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更新日:2024.09.24
登録日:2024.10.25
小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編⑤「“紀子のアパート”外観の特徴」
「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。“東京物語”に出てくるマンションなんだけど、小津安二郎ファンが70年以上研究してもわかっていなくて。もし確定させられれば、“マンション図書館”史上最大の大発見になるよ」
ある日の会議で“マンション図書館”館長・井出がいつになく熱く語った。平成生まれの私にとって、小津安二郎とは“世界の小津”と称される映画監督であることは知っていても、小津映画を観たことはなかった。館長たってのお願いとあらば、マンション図書館ライターとしての誇りを胸に、受けないわけにはいかない。まずは“東京物語”を観ることから、日本映画界70年来の謎を解き明かす挑戦が始まったのであった。
調査・検証内容は以下のとおりである。
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調査編
①小津安二郎監督の傑作“東京物語”とは
②鉄筋コンクリート造集合住宅の範となった“同潤会アパート”
③“紀子のアパート”室内の特徴
④“紀子のアパート”共用部分の特徴
⑤“紀子のアパート”外観の特徴
検証編
①“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証
②”紀子のアパート”内部の検証
最後に:調査を終えて
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【前回の記事】
小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:調査編④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」
館長井出の一言から始まった本企画、全8回にわたって調査・検証していく。
今回は④「“紀子のアパート”共用部分の特徴」について語っていく。
“紀子のアパート”外観の特徴
“東京物語”に差し込まれている“紀子のアパート”のカットに映る住宅には、いくつか特徴的な要素がある。それらの要素を分解してみよう。
① 少なくとも3階建て以上
② 屋上には階段室(少なくとも4か所連続)と洗濯物干し場がある
③ ダストシュートがある
④ ダストシュートが短い間隔で連なる
⑤ 道路向いには2階建て民家がある
まず、外観で目を引くのは窓脇に連なるダストシュートだ。まるで焼却炉か配管のようにも見えるが、最上階住戸の窓の手摺の高さで止まっている上、窓下に投入口があるのでダストシュートとわかる。さらに、投入口は1戸に1か所あればよいので、ダストシュートの縦管が窓3枚分程度の短い間隔で連なっていることから、1戸あたりのスパンが短い=専有面積が狭い間取りが中心とわかる。
各戸にダストシュートが設けられているのは、現代のマンションでは逆に退化してしまった部分であり(多くの場合1階のゴミ置き場まで持参しなければならない)、ましてや70年前といった時間軸において、その先進性の高さは人々の憧れとなったことであろう。
ダストシュート
初期の集合住宅で一般的であったものの、廃れてしまった設備として代表的なのがダストシュートだ。ダストシュートとは、窓前や共用廊下にゴミ袋の投入口があり、ここへ投入したゴミ袋が一番下に溜まり、作業員が回収するといったもの。居室内部にゴミを溜めずに済むので、集合住宅ゆえの課題である“全戸で衛生的な環境を保つ”上でも先進的な設備であった(鉄筋コンクリート造は木造よりも密閉性が強く、結露や悪臭を防ぐため、入居者全員が換気と衛生に配慮する必要があり、戦後の公団住宅に至るまで入居者に対する教育として徹底された)。ただ、可燃・不燃といった分別収集が難しいこと、1階住戸への影響が避けられないこと、日本の特性として生ゴミが多く腐敗しやすいこと等の解決が難しいため、公団住宅以後の民間分譲マンションには普及せず、既存のダストシュートも使用を停止または撤去されることが多かった。
ダストシュートに代わるゴミ回収のサービスとして、現代の高級マンションでは各階ゴミ置場の設置、戸別回収の実施(玄関脇に戸別に設けられた“ガーベッジスペース”にゴミを置くと回収してくれる)がある。また、生ゴミの衛生的な処理という点ではディスポーザーの設置があり、こちらは高級マンションだけでなく、スケールメリットを活かせる大規模マンションでも設置例がある。
また、屋上に4つ並んだ階段室らしき建屋と、その間の洗濯物干しスペースも目を引く。専有部分内に水回りがないため洗濯は屋上に設けられた洗濯スペースで行い、屋上は物干しも兼ねていた。布団を居室の手摺りで干している部屋も見受けられるが、これは水洗い後ではなく日干しだろう。なお、洗濯機が一般に普及するのは一般に1950年代後半以降なので当時は高級物件といえどもタライと洗濯板であり、タライと思しきもの(寿司桶かもしれない)は紀子の部屋内にも置かれている。
裏側のカットがないので詳細は不明だが、共用廊下のカットを観る限りいわゆる二戸一階段ではなく、今日でも一般的な“廊下に玄関扉が並ぶ”構造であり、4つ並んだ建屋が階段室だとすると、階段が4つもあるのは不自然である。4つ並んだ建屋は階段室ではなく、洗濯機が置かれた洗濯スペースであった可能性もあるが、規則的に4つ並んだ建屋は特定する上での大きなヒントになる。
▲カットを並べて再掲。屋上の階段室と、ダストシュートは大きな手掛かりになりそうだ。
また、道路向いに映りこんでいる2階建て民家もヒントになりうる。明治神宮表参道に面した“青山アパート”や「茗荷谷」駅前の春日通りに面した“大塚女子アパート”に代表されるように、同潤会アパートは割と開放的な立地が多い。そうした中、小道を挟んで向かいが2階建て民家という建て込んだ立地に開放感は少なく、借景となる緑や水の流れも無さそうで、これもアパート周囲の状況を特定する上での手がかりになる。
次回:小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:検証編
映画本編の検証が済んだところで、向かったのは東京都北区・赤羽台にある“URまちとくらしのミュージアム”。いわゆる公団住宅→UR賃貸住宅に限らず、集合住宅全般の歴史を辿る上で、やはり現代の“マンションの始祖”、鉄筋コンクリート造集合住宅のパイオニアである同潤会アパートは欠かせない存在であることから、同潤会アパート関連の展示も充実しているのだ。同潤会アパートは残念ながら全て取り壊されてしまっているため、実地調査はしようがない。そこで、ミュージアムに展示されている復元住戸や資料を参照しながら、撮影場所の特定を試みることにした。ミュージアムで得られた収穫、そして“誰も辿り着けなかった結末”とは。次回(2)検証編、どうぞお楽しみに!
▲“URまちとくらしのミュージアム”。2023年9月にオープンした、住宅業界でも話題のスポットだ。
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小津映画「東京物語」・紀子のアパートを探せ!!:検証編①「“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証」
「“紀子のアパート”を探してくれないかな、佐伯さん。」
館長井出の一言から始まった本企画、全8回にわたって調査・検証していく。
今回は検証パート①「“URまちとくらしのミュージアム”で「外観」の検証」について語っていく。
※特記以外の画像は2024年5月筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。
賃貸不動産経営管理士
佐伯 知彦
大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。
東京カンテイ上席主任研究員
井出 武(マンション図書館館長)
1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
現在、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。
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