、不動産ビジネスに携わる。1996年、有限会社プロジェ設立。建築・住宅分野のコンサルティング・商品企画・デザイン・執筆などを手がける。東京工業大学大学院修了。一級建築士。

ブロガー:本・映画・音楽・アート・デザイン・ファッション・都市・建築・食・料理・旅・暮らし・まち歩きなどのカルチャーフィールドを横断的に渉猟・論考するブログを主宰。

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