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2023.08.21

危険負担とは?民法改正による変更ポイントをわかりやすく解説

危険負担とは?民法改正による変更ポイントをわかりやすく解説

せっかく購入したマンションが、天災のような契約者の責任とならない理由で失われてしまうケースがあります。この場合、誰が損害を負担するかは危険負担のルールに従って決定されるのが基本です。

令和2年4月の民法改正により、当事者同士の契約によって対応が異なっていた責任の所在がより明確になりました。

この記事では、危険負担についてわかりやすく解説しています。また、改正前と改正後の変更点についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。

危険負担とは

危険負担とは

危険負担とは

危険負担とは、売買契約が成立した後、目的物の損傷によって契約内容をスムーズに履行できなくなった場合の危険(責任)の所在について、民法で定められているものです。

 

たとえば、物件を購入した後(引き渡し前)に地震や隣家の火災からの延焼などで建物が消失・損傷してしまった場合、その責任は売主・買主のどちらが負うのか。それが民法によって定められているということです。

 

民法では、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」(※)と定義されています。

 

つまり、売主・買主双方に原因が無いことが原因で建物や土地が損傷・滅失した場合、買主は売主に代金の支払いを拒否できるということです。

 

※引用:民法

債権者主義とは

債権者主義とは、購入した建物が引き渡し前に損傷・消失した場合でも、債権者である買主が責任(代金)を負担しなくてはいけないことです。

 

ただし、引き渡し前に買主が目的物の損失や滅失の負担を負わされるのはリスクが高いため、民法改正によって廃止されました

債務者主義とは

債務者主義とは、債務者(売主)が消滅した債務を負担するという考え方です。この場合、買主は代金を支払う必要がありません。

鑑定士コメント

不動産取引における「引き渡し」の局面において、危険負担と債務不履行の違いは何でしょうか?危険負担は、当事者双方に責任の無い事由によって引き渡しができなくなってしまった場合に、責任の所在を民法で決められたもので、債権者(買主)が債務者(売主)に対して代金の支払いを拒否できます。一方、債務不履行は、債務者(売主)に責任がある事由によって引き渡しができなくなってしまった場合のケースで、民法により、債権者(買主)が債務者(売主)に対して損害賠償を請求することができるとされています。

危険負担に関するおもな改正点

危険負担に関するおもな改正点

危険負担に関するおもな改正点

民法改正により、変更された危険負担に関するおもな改正点は次の3つです。

 

・債権者主義の廃止

・危険負担の効果として、反対給付債務の履行拒絶権を付与

・危険の移転時期の解釈を変更

 

 

改正前の危険負担では、目的物の滅失や損傷があった場合、買主も代金を支払う義務が生じていました。しかし、これは引き渡し前にもかかわらず、買主が負うリスクが高いことから従来より批判が強かったものでした。

債権者主義の廃止

前述した通り、民法改正によって債権者主義は廃止されています。引き渡し前、つまりまだ支配下・管理下に無い目的物が損傷・滅失した場合にも買主が代金を負担しなくてはいけないのが「債権者主義」です。

 

民法改正前の実務では、当事者間の合意のもと、引渡し時や代金の支払いタイミングを基準として、危険(責任)の移転時期を決定していました。

 

しかし民法改正後はこの債権者主義が廃止されたため、買主にとってのリスクが減ったのです。

危険負担の効果として、反対給付債務の履行拒絶権を付与

今回の改正によって、買主・売主双方に責任の無い事由によって引き渡しが行えなくなった場合、債権者が反対給付の履行を拒絶できる、と定められました。

 

つまり、買主は代金の支払いを拒否できるということです。代金の支払いを拒否する場合、買主は契約を解除する必要があります。

危険の移転時期の解釈を変更

改正前の民法では、売買契約後、いつの時点から危険(責任)が売主から買主に移転するのか明記されていませんでした。

 

そのため契約によって双方合意の上で、危険(責任)が移転する時期が異なるケースもありました。つまり、引き渡し時であったり契約した時点であったりしたわけです。

 

今回の民法改正で、危険(責任)の移転時期は「引き渡し時」と明記されるようになりました。つまり、引き渡し前に契約が履行できないのであれば責任は売主にあり、引き渡し後に生じた損傷や滅失についての危険負担は買主にあるということです。

 

民法第567条では以下のように定められています。

 

「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。」(※)

 

※引用:民法

危険負担で見直すべきポイント

危険負担で見直すべきポイント

危険負担で見直すべきポイント

売買契約をする際には危険負担について注意しておきたいポイントが多々あります。民法の改正点をふまえて、どこをチェックしておくべきか、売主と買主の立場に分けて見ていきましょう。

売主の立場でチェックしておきたいポイント

契約の際に、契約内容が民法の定めた通りとなっているかチェックしておきましょう。

 

民法には基本的に契約自由の原則があります。そのため、民法改正で「債権者主義」は消滅したものの、買主の責任が消滅しない特約条項を設定することは可能です。

 

ただし、この債権者主義は、買主にとってリスクが大きいものです。この場合、買主からの抵抗や反発があり、そもそも契約に至らないこともあります。

 

民法改正では、危険移転の時期は「引き渡し時」だと決められています。(※)

 

それまでの危険負担は売主がしなければいけませんが、引き渡しがスムーズに行われた後は買主に危険負担の責任が移転します。契約の際は、民法の定めた通りとなっているかチェックしておきましょう。

 

※参照:民法

買主の立場でチェックしておきたいポイント

買主の立場で注目すべきなのは、特約条項にて「債権者主義」となっていないかどうかです。危険の移転時期はできる限り遅い方が買主にとっては有利になります。

 

民法通りに定められているか、買主に不利な条項が設けられていないか、しっかりチェックしておくと安心して売買契約ができるでしょう。

鑑定士コメント

危険負担が問題になるのはどんな場面でしょうか?危険負担が問題となるのは、災害や延焼などによって目的物が消失してしまった場合です。売主・買主どちらにも責任が無いにもかかわらず、目的物が損傷・滅失してしまってスムーズに引き渡しが行えない場合に危険負担が適用されます。

まとめ:民法改正における危険負担について把握しておこう

まとめ:民法改正における危険負担について把握しておこう

まとめ:民法改正における危険負担について把握しておこう

民法改正によって危険負担の内容が変わりました。これまでと違って買主にとっては有利になっていると言えます。

 

また、危険負担の移転時期が明記されたことによって、解釈や意見の食い違いなどトラブルの減少が期待できます。売買契約をする際には、しっかりと契約条項を確認しておきましょう。

石川 勝

不動産鑑定士/マンションマイスター

石川 勝

東京カンテイにてマンションの評価・調査に携わる。中古マンションに特化した評価手法で複数の特許を取得する理論派の一方、「マンションマイスター」として、自ら街歩きとともにお勧めマンションを巡る企画を展開するなどユニークな取り組みも。

本記事で学んだことをおさらいしよう!

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