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更新日:2024.09.27
登録日:2024.09.26
小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編①「小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは」
「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。“東京物語”に出てくるマンションなんだけど、小津安二郎ファンが70年以上研究してもわかっていなくて。もし確定させられれば、“マンション図書館”史上最大の大発見になるよ」
ある日の会議で“マンション図書館”館長・井出がいつになく熱く語った。平成生まれの私にとって、小津安二郎とは“世界の小津”と称される映画監督であることは知っていても、小津映画を観たことはなかった。館長たってのお願いとあらば、マンション図書館ライターとしての誇りを胸に、受けないわけにはいかない。まずは“東京物語”を観ることから、日本映画界70年来の謎を解き明かす挑戦が始まったのであった。
調査・検証内容は以下のとおりである。
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調査編
①小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは
②鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”
③“紀子のアパート”室内の特徴
④“紀子のアパート”共用部分の特徴
⑤“紀子のアパート”外観の特徴
検証編
①“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証
②”紀子のアパート”内部の検証
最後に:調査を終えて
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①小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは
まずは映画“東京物語”について簡単に解説しよう。“東京物語”とは1953年(昭和28年)公開の、小津安二郎監督(1903~1963)の代表三部作のうち最後に発表されたもので、親子関係や家族関係などに着目し続けた“小津映画”の中でも最高傑作と位置付けられている、日本映画の金字塔の一つだ。人気の絶頂にあったトップ女優・原節子(1920~2015)が主演、夫が戦死し寡婦となった嫁と、実子よりも気にかけてくれる嫁を思いやる義父の情を、無味乾燥な都会“東京”というフィルターを通して描くという、発表から70年以上経ってそのテーマと作風はなお色褪せていない。私の祖父(1932年生)の話で恐縮だが、“東京物語”という単語を出した途端、“横浜の封切館(下記!参照)に3回も観に行った”という70年前の興奮を色鮮やかに語ったものだから驚いた。それほど世に与えたインパクトが大きかったのだろう。
封切館
(ふうきりかん):新作映画を初めて上映する映画館。テレビが普及していなかった当時は新作映画を上映する封切館の料金が高く、公開1年以内の映画を遅れて上映する館を「二番館」「三番館」、旧作を安価な料金、複数本立てで上映する館を「名画座」と呼んだ。テレビの普及と共に「二番館」「三番館」が減少、現在は「二番館」「三番館」も「名画座」に含まれるが、それも徐々に数を減らしている。高額な封切館に行くことがまず贅沢で、それを3回観たというから、祖父の受けた衝撃の高さがわかる。東京の名画座としては高田馬場に現存する「早稲田松竹」が有名だが、当初松竹映画の封切館であったところ、早稲田大学生が主な客であったことから、学生の懐事情に合わせて次第に安価に鑑賞できる名画座へ移行したという経緯を持つ。ちなみに、東京カンテイが構える「目黒西口ビル」の地下でも名画座「目黒シネマ」が営業している。
▲当時の松竹映画によるポスター。画面左、灯篭の隣に腰掛けているのが主演・原節子。右側に立っているのが義父・周吉役の笠智衆。(https://www.amazon.co.jp/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%89%A9%E8%AA%9E-%E7%AC%A0%E6%99%BA%E8%A1%86/dp/B00FCAM9IE)
映画は、広島県・尾道(おのみち)で隠居生活を送る平山周吉(笠 智衆:りゅう ちしゅう)・とみ(東山千栄子)夫妻が、東京の下町(恐らく『北千住』周辺)で町医者を営む長男・幸一とその家族を東京見物がてら訪ね、美容院を営む長女・志げ(杉村春子)、三男で国鉄(大阪)に務める敬三(大坂志郎)も集まり、家族が再会するシーンから始まる。東京と尾道で離れていることもあって祖父・祖母に対する孫(長男・幸一の息子)の態度は素っ気なく、一見穏やかな家族の再会を描いているようで、実は心の距離までも離れていることが描かれている。そこに戦死した二男の妻・紀子(原節子)も加わるのだが、東京見物に連れていく約束であったところ、急患が入り幸一は外出できなくなってしまい、お出かけの予定が突然失われた孫も不機嫌を隠さない。美容院を営む長女・志げも時間がとれず、仕方なく義理の関係、それも寡婦の紀子が代わって周吉・とみを連れていくことになる。当時、寡婦は“未亡人”と呼ばれた時代だ。
“誰の自宅に父・母を泊めるか”で兄弟姉妹が揉め、熱海の旅館にやることにしたものの、毎日過ごす環境がころころと変わって、日頃変化の少ない生活を送るとみは体調を崩し、やむなく東京に戻る。ついには兄弟間で父母の押し付け合いとなり、父・周吉は知人と飲み明かし、とみは紀子の一間しかないアパートに身を寄せる。義理の娘に過ぎない紀子が一番周吉・とみを思いやってくれることにとみは感激するが、もう二度と戻ってこない夫を想うがために、若い紀子が再婚に踏み切れないのだろうかと一方で気を揉む。やがて予定を切り上げて周吉・とみは尾道へ帰るのだが、とみは東京での体調不良がたたって息を引き取る。弔問のため紀子も尾道を訪ねるのだが、ひとり残された周吉は、実子であっても冷淡な態度の息子・娘たちと、義理の仲であっても尽くしてくれる紀子の間で揺れ、家族とは何なのかを、変わらない尾道の海を眺めながら考える…というところで幕引きとなる。
▲紀子のアパートを周吉・とみが訪れる、代表的なシーン。http://cinemaonomichi.com/2016/08/05/820%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%89%A9%E8%AA%9E/
タイトルが“東京物語”というだけあって、紀子は“東京”の象徴として描かれている。まず、紀子の職が“BG”(Business Girl)であることだ(OL=Office Ladyという言葉が生まれたのは1960年代)。当時はまだまだオフィスワーカー(第三次産業従事者)が少なく、映画公開の1950年代では労働者全体の7分の1程度しかなく(金融保険・不動産業)、概ね2分の1が農林漁業という時代であった。社会へ出ずにすぐ家庭に入る女性も珍しくなかった中、全体の7分の1に過ぎないオフィスワーカーのうち女性社員はもっと少なかった。
その”先進的なBG”の中でも、紀子は寡婦ゆえに一人で住居を借りて生計を立てているという、“更に先進的なBG”として描かれている。当時は“一人暮らし”自体が珍しく、多くは“下宿”(自宅の一部に他人を間借りさせて代金を取る)という形をとった。女性の独居に際しては事情を聴かれたり、怪しまれたり、理由を付けて断られることもあったそうだ。“大東京でひとり逞しく生きているBG”という紀子の生き様に、70年前の観客はきっと驚きと憧れを抱いたことだろう。当代随一の美貌を誇った原節子が演じる都会的な女性・紀子と、田舎らしい訥々とした語り口のご隠居・周吉役の笠智衆がこれ以上ないほどのはまり役で、その対比が際立っている。これが70年前の作品であることに驚く。
▲東京タワーから息子・娘たちの自宅の方向を眺めるシーン(39:11)。紀子は洋装、とみは和装の対比が際立っている。
賃貸不動産経営管理士
佐伯 知彦
大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。
東京カンテイ上席主任研究員
井出 武(マンション図書館館長)
1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
現在、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。
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