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更新日:2026.06.30
登録日:2023.11.22

【専門家解説】長期修繕計画書とは?役割や作り方の手順・注意点を解説!

【専門家解説】長期修繕計画書とは?役割や作り方の手順・注意点を解説!

「長期修繕計画書には何が書かれているの?」
「長期修繕計画書の作成方法がわからない…」

マンションの長期修繕計画書を作成・確認する際に、上記のような疑問や悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。

マンションの「長期修繕計画書」とは、将来発生する修繕費用と、そのための積み立て状況を可視化した、いわば「収支のシミュレーション」です。いつ・どの程度の費用が必要になるのかを把握しておくことで、将来の金銭的負担(修繕積立金)が妥当かどうかを判断するための、極めて重要な指標になります。

本記事では、長期修繕計画書の役割や具体的な内容を、マンション管理・売買仲介の現場を知り尽くした東京カンテイのマンション専門調査員・今村浩一の解説を交えながら詳しく解説します。

最後まで読めば長期修繕計画書の見方や作り方がわかります。ぜひ参考にして、自分の住むマンションに合った修繕計画を立ててください。

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長期修繕計画書とは

長期修繕計画書とは

長期修繕計画書とは

長期修繕計画書とは、マンションにおける修繕工事の計画を、長期的に取り決めて記しておく書類のことです。国土交通省は「長期修繕計画作成ガイドライン」において、マンションの管理組合に対して長期修繕計画書の作成を推奨しています。ただし、このガイドラインは任意の指針であり法的拘束力はなく、作成義務はありません(※)。

 

マンションを含む建物は、築年数が古くなるほど、ひび割れやタイルの剥がれなどの劣化が発生しやすくなります。劣化した部分を放置すると後々重大なトラブルに繋がりかねないため、定期的な修繕工事で補修することが大切です。

 

長期修繕計画書には、修繕工事の時期や方法のほか、資金計画も記載されます。マンションの共用部分における修繕工事は、住民から集めた修繕積立金で補修工事をするのが一般的です。

 

※参照:国土交通省|マンション標準管理規約

【専門家解説】長期修繕計画ガイドラインの基礎と最新改定内容!修繕積立金のリアルも紹介

ここで、不動産の適正価値を判定する専門家である「不動産鑑定士」からのアドバイスも紹介します。

鑑定士コメント

長期修繕計画書の作成は、国土交通省の「マンション標準管理規約」第32条第3号において、管理組合の業務のひとつとして定められています。ただし、マンション標準管理規約はあくまで任意の標準モデルであるため、法律上の強制義務ではありません。また、計画書の内容を定期的に見直すことは管理組合の義務となります。住民が安全に暮らすためには、マンションの状況に合った長期修繕計画書を作成し、その後も内容が適切であるかを見直し続けることが求められます。

長期修繕計画書の役割と定義

長期修繕計画書の役割と定義

長期修繕計画書の役割と定義

長期修繕計画書がなぜ必要なのか、誰がどんな視点で関わっているのかを整理しておきましょう。

 

役割と前提を理解しておくと、後ほど解説する「見るべきポイント」の意味や「作り方」もぐっと掴みやすくなります。

 

・将来のマンション収支を可視化する「経営の羅針盤」

・立場によって異なる「3つの視点と役割」

・ガイドラインと「建物の個別性」の適切な融合

・小規模・大規模マンションで異なる計画の「作り方と難しさ」

将来のマンション収支を可視化する「経営の羅針盤」

長期修繕計画書のいちばんの役割は、将来発生する修繕費用と、積み立てるべき収入のバランスを予測することにあります。

 

区分所有者にとっては、自分が毎月支払う修繕積立金が妥当なのかを判断する材料になり、購入検討者にとっては、そのマンションが将来どのくらいの金銭負担を抱えているのかを見極める客観的な指標になります。いわばマンションの「経営の羅針盤」といえる資料です。

 

長期修繕計画書は「将来の修繕計画」と「組合の収支」

「個人の修繕積立金の負担・増額の目安」を確認するもの(今村談)

将来のマンションの修繕計画と、管理組合の収支(収入と支出)を確認するためのものです。それによって、組合員一人ひとりの修繕積立金の負担額や、増額の目安をある程度把握できる指標になります。 

立場によって異なる「3つの視点と役割」

長期修繕計画書は、複数の立場の人が関わりながら作られ、判断されます。それぞれ重視するポイントが少しずつ異なります。

 

立場

重視するポイント

管理会社

標準的で汎用性の高い「運用のしやすさ」を重視した案を提示する

設計事務所

客観的な第三者の専門家として、そのマンションの実情に合った「専門的な知見」を提供

管理組合

住民にとって「納得感のある負担か」という視点で最終判断を行う

 

設計事務所は「確認・セカンドオピニオン」の色合いが強い(今村談)

管理会社は多くのマンションを管理しているので、どうしても運用のしやすさが重視され、どこのマンションでも適用できる標準的な内容になることもあります。設計事務所は管理会社とは違う客観的な第三者視点での専門家なので、より実情に合った提案をしてくれるかもしれません。


ただし、管理会社も劣化診断などを通じて状況を判断する専門家なので、そこまで大きく変わるかというところはあります。設計事務所はあくまで確認の色合い、セカンドオピニオン的な利用で「これで大丈夫ですよ」と確認できるくらいのものだと思っていただければと思います。


管理組合は、やはり一人ひとりの修繕積立金の支払いがあるので、納得感のある負担かどうかを気にされている印象です。

ガイドラインと「建物の個別性」の適切な融合

修繕周期や工事項目、費用といった計画の根拠は、国土交通省のガイドラインを基準としつつ、個別の劣化状況を反映し作成されています。

 

具体的には、外壁・屋上防水の状況、鉄部塗装のサビの発生度合いなどが報告され、それが根拠になります。

 

修繕は「早める」より「後ろにずらす」ケースが多い(今村談)

基本的には国土交通省のガイドラインをもとにしつつ、それぞれのマンションの劣化状況を個別に判断しながら調整していきます。たとえば漏水が頻発しているマンションであれば、そろそろ給排水管の更新・更生工事を検討する必要が出てきます。


ただし、現場の感覚としては、どちらかというと工事の時期を後ろにずらすことのほうが多い印象です。

 

もちろん、早めに修繕をするに越したことはありません。ただ、資金の都合もあるため、総合的な判断が大切です。 先送りにしてもよさそうな状況であれば先送りにする、というのも一つの正解です。何でも早く全部やればよいというものではありません。このあたりの塩梅の判断が、住民や組合の方々に求められるところだといえます。

 

長期修繕計画書で見るべき4つのポイント

長期修繕計画書で見るべき4つのポイント

長期修繕計画書で見るべき4つのポイント

長期修繕計画書を見るときには、以下の4つのポイントを意識しましょう。

 

・いつ・どのタイミングで計画書を確認すべきか

・計画の概要と「実態との乖離」への着目

・必要な費用の全体を把握する

・収支表に潜む「将来の資金不足」と値上げ前提の把握

 

それぞれのポイントについて、詳しく解説します。

いつ・どのタイミングで計画書を確認すべきか

長期修繕計画書は、購入のタイミングで一度だけ見れば終わり、というものではありません。住んでいるあいだに確認しておきたい主な場面は、次のとおりです。

 

タイミング

主に確認したい部分

計画の更新前(総会で議案にあがるとき)

修繕周期や工事項目が劣化状況に合っているか、増額の根拠は妥当か

大規模修繕工事の前

工事項目・実施時期と、推定費用が最新の単価を反映しているか

中古マンションの購入を検討するとき

修繕積立金の水準・推移、将来の資金に余裕があるか

マンションを売却するとき

修繕履歴と計画の整合(買主への訴求材料になる)

 

とくに、おおむね5年ごとに行われる計画の見直し(更新)のタイミングは、計画書の中身をしっかり確認する好機です。総会で更新の議案が出たときには、後述する3つのポイントを意識して目を通しましょう。

計画の概要と「実態との乖離」への着目

長期修繕計画書には、主に以下3つの内容が記載されています。まずは修繕計画の概要を確認しましょう。

 

・建築工事計画

・設備工事計画

・資金計画

 

上記の内容を見れば、工事の項目や周期、どのくらいの費用がかかるかを把握できます。このとき意識したいのが、計画が実態に合っているかという視点です。

 

たとえば、劣化があまり進んでいなければ修繕を先送りにするなど、実態に合わせた柔軟な調整が検討されているかを確認しましょう。物価の反映状況など気になる点があれば、組合側から質問して確かめることも大切です。

 

気になる点は「組合側からの質問」で確認してほしい(今村談)

案として出されたときに、組合として「これで本当に大丈夫か」をポイントとして見ていただきたいです。


「これは物価上昇を考慮していますか?」「劣化状況の結果から、この周期で問題ないですか」「資金はこのくらいしかないけれど、本当に計画どおりにやって大丈夫ですか」など、そこまで質問して確認してほしいというところです。

必要な費用を把握する

長期修繕計画書内の「長期修繕計画統括表」には、それぞれの修繕工事にかかる推定費用も記載されます。修繕工事計画の概要とともに、必要な費用も把握しておきましょう。

 

特に大規模修繕工事が設定されている年は、まとまった費用が必要です。大規模修繕工事は、概ね12~15年程度の の周期で実施するマンションが多い傾向があります(※)。

 

費用の全体像を見るときに意識しておきたいのが、費用がかさみやすい設備の存在です。なかでも代表的なのが「機械式駐車場」。

 

日々のメンテナンス費用に加え、定期的な修繕、さらに将来の全交換(更新)まで含めると、まとまった費用がかかります。

 

機械式駐車場は「撤去」したほうが安くなるケースも(今村談)

将来コストが重なりやすい機械式駐車場は、エリアによっては空車になることもあるので、そもそも駐車場を廃止して平置きに変えようとするマンションも増えてきているのが実態です。


壊すのにもコストはかかりますが、それを含めても撤去したほうが最終的に安くなることも多い印象です。


資金シミュレーションで「撤去した場合の工事費」と「そのまま運営を続けた場合のランニングコスト」を比較すると、差がはっきり出ることが多く、取り壊す方向になりやすいです。

 

修繕工事の総額がいくらになるのかをチェックし、こうした高コスト設備の扱いも含めて資金計画を確認しておきましょう。

 

※参考:国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査

収支表に潜む「将来の資金不足」と値上げ前提の修繕積立金の把握

長期修繕計画書内の資金計画には、修繕積立金の推移や累計が記載されています。資金計画を見れば、修繕積立金が過不足なく積み立てられているかの確認が可能です。

 

修繕工事の推定金額が修繕積立金の累計額を上回ると、資金が足りなくなるということです。将来的に資金が不足する時期がないか、残高の推移を丁寧に確認しておくとよいでしょう。資金が足りなくなりそうな箇所がある場合は、住民から集める積立金額や、計画そのものを見直しておきましょう。

 

あわせて押さえておきたいのが、多くの計画は「修繕積立金の将来の値上げ」を前提に作られているという点です。

 

修繕積立金が値上げ前提かは「収支表」を見ればわかる(今村談)

基本的に、修繕積立金はほぼすべて値上げを前提として作られているものが多いです。これまでのマンションはほぼ段階積立方式が採用されていて、当初から積立金が将来上がっていくように設計し売られているので、ほぼ間違いなく上がっていくのが一般的です。


最近は均等積立方式も増えてきているので、今後は値上げが組み込まれない計画書が増えるかもしれません。ただ、インフレの状況は予想しづらいので、均等積立方式だから値上げされないと思い込んでしまうのは少し注意が必要でしょう。


どこを見ればいいかというと、計画書の中に積立金の累計と修繕工事による支出を表した「収支表」が添付されているので、そこを見ればすぐわかります。

 

ここで再び、不動産鑑定士からのアドバイスを紹介します。

鑑定士コメント

長期修繕計画書は誰が作成し判断するのでしょうか? マンションの長期修繕計画書は、管理組合が主体となって作成します。実際には、管理組合はマンションの区分所有者によって構成されており、管理業務に詳しくないため、委託している管理会社や外部のコンサルティング会社に作成を依頼するマンションが多いでしょう。ただし、修繕計画書の内容が実情に即しているか、最終的な判断は管理組合が行います。

長期修繕計画書の具体的な構成内容

長期修繕計画書の具体的な構成内容

長期修繕計画書の具体的な構成内容

長期修繕計画書の主な内容は、大きく分けて以下の3点です。

 

・外装や防水など「建物の保護」を担う建築工事計画

・給排水管やポンプなど「生命線」を守る設備工事計画

・物価変動や積立方式を考慮した資金計画

 

それぞれの内容について、詳しく解説します。

 

区分

主な工事項目

修繕周期の目安(※)

建築工事計画

仮設工事(足場の組立)

12〜15年

屋根・床防水の補修・修繕

12〜15年

外壁・鉄部塗装の補修・塗替

外壁12〜15年/鉄部5〜7年

建具・金物などの点検・調整・取替・補修

手すり・金物類は34〜38年

共用内部の張替・塗替

12〜15年

設備工事計画

給水・排水設備の更生・取替・補修

給排水ポンプの補修は5〜8年

ガス・空調・換気設備の取替

設備ごとに設定

電灯・情報通信・消防用設備の取替

設備ごとに設定

昇降機(エレベーター)設備の補修・取替

設備ごとに設定

機械式(立体)駐車場設備の補修・建替・取替

補修は5年程度

資金計画

修繕積立金の残高・月額・借入金額・推定工事費

 

※参照:国土交通省|長期修繕計画標準様式

外装や防水など「建物の保護」を担う建築工事計画

建築工事計画とは、建物部分に関する修繕工事の計画です。建築工事の例としては、以下の5点が挙げられます。

 

・仮設工事(足場を組むための工事)

・屋根・床防水の補修・修繕などの工事

・外壁・鉄部塗装の補修・塗替などの工事

・建具・金物などの点検・調整・取替・補修工事

・共用内部の張替・塗替工事

 

国土交通省による修繕周期の例では、上記は12〜15年の周期で設定されているものが多い工事です(※)。大規模修繕工事では、壁・屋根など通常は手が届かない場所も修繕されるため、足場を組むための仮設工事が含まれます。

 

なお、鉄部などは錆びやすいため、5〜7年と比較的短い周期で塗装工事が設定されています。また、手すりや金物類などの劣化しにくい部分の取替工事は、34〜38年の周期です。

 

これらの建築工事は、築15年頃までの「目に見える修繕」の中心となる部分です。だからこそ、ガイドラインの周期をそのまま当てはめるのではなく、実際の建物診断の結果と整合しているかを精査し、機能的に本当に必要な修繕になっているかを意識することが大切です。

 

※参照:国土交通省|長期修繕計画標準様式

給排水管やポンプなど「生命線」を守る設備工事計画

設備工事計画は、マンションの設備に関する修繕工事の計画です。設備工事の例としては、以下の8点が挙げられます。

 

・給水・排水設備の更生・取替・補修工事

・ガス設備の取替工事

・空調・換気設備の取替工事

・電灯設備などの取替工事

・情報・通信設備などの取替工事

・消防用設備の取替工事

・昇降機設備の補修・取替工事

・立体駐車場設備の補修・建替・取替工事

 

上記の設備は住民の生活に直結する部分が多く、修繕周期の例も場所によって細かく設定されています。

 

たとえば、給水・排水ポンプの補修は5〜8年、機械式駐車場の補修は5年など、頻繁に使われ劣化しやすい部分は短めの周期です(※)。反対に避雷針設備などの劣化しにくい場所は、38〜42年で取替工事が設定されています。

 

ここで意識しておきたいのが、設備工事の多くは「目に見えずらい」修繕だという点です。とくに築15年〜30年にかけて重要度が高まりやすい項目であり、配管の劣化は漏水につながることもあります。目に見えないからこそ、しっかりとした更新計画になっているかを確認しておくと安心です。

 

見落とされることはないが、組合員は「気づきづらい」(今村談)

目に見えないもの、たとえば給排水管の更新・更生工事などは、やはり実感が湧きづらいので、「本当にこの周期でやるべきなのか」という疑問が出やすい工事です。管理会社がきちんと計画を立てている以上、見落とされることはないと思いますが、組合員にとっては気づきづらい・判断しづらい部分といえます。

 

※参照:国土交通省|長期修繕計画標準様式

物価変動や積立方式を考慮した資金計画

資金計画は、修繕工事にかかる費用に関する計画です。主に記載される内容は以下の4点です。

 

・修繕積立金の残高

・1戸あたりの平均積立金の月額

・借入金額

・修繕工事にかかる推定費用

 

資金計画を見れば、修繕積立金の残高や工事にかかる費用がわかるため、収支が把握できるのが特徴です。修繕積立金は住民から集められますが、毎月集める金額が妥当であるかどうかもここで判断できます。

 

近年とくにチェックしたいのが、資材価格や人件費の高騰を想定した「物価高騰シナリオ」が反映されているかです。また、これまで主流だった段階積立方式(将来的に値上げしていく方式)から、負担を一定に保つ「均等積立方式」へ移行する動きも増えています。将来の負担を平準化し、安定的に資金を確保できる計画になっているかを確認しておくと安心です。

 

収支のバランスが崩れると、今後計画されている大規模修繕工事の資金が足りなくなることも考えられるため、修繕履歴の記録や計画の見直しなどはこまめに行いましょう。

実効性の高い長期修繕計画書の作成手順

実効性の高い長期修繕計画書の作成手順

実効性の高い長期修繕計画書の作成手順

ここからは、長期修繕計画書を実際に作成・更新する際の手順を紹介します。基本的な流れをベースに、実効性を高めるためのステップを加えて解説します。

 

1. 雛形とガイドラインを入手 

2. 築年数や構造などの「基本情報の整理」 

3. 今の建物の健康状態を見る「建物診断」の実施 

4. 必要な項目を盛り込む

5. 劣化状況に合わせた「各工事の実施時期」の検討

6. 最新の物価動向を反映した「現実的な費用の見込み算出」

7. 算出費用と「修繕積立金とのバランス」の最終確認

8. 納得感のある着地点を探る複数案の比較検討

9. 形式美よりも「判断に使える資料作り」を徹底

 

なお、計画書づくりは、基本的に管理会社が第1案を作成し、それを管理組合(理事会)が確認し、総会で審議するという流れで進むことが多いです。一方で、管理会社に委託せず住民が自ら運営する自主管理のマンションでは、これらの工程を管理組合が主体となって進めることになります。

 

その場合も、後述するように国土交通省の標準様式やガイドラインを活用し、必要に応じて専門家のサポートを受ければ、作成を進めやすくなります。

 

ここで紹介する手順は、管理会社に委託する場合でも、自主管理で自ら作成する場合でも、確認・検討すべきポイントとして役立ちます。

 

ほとんどは「管理会社が第1案」を作る(今村談)

もちろん、理事長が豊富な知見をお持ちで主導されるケースもありますが、基本的に組合員の皆さんは専門家ではありませんので、ほとんどは管理会社がまず第一案を作成してくれます。それを理事会で確認し、必要に応じて修正、総会で諮る、という流れです。

 

過度に心配する必要はなく、基本的には管理会社と組合で作り上げていくものとお考えください。どうしても管理会社の案に不安が残る場合には、設計会社などに依頼することもまれにありますが、あくまで例外的なケースといえます。

1. 雛形とガイドラインを入手

長期修繕計画書を作る際は、国土交通省が公表している「長期修繕計画標準様式」と「長期修繕計画作成ガイドライン」(※1)のデータを入手しましょう。

 

長期修繕計画標準様式はExcel形式で、長期修繕計画作成ガイドラインはPDF形式でダウンロードできます(※2)。

 

長期修繕計画標準様式は、実際の文章例や表のフォーマットなどが記載されているものです。長期修繕計画作成ガイドラインには、長期修繕計画書の作成方法が記載されています。まずはこの2つをそろえましょう。

 

※1. 参照:国土交通省|長期修繕計画標準様式|長期修繕計画作成ガイドライン

※2. 参照:国土交通省|住宅:マンション管理 

2. 築年数や構造などの「基本情報の整理」

計画づくりの土台となるのが、建物の基本情報です。建物の規模・構造・設備内容を整理し、正確なデータを収集しましょう。

 

ここで特に重要になるのが、「いつ・どこを・どう直したか」という過去の修繕履歴データです。履歴データは将来の予測精度を大きく左右します。

 

なお、長期修繕計画の見直しにあたっては、必要に応じて理事会の下部組織として専門委員会を設置するなど、検討を行うための管理組合内の体制を整えておくとスムーズです。

3. 今の建物の健康状態を見る「建物診断」の実施

基本情報を整理したら、専門家による劣化調査(建物診断)を行い、科学的根拠に基づいて劣化を判定します。

 

事前に設計図書や修繕履歴などの資料調査、現地調査、必要に応じて区分所有者へのアンケート調査などを行うのが一般的です。

 

「本当に今必要な工事か」を明確にすることで、実態と乖離した不要な修繕を避けられます。

4. 必要な項目を盛り込む

ダウンロードした「長期修繕計画標準様式」のデータに以下のような必要な項目を入力していきます。

 

・修繕工事の項目

・修繕工事の周期

・工事単価や数量

 

まずはどのような工事がどのくらいの頻度で必要かを、長期修繕計画標準様式の例を参考にしながら検討してください。マンションごとに立地や設備が異なるため、標準様式の例はあくまでも参考とし、実情に即した内容に仕上げましょう。

5. 劣化状況に合わせた「各工事の実施時期」の検討

工事項目を入力したら、それぞれの実施時期を検討します。ここでも大切なのは、画一的な周期に当てはめるのではなく、建物診断の結果と実情に合わせて時期を微調整することです。

 

資金の都合も踏まえ、急を要しない工事は次回の周期に回す判断も選択肢のひとつです。あわせて、関連する工事をまとめて実施することで、足場の仮設費用などを抑え、工事効率の向上とコスト削減を図ることもできます。

6. 最新の物価動向を反映した「現実的な費用の見込み算出」

費用は、現在の工事単価や物価上昇率に基づいた最新の相場で算出します。計画作成のタイミングで単価を更新することが欠かせません。将来の物価を正確に当てるのは難しいものの、余裕を持った概算を持っておくことが、管理組合にとっての備えになります。

 

「5年前の単価のままで大丈夫か」を見直す(今村談)

おおむね5年程度の周期で更新することになると思います。計画案を作成するタイミングが近づいてきたら、まず建物の劣化状況を判断します。


そのうえで、工事費用の単価が現状に合っているか、5年前のままで問題ないかといった点を確認していきます。こうした見直しは、ある程度は管理会社のほうでも考慮して案を作ってくれるはずですが、念のため確認を行うことをおすすめします。 

7. 算出費用と「修繕積立金とのバランス」の最終確認

費用を算出したら、将来の必要額に対して現在の積立金で対応できるのか、いつごろ不足しそうかを時系列で具体的に確認します。

 

資金不足が見込まれる場合は、積立額の改定や工事時期の調整など、早めの対策を検討しておくと安心です。

 

あわせて、修繕積立金の額を決定する際は、標準様式内の「積立金の額の設定」も参考になります。住民から適切に集金し、修繕積立金の累計額が推定工事費用を下回らないようにすることも大切なポイントです。

 

早めのシミュレーションが資金不足を防ぐ(今村談)

資金が不足してから動くと、スムーズな対応が難しくなってしまいます。不足しないために長期修繕計画でシミュレーションをしているわけなので、支出が上がるのは気が進まないことではあるものの、現実として早めに対策を考えておけると安心です。早めに対策し住民一人ひとりに分かっていただけると、資金不足や管理面での不安も和らぐのではないかと思います。

8. 納得感のある着地点を探る複数案の比較検討

計画づくりで有効なのが、複数案を出してもらって比較する方法です。

 

前述のとおり、多くの計画は国土交通省のガイドラインを土台に、そのマンションの劣化状況を踏まえて作られています。そのうえで、判断に迷う工事があるときに複数案が役立ちます。

 

たとえば、ある工事について「今回は実施を見送り、劣化の進み具合を見て次回の周期で行う案」と「予定どおり今回実施する案」を並べて比較する、といった形です。

 

同じ工事項目でも、実施時期を変えた複数のパターンを示してもらうことで、費用負担と建物の状態のバランスを踏まえた、納得感のある着地点を選びやすくなります。

9. 形式美よりも「判断に使える資料作り」を徹底

最後に意識したいのが、数値が並んだだけの表に満足しないことです。長期修繕計画書は、住民が合意形成に活用できてはじめて意味があります。

 

作成した計画の根拠を、管理会社や専門家が明確に説明できる状態を確保しておきましょう。

 

なお、計画がまとまったら、その内容に従って修繕工事の準備・依頼へと進みます。実際の修繕工事は、管理会社をとおして繋がりのある建設会社などに任せる場合が多いでしょう。

長期修繕計画書作成時に注意するポイント

長期修繕計画書作成時に注意するポイント

長期修繕計画書作成時に注意するポイント

長期修繕計画書を作成・運用するうえで、特に意識しておきたい注意点を紹介します。

 

・5年ごとの定期的な見直しによる情報の鮮度維持

・作成の外部委託を検討

・世代間の価値観の違いを埋める丁寧な合意形成 

・小規模・大規模マンションで異なる計画の作り方と難しさ

5年ごとの定期的な見直しによる情報の鮮度維持

長期修繕計画書は一度作ったら終わりではなく、その後も内容を定期的に見直していくことが大切です。築年数が古くなるにつれて、想定していなかった箇所の劣化が見つかったり、修繕積立金が不足ぎみになったりするケースも考えられるためです。

 

国土交通省のマンション標準管理規約では、長期修繕計画の内容はおおむね5年程度ごとに見直すことが望ましいとされています(※)。常に最新の状況へアップデートし続けることで、実態とずれた修繕や、資金不足を防ぎやすくなります。

 

なお、自主管理のマンションなどで「いつ見直すか」をあらかじめ決めていない場合は、見直しが後回しになっているというより、そもそも見直しが計画に組み込まれていない状態も存在する可能性があります。

 

まずは見直しの時期を計画に位置づけることから始めるとよいでしょう。

 

自主管理のマンションは見直しが後回しになりがち(今村談)

5年に1度というのはあくまで目安です。そのため、自主管理のマンションなどでは、見直しが後回しになっている可能性もあります。管理がやや滞りがちなところでは、更新のタイミングが先延ばしになっているケースもあるのではないかと思います。

 

※参照:国土交通省|マンション標準管理規約

 

なお、長期修繕計画の見直しの必要性については以下の記事でも紹介しています。

長期修繕計画の見直しは必要?タイミングや注意しておきたいポイントを紹介

作成の外部委託を検討する

長期修繕計画書を管理組合だけで作成するのが難しい場合は、外部の機関に委託することもできます。主な委託先には、以下のような選択肢があります。

 

委託先

特徴

費用の目安

管理会社

日常の管理を任せている延長で依頼でき、進めやすい。管理委託費に含まれる場合もある

管理委託費に含まれている場合あり(別途の場合は要見積)

マンション管理士

管理組合運営の専門家。第三者の立場から計画や積立金の妥当性を見てもらえる

新規作成でおおむね10万〜45万円程度(規模・調査の有無による)

建築士事務所

建物の技術面に強く、劣化診断とあわせた精度の高い計画づくりが期待できる

新規作成でおおむね10万〜45万円程度(規模・調査の有無による)

公益財団法人マンション管理センター

国の標準様式に沿った計画・積立金の算出サービスを提供(調査・診断は含まない)

2棟まで1棟毎に各14,000〜31,000円

 

ただし、先述したとおり外部委託には依頼料がかかります。費用は、マンションの規模(戸数)や、現地調査・建物診断を含むかどうかによって大きく変わります。

 

建物診断を伴わない計画書のみの作成であれば比較的安価で、戸数の少ないマンションで30万〜35万円程度、200世帯規模でも40万〜45万円程度が一つの目安とされています。一方、現地調査・建物診断や報告・説明までを含む場合は、その分費用が上乗せされます。

 

まずは自分たちのマンションの管理委託契約の内容を確認したうえで、有償の場合は複数の依頼先から見積もりを取得し、比較して決めましょう。

世代間の価値観の違いを埋める丁寧な合意形成

修繕積立金の増額などをめぐっては、管理組合内で意見が分かれることがあります。マンションは共同体であり、さまざまな人が生活しているため、何がメリットで何がデメリットになるかは住民によって異なるからです。

 

たとえば、バリアフリー化を考えてみましょう。スロープや手すりの設置は、ご高齢の方や車椅子を使う方にとっては重要度が高い一方で、若い世代にとっては関心が薄いこともあります。このように、ライフステージによって求めるものが異なるため、意見が分かれることもあるのです。

 

また、世代にかかわらず「今のうちからしっかりメンテナンスしていきたい」と考える人と「資金を温存して、当面は今のままで十分」と考える人とで意見がぶつかることもあります。

 

増額案は「個別説明」で粘り強く合意形成する(今村談)

どうしてもこの案で通したいということであれば、増額に反対しそうな方に対して、あらかじめ理事会や修繕委員会と一緒に個別でご説明する、ということはありました。


また、増額を含む案を用意した場合でも、「更新自体は承認するが、値上げについては現状のままとする」といった条件付きで決める方法もあります

 

値上げに反対だからといって更新そのものにもすべて反対、というわけではなく、条件付きであれば更新を承認いただける、というケースもあったと思います。

小規模・大規模マンションで異なる計画の作り方と難しさ

長期修繕計画書の内容は、マンションの規模によっても傾向が変わります。あくまで一般的な傾向ですが、小規模と大規模では作成の難しさに違いがあります。

 

マンション規模によって計画書作成の「難しさの出どころ」が変わる(今村談)

小規模なマンションは工事規模が小さく、共用設備も少ない傾向にあるため、基本的には長期修繕計画もシンプルになります。ただし、小規模ならではの難しさもあります。戸数が少ない分、修繕積立金が不足する可能性が高まるという点です。


一方、大規模なマンションはその逆で、工事計画は複雑になりやすいものの、資金面は小規模よりも安定している傾向があります。あくまでも傾向ではありますが、こうした違いは押さえておくとよいでしょう。

長期修繕計画書から読み取れる中古マンション購入時に気をつけておきたいポイント

長期修繕計画書から読み取れる中古マンション購入時に気をつけておきたいポイント

長期修繕計画書から読み取れる中古マンション購入時に気をつけておきたいポイント

中古マンションを購入する際は、長期修繕計画書から読み取れる「気をつけておきたいポイント」を知っておくと役立ちます。専門知識がなくても、比較的見つけやすいポイントは次のとおりです。

 

気をつけたいポイント

確認しておきたい理由

修繕積立金が極端に安い

将来的に値上げや資金不足につながることがある

将来、積立金が急激に上がる計画

現在の設定が低めに抑えられている可能性がある

30年後などに資金の余裕が少なくなる

計画の後半で資金が不足しやすくなることがある

工事項目が少ない

必要な修繕が計画に含まれていないことがある

 

一般の方でも見つけやすい「気をつけたいポイント」(今村談)

ここに挙げたようなポイントは、専門家でなくても比較的気づきやすいところだと思います。なかでも特に注意して見ていただきたいのが、積立金に関する項目です。極端に安く設定されているものや、将来急激に値上がりしていく計画は、現在の設定が低めに抑えられているサインであることが多いためです。数字の動きだけでも一定の判断材料になりますので、まずはこのあたりから確認してみるとよいでしょう。

まとめ:長期修繕計画書は余裕のあるスケジュールで作成しよう

まとめ:長期修繕計画書は余裕のあるスケジュールで作成しよう

まとめ:長期修繕計画書は余裕のあるスケジュールで作成しよう

長期修繕計画書とは、マンションの修繕工事の長期的な計画を取り決めて記しておくものであり、将来の収支を可視化する「経営の羅針盤」のような存在です。工事の内容・周期・推定費用などが記載され、この内容を基に住民から集める修繕積立金の額が決められます。

 

作成・確認のうえで大切なのは、ガイドラインを基準としつつ、建物診断の結果や物価動向といった「実態」を反映できているかという視点です。建物診断は計画の出発点であり、複数案の比較や定期的な見直しを通じて、住民が納得できる現実的な計画に近づけていくことが求められます。

 

長期修繕計画書は外部機関への委託もできますが、費用や委託先選定の手間がかかります。どちらにしても、余裕を持って作成に取り掛かるのがおすすめです。

石川 勝

不動産鑑定士/マンションマイスター

石川 勝

東京カンテイにてマンションの評価・調査に携わる。中古マンションに特化した評価手法で複数の特許を取得する理論派の一方、「マンションマイスター」として、自ら街歩きとともにお勧めマンションを巡る企画を展開するなどユニークな取り組みも。

本記事で学んだことをおさらいしよう!

簡易テスト

マンションの「修繕積立金」にみられる傾向として明らかに間違っているものは、次のうちどれですか?

答えは 1

「修繕積立金」は建物の劣化が進むにつれて見直され、変動することがあります。主に価格が上がることが予測されます。

  • 資産性が低くて
    売りたくても売れない
  • 安いという理由だけで
    中古マンションを
    買ってしまった
  • 修繕積立金が
    年々上がる
  • 子供が成人したから
    マンションを売って
    一軒家生活したいけど…
  • 資産性が低くて
    売りたくても売れない
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