LIFE IS BEAUTIFUL!!! 山田英幸のもの・ものがたり2019/2/9

好きなものだけに囲まれて暮らしたい。

毎日の暮らしを、わがままに、自分好みに美しく整えたい。

そのために必要なのはたっぷりのお金!!

ではありません。

ちょっとしたアイディアや工夫、少しの手間、そして何より一番大切なのはどれだけそのものを愛せるか、ということ。

 

身のまわりのものを愛する、ということは、暮らしを愛する、ということ。

それはつまり、人生を、自分を愛する、ということだと思います。

ちょっとしたことで、暮らしはもっと美しくなる。

人生も、もっと美しくなるのではないでしょうか。

 

 

「鬼手」と呼ばれる目の荒い印度更紗と、その更紗で作った仕覆。包まれているのは伯父作の赤楽茶碗です。

 

人には「紙の人」「布の人」「木の人」「石の人」などがあり、何に対して一番親近感を持つか、すなわち何に触っているときに一番落ち着くか、うれしいか、ということで分類ができるそうです。このことは以前にも書きましたが、自分は断然「布の人」なんだと思います。

なかでも木綿は格別です。

さまざまな高品質な新素材が開発された現在でも、自分は肌着など直接肌に触れるものは木綿でないと落ち着きません。

 

仕覆というものを作っていますが、木綿や絹などの布に触れている時間が理由なく好きで、落ち着くという以上の高揚感を感じることができるのは、趣味あるいは作業・仕事として自分に向いているのだといえるのかもしれません。

 

さまざまな印度更紗の端切れ。左上のものは珍しい手描きで18世紀くらいあるかもしれません。

 

仕覆を作るようになり、最初は練習用として、実家にあった昔の絹の端切れなどを使って縫っていましたが、次第にそれでは物足りなくなり、あちこちで古い布を探すようになりました。

さいわい東京には何軒かそういった古くて珍しい布を扱う店があり、中でも青山骨董通りにある「古民藝もりた」ではご主人の森田直さんや奥さんにいろいろなことを教えてもらいました。

僕が仕覆に使う布の多くは「もりた」で買ったものです。

ほかには丸の内の「織田有」、荻窪の「呂藝」、広尾の「むら田染織ギャラリー」、銀座にもあった「灯屋2」(今はアンティーク着物の店になっていますが、昔は端切れなどもたくさん扱ってました)でもよく買いました。

そうそう、有楽町に「ゴリラクラブ」という店もあったな。店主の上野恭子さんにもお世話になりました。

あとは、京都の「ちんぎれや」と「今昔西村」、奈良の「大谷」。このくらい押さえておけば、僕が知る限りほぼほぼ日本の古裂の有名店は網羅している気分です。

 

仕覆に使う古裂を探しにそのような店を回るうちに、僕はすぐに印度更紗の魅力にはまりました。

仕覆は本来お茶の世界のもので、中国の布、古い緞子や錦などを使うのが正統なのですが、それらはおおかた絹織物です。それに対し、更紗は木綿。もっと軽くカジュアルで、格の高い仕覆には向きませんが、その代わり煎茶道具や茶籠道具、風呂敷や包み布にはぴったりだといわれています。そんな華やかでくだけた軽さが自分の好みなのかもしれません。

 

黄色の地色が珍しい印度更紗と、それで仕立てた茶籠の仕覆。

 

丸文の印度更紗と、それで仕立てた仕覆。江戸硝子の丸い文様と合わせました。

 

印度更紗のことを書こうとすると、布の歴史、染色の歴史の話になってしまうのですが、(ここでは詳しくは触れませんが)とにかく印度更紗は木綿の王様、あるいはプリント木綿のルーツだといえるのではないでしょうか。

 

一番の魅力はその手触りです。

鬼手と呼ばれる目の粗い織りのものは、そのざっくりした風合いと野趣が昔から日本人にも好まれてきました。工業化され均一な現代の布にはない、人の手の仕事、ぬくもりが感じられます。

あるいはキャンブリックなど、当時はより上質・高級だったらしいもっと細い糸で織られたものも、今のものにはないあたたかな手触りがあります。クリスピーとでもいうのでしょうか?時を経てパリパリとした感触はいつまでも触っていたいような気持にさせてくれます。

二番目の魅力はやはりその色。

多くは茜やコチニールの赤と藍、そして黒、の組み合わせなのですが、派手な色合いにもかかわらず落ち着いて見えるのは、それらが自然の染料であることと、長い時間の間に使われ、洗われ、色あせて落ち着いてきたからにほかありません。

 

小花文の印度更紗と、それで仕立てたぐい呑の仕覆。

 

魅力の三つめはその文様。

有名な更紗には人物文やライオンや蛇などの動物文もありますが、その多くは様式化された植物文。花や葉やその茎があるときはダイナミックに、あるときは繊細に布全体を覆うさまは見ていて飽きません。

 

そして印度更紗は世界中に輸出され、それぞれの消費地に合わせた文様図柄が開発されていきます。そのさまざまなバリエーションも魅力のひとつです。

 

ギザギザの鋸歯文様はインドネシア向けの印度更紗。新選組のはっぴの袖のギザギザのルーツはこれです。

 

ペルシャ向け。下のガーランド模様はヨーロッパ風ですが、そもそもはギリシャ・ローマ時代のもの。

 

茜の赤がきれいな手描きの更紗、こういうのはヨーロッパでも人気でした。マリー・アントワネットのドレスにもこんなのがあります。

 

数年前にロンドンに旅行したのですが、その時にヴィクトリア&アルバート美術館で印度更紗の展覧会をやっていました。

さすがもとインドを統治していた大英帝国、そのコレクションは素晴らしいものでした。

僕たちが30センチ四方ぐらいの端切れをありがたく買っている更紗の、そもそものオリジナルの大きさのものがたくさん展示されており、それも、とても保存状態がよく色鮮やかなままで、まるでレプリカかと見まがうばかりでした。

大英帝国のいにしえの栄華と、西欧文明によって「エスニック」にされてしまった偉大なインド文明との歴史も垣間見られ、なかなか複雑な思いもしましたが、このように膨大な量をきちんと「コレクション」してくれる「英国人気質」には大いに感謝して観覧しました。

 

壮観だった長さ10メートル近くある天幕。1650年ごろのものなのに、本当にきれいでした。

 

ヨーロッパで着られたジャケットとスカート。1750年ごろ。

 

「バニヤン」と呼ばれる男性の室内用コート。展示の中で一番好きでした。 画像3点は「Indian Chintz-A legacy of Luxury」展図録より。

 

 

英語では更紗は「Chintz」といいます。ふつう日本ではチンツというとチンツ加工、艶のある蝋引きの木綿のことを言いますが、英語では小花模様のこと。印度更紗が原型の花模様のことを指します。その後、コットンを絹に見せるために蝋引きしたものが現れ、それで蝋引き木綿のことをチンツと呼ぶようになったのだと思います。

 

アンティークの本場ロンドン、その旅行では名にし負うポートベローの骨董店街でそんな印度更紗:Chintzを探しました。

本場だからと期待しましたが、なかなか見つかりません。

尋ね歩き、かろうじて買ったのが下の写真のペルシャ更紗。

たくさんありそうなイギリスにも古くていい印度更紗はめったになく、有名オークションハウスでは古い布ばかりのオークションも開かれますが、とんでもなく高いんだそうです。しかも、日本人にはなかなか落札させてくれないのだとか。「英国の遺産」として国外流出させたくないのだ、とも聞きました。

 

ポートベローで買った布2種。右がペルシャ向けの印度更紗。 左は金糸のシルク。

 

そういうわけで、目下の夢はインドに行くこと。インドは高温多湿で古い布が残りにくく、そもそも古い更紗はもう出尽くしてなかなか見つからないといわれていますが、ラジャスタン、ジャイプールにある美術館に素晴らしい印度更紗のコレクションがあるんだそうです。

インドへの風、吹いてこないか待っているところです。

 

 

 

山田英幸

幼い時から美しいものが好きで、長年にわたり骨董・アンティーク・古裂・ヴィンテージテキスタイルなどを収集。

また手仕事も得意で、洋服、帽子、人形、テディベアなどを制作するが、1990年頃「究極の手仕事・仕覆」に出会い、現在も制作を続けている。

西麻布「ルベイン」「銀座松屋」などで仕覆展示会開催。

自称「手芸の国の王子様」。

 

とにかく、「もの」が好き。それにちょっとした工夫や手仕事をプラスすることで、身の回りを美しく、毎日を楽しくしたいと思っている。

愛知県名古屋市生まれ。現広告代理店クリエイティブディレクター。

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