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更新日:2024.09.24
登録日:2024.10.18

小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」

小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」

 「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。“東京物語”に出てくるマンションなんだけど、小津安二郎ファンが70年以上研究してもわかっていなくて。もし確定させられれば、“マンション図書館”史上最大の大発見になるよ」
 ある日の会議で“マンション図書館”館長・井出がいつになく熱く語った。平成生まれの私にとって、小津安二郎とは“世界の小津”と称される映画監督であることは知っていても、小津映画を観たことはなかった。館長たってのお願いとあらば、マンション図書館ライターとしての誇りを胸に、受けないわけにはいかない。まずは“東京物語”を観ることから、日本映画界70年来の謎を解き明かす挑戦が始まったのであった。

調査・検証内容は以下のとおりである。

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調査編
①小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは
②鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”
③“紀子のアパート”室内の特徴
④“紀子のアパート”共用部分の特徴
⑤“紀子のアパート”外観の特徴

検証編
①“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証
②”紀子のアパート”内部の検証

最後に:調査を終えて

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“紀子のアパート”共用部分の特徴

 次に廊下などの共用部分を見ていく。同様に、映画を観ながら平面図を可能な限り描き起こしたのが以下の図だ。室内に比べてシーンが少ないため、共用部分からわかることはあまり多くないが、それでも以下のような特徴が挙げられる。

①紀子の部屋と同じようなタイプの部屋が少なくとも3つ並ぶ
②向かいにも部屋がある(玄関扉が見える)→内廊下設計
③奥に共用の流し台と物干し場(?)、階段、左へ続く廊下がある
④カメラの手前に左へ続く廊下→廊下の直角曲がり角が2ヶ所以上
⑤共用廊下の天井はやや高いので最上階と思われる

 共用廊下に並ぶ玄関扉同士の間隔は長くなく換気窓が1枚あるのみ。このため、室内側の襖(劇中で開けられる場面はない)の奥がもう1部屋ということは考えにくく、押入れと考えるのが適当だろう。同じ間隔で玄関扉が3つ並んでいるので、紀子の部屋と同じ6畳タイプが3室並んでいるものと思われる。また、とみが紀子の部屋に泊まった翌朝に出ていくシーンには、紀子の部屋の真向かいにも玄関扉がチラリと映る。

 このため、共用廊下を挟んで線対称の配置で、もう3部屋ずつ並んでいるものと推察できる。現代のマンションでも、共用廊下の両側に部屋が並ぶ“内廊下設計”は、外気や雨水の影響を受けないため高級マンションに多く取り入れられているが、“紀子のアパート”でも内廊下設計が取り入れられているあたり、この時代なりの高級マンションと言えるだろう。

 また、特徴的なのが曲がり角に取り付けられている縦型の照明だ。とみがアパートに泊まった翌朝、紀子が階段脇の共用流し台で食器を洗い、部屋へと戻ってくるシーンで、階段と物干し場が接する角へトウモロコシのような縦型の照明が映っているのがわかる。これはおそらく当時まだ珍しかった蛍光灯ではないだろうか。衝突防止の意味もあるだろうが、廊下の角を引き締める装飾灯としても印象的なしつらえだ。同じものが紀子の部屋の手前(カメラ側)にも設けられているので、左手前側にも通路ないし階段が続くことがわかる。いわばコの字配棟(に近い)ということがわかり、“どこから撮っているのか”を特定する上で大きなヒントとなった。

 ただ、紀子や周吉・とみのセリフからは不明瞭な点も見受けられる。紀子の亡夫・昌二(8年前に戦死。公開当時=1953年の8年前とすると1945年=終戦の年)の遺影を見ながら「昌二は(酒の強さは)どうじゃった?」「いただきましたわ。会社の帰りなんかにどこかで飲んで、遅くなって電車がなくなると、よくここへお友達連れてきたりして…」という会話があるが、「ここ」=6畳一間に夫婦で住んでいたということになる。昌二の遺族年金があるのかもしれないが、BGの稼ぎがあるとはいえ寡婦となった紀子ひとりの稼ぎで高級賃貸マンションに住み続けているのは、いささか不自然かもしれない。

 また、とみがアパートに泊まるシーンでも「思いがけのう昌二の布団に寝かしてもろうて…」というセリフがあり、昌二が「ここ」で寝泊まりしていたことを窺わせる。現代の感覚では6畳間に二人暮らしは狭いようにも感じるが、東京物語を「封切館に3回観に行った」私の祖父も、祖母との結婚当初(1958年)は横浜・反町で6畳間の間借り暮らしであったから、当時としてはごく当たり前だっただろう。

▲寝る前に紀子がとみの肩を揉むシーン(1:13:35)。亡き息子・昌二の布団で寝ることに、とみは感傷に浸る。

▲寝る前に紀子がとみの肩を揉むシーン(1:13:35)。亡き息子・昌二の布団で寝ることに、とみは感傷に浸る。

※特記以外の画像は2024年5月筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。

佐伯 知彦

賃貸不動産経営管理士

佐伯 知彦

大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。

井出 武(マンション図書館顧問)

東京カンテイ顧問

井出 武(マンション図書館顧問)

1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
24年間、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。

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