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更新日:2023.10.20
登録日:2023.10.20
北広島駅――北海道ボールパークFビレッジと“レ・ジェイド北海道ボールパーク”に見る、これからのマンションのかたち(北海道北広島市/JR千歳線)②未来編
2023年3月、北海道日本ハムファイターズ待望の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」が開場した。今までにないボールパークの誕生とあって道内外の注目を集めたが、全国初の球場直結マンション「レ・ジェイド北海道ボールパーク」も、マンション業界の大きな注目を集めた。今回はその「レ・ジェイド北海道ボールパーク」を中心に、執筆中にも大きなニュースが度々出るほどホットな「Fビレッジ」が目指す将来や、北広島市が目指すまちづくりについて深掘りしていこう。
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前回「北広島駅――北海道ボールパークFビレッジと球場直結マンション“レ・ジェイド北海道ボールパーク”の誕生まで(北海道北広島市/JR千歳線)①歴史編」はこちら
3.レ・ジェイド北海道ボールパークとは
・今までにない“ボールパーク”の誕生
札幌ドームとの問題を解決するため、北海道日本ハムファイターズ(以下『ファイターズ』)と北広島市の間で“きたひろしま総合運動公園”内の新球場建設に合意したのが2018年。建設費約600億円は日本ハム側が拠出し、所有・運営はファイターズスポーツ&エンターテインメント(2019年10月に日本ハムの子会社として設立)の手でなされる。北広島市は運動公園内の用地の無償賃貸および固定資産税・都市計画税の10年間免除、およびインフラ整備費を負担することとなった。フィールドに近い座席を大きな座席にするなど多様な座席を設置したり、途中でも外に出やすくするため通路幅を大きくとったことで、収容人数は座席29,000人、立ち見6,000人の計35,000人と、札幌ドームの約42,000人と比べてやや減少したが、観客を詰め込むよりも、客単価を上げ顧客満足度を高める方を選択したということだろう。エリア全体の名称は“北海道ボールパークFビレッジ”となり、球場の命名権はFビレッジ内の不動産開発を担う日本エスコンが取得し“エスコンフィールドHOKKAIDO”の名がついた。なお、命名権という形ではあるが別の正式名称は今のところ無く、企業名が入った球場としては国内唯一の存在である。
▲エスコンフィールドHOKKAIDO。これは屋根を閉じた状態。
最大の特徴は開閉式屋根の設置による内野外野総天然芝の採用と、野球以外のエンタメを大幅に充実させたことの二点だ。まず、開閉式屋根自体は福岡ドーム(1993年開場)の先例があり、当初こそ晴天時は屋根を開ける構想で実際に試合が行われたこともある。しかし現在は騒音問題や選手からの照明の見え方(閉じた状態を前提に設計されている)を理由に“ルーフオープンデー”と銘打った特別な日に限られ、芝も人工芝である。これに対しエスコンフィールドは総天然芝を採用し、非試合日・晴天時の日中は芝の育成のため屋根を開ける。つまり福岡ドームと違い“屋根を開けなければならない”ため、開閉の頻度が非常に高い。試合時は打球の散逸や騒音防止のため基本的に閉めるが、エスコンフィールドでも不定期に“ルーフオープンゲーム”を開催するとのことだ。
▲屋根を開けた状態のエスコンフィールドHOKKAIDO。
また、野球以外のエンタメ強化も非常に力が入っている…というか、野球も主役でこそあれ、あくまでFビレッジのコンテンツの一つと考えられている印象を受ける。例えば、三塁側に“TOWER11”という一角があるが(11階建ではなくかつてファイターズに在籍したダルビッシュ有選手・大谷翔平選手の背番号に因む)、一例までに、サウナ・天然温泉(サウナ内/湯舟から観戦できる)、球場内ホテル(客室から観戦できる部屋もある)、乗馬シミュレーター、ミュージアム・ギャラリーと、凡そ“野球場”とは思えない施設が詰まっている。他にも、球場内に醸造所を構えたクラフトビールレストランや、日本ハムならではのソーセージやホットドック・肉類を中心としたレストランなど、これまでの“高くて大味”な球場メシの概念を打ち破るグルメを備えたり、アドベンチャーパークやスノーパークなどのアクティビティまで備えたりと、野球に興味が無くても、試合が無くても人を誘う仕掛けが随所に施されている。
▲エスコンフィールド東側(三塁側ゲート~外野側)の「タワー11ゲート」。この中に多彩な施設がある
なぜこれほどまでに“野球以外”にも注力するのかといえば、“Non-Gameday”の方が圧倒的に多いからだ。エスコンフィールドで開催されたホームゲームは、2023年シーズンで71試合。つまり365-71=年間294日は“Non-Gameday”である。この294日間にどうやってFビレッジへ人を呼び込むかは経営の大きなテーマであり、ある意味Gamedayよりも難しいかじ取りを迫られる。東京ドームが代表的だが、コンサートを開催したり、オフシーズンに展示会を催したりと、球場の稼働率を上げる工夫は各地で行われているものの、いずれも“場所貸し”の範疇を出ない。その点エスコンフィールドの試みは、Non-Gamedayであっても球場内のレストランや体験施設、ホテルや温泉を目当てに人が来る。たとえNon-Gamedayにふらりと訪れた人であっても、球場内のどこにいても“ボールパーク”のフィールドが中心に据えられているので、その美しく整えられた芝の緑は人を魅了し、“次は試合を観戦したい”と思わせるものがある。「北広島」駅には“野球に興味の無い人にこそ、来てほしい。”というフレーズが掲げられていたが、かくいう私も見事にその術中に嵌められた一人である。
▲一塁側ゲート。こちらが正面のはずだが、新駅とは反対向き。バスターミナルはこちらが近い。
“ボールパーク”と“スタジアム”の違い
明確な違いは定義されていないが、“ボールパーク”には「屋外」「内野・外野総天然芝」「狭いファールグラウンド(→フィールドシートの設置)」「緩いスタンドの傾斜と多様な座席」「野球以外も楽しめる仕掛けづくり」などの要素が挙げられ、そうでないものは“スタジアム”とされる(=ドーム球場は天然芝にできないので“スタジアム”)。試合をエンターテインメントとして昇華させてきたメジャーリーグに一日の長があり、メジャーリーグの球場はほぼ“ボールパーク”化されている。日本で強く“ボールパーク化”が意識されたのは2009年開場のMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島(新・広島市民球場)が本格的ボールパーク第一号とされ、緩い傾斜でどこからでも観戦しやすいスタンド形状がファンを増加させたと言われる。
・ただ近いだけではない“マンション×球場”のかたち
「レ・ジェイド北海道ボールパーク」はそんなエスコンフィールドの三塁側ゲート(3rd BASE GATE)に接する、Fビレッジ敷地内という“日本一球場に近いマンション”である。メインエントランスから三塁側ゲートまでは約200m(徒歩2~3分)で、バルコニーは外野側に面しているため“ウォーッ”という歓声まで届きそうな距離にある。東京ドームとなるとゲートから敷地を出るだけで200mほどあるので200m以内のマンションは殆ど存在し得ず、何より“敷地内”の一体感はない。マンション名にしても「日本エスコンのブランド名」+「北海道ボールパーク」という思い切りの良さで「北広島」すら入らない。他の球場はというと“東京ドーム”をずばり冠したマンションはなく、元々の住宅地の名を冠した阪神甲子園球場は別として、“ナゴヤドーム前”“大阪ドーム前”など駅名にもなっている場合に見られる程度である(駅名はそれぞれ『ナゴヤドーム前矢田』『大阪ドーム前千代崎』)。そういった意味で「レ・ジェイド北海道ボールパーク」は代わりの効かない、唯一無二の価値を備えたマンションと言える。ここまで徹底して差別化した物件は非常に珍しい。
▲エスコンフィールドに寄り添って建つ「レ・ジェイド北海道ボールパーク」。
過去に類例がないマンションであり、直近10年以上にわたり近隣市での分譲がないという中で、どれほどの価格で販売されるか非常に注目を集めたが、平均分譲価格およそ6,500万円、平均坪単価238万円となった。多様な需要に応えるべく40㎡台~130㎡台まで多くの部屋タイプが設定されたが、北海道らしく平均面積は89㎡台と広い。最も標準的な4階南向きの中住戸で5,890万円(坪単価212万円)であり、札幌市中心部に匹敵する価格となった。1階には住民専用のラウンジやコワーキングスペース、ゲストルームを備え、屋上はルーフトップテラスとして開放され、山々を身近に感じられるのも魅力的だ。
▲「レ・ジェイド北海道ボールパーク」の館銘板。
分譲開始時に大きく話題になったのが“エスコンフィールドの10年間フリーパスが付帯する”こと。ただしいわゆる年間シートではなく、試合日(Gameday)の入場でも料金不要という意味合い(通常800~1,200円前後、試合日程により変動あり)。このため、球場内の飲食店やサウナ等各種施設の利用に際しても、住民であれば試合日か非試合日(Non-Gameday)か気にしなくてよい、という住民サービスの性格が強い。もちろん立ち見エリアもあるので、入場券のみでも内野席フィールドレベルからの観戦もできなくはない。食事のついでにちょっと観戦するくらいなら、住民であれば立ち見でも十分だろう。
▲「レ・ジェイド北海道ボールパーク」のエントランス。降雪地ゆえ立派な車寄せを備える。
「ボールパークに住もう」というキャッチフレーズの通り、“特に用はなくてもGamedayに球場へ入れる”ことこそがフリーパスが付帯する狙いであろう。現状、周囲にFビレッジ以外の店舗はなく、もちろん未来永劫このままということはないだろうが、マンションの住民は生活インフラもFビレッジへかなりの部分を頼ることになる。そういった環境下でGamedayに住民を球場から締め出すわけにはいかないし、むしろGamedayこそ熱気と歓声に包まれた球場で飲食を楽しみたいという住民が多いのではないだろうか。そうしてGameday・Non-Gameday問わず球場に足を運んでもらうことで、住民は満足度が上がるし、運営側も安定収入につながるというわけだ。分譲マンションさえも“Non-Gamedayにボールパークへ人を呼ぶ仕組みのひとつ”なのである。
▲球場からマンションへ、歓声がダイレクトに届きそうな距離感。
・JR千歳線新駅は2027年度末の開業予定で調整中
ただ、目下最大の難点がアクセスである。三塁側ゲートから見える位置にJR千歳線の線路があり、千歳線の車内からもエスコンフィールドを間近に観察でき、観光客の乗客からも歓声が上がるほどなのだが、2023年春の開業に新駅設置は間に合わなかった。Fビレッジ建設発表から1年後の2019年12月に新駅計画がJR北海道から発表されたが、線路を移動させる大規模な工事内容であり、当初から開業予定は2028年とアナウンスされていた。新駅は北広島市の要望による“請願駅”のため、建設費は北広島市の全額負担となる。それだけに昨今の建設費の高騰や、それを受けての工費圧縮案の策定などに時間を要したが、執筆時点(2023年10月)では当初予定の位置から2~300mほど「北広島」寄りに設置することとし、2027年度末(=2028年シーズン開始時)の開設予定で調整中である。
▲三塁側ゲートからはすぐ先を走るJR千歳線の線路が見える。この辺りに駅ができる予定
当面の最寄駅となる「北広島」からFビレッジ(敷地端)へは遊歩道“エルフィンロード”経由で19分、「レ・ジェイド北海道ボールパーク」へは22分、エスコンフィールドへは25分と案内されている。決して歩けない距離ではなく「北広島」駅東口から信号や横断歩道を渡ることなしに行けるのだが、徒歩20~25分はプロ野球の本拠地球場として駅から最も遠いという汚名を背負っている。このため「北広島」―FビレッジのシャトルバスがNon-Gamedayも30分間隔で運行されているが、あくまでFビレッジへの来訪客が主眼なので、Fビレッジ発は8:00(土休日は7:00)~21:50、「北広島」発は8:15(土休日は7:15)~20:45と、始発が遅いためマンション住民の通勤・通学には不向きである(帰宅には何とか使えそう)。定期券の設定もない。この他「新札幌」「新千歳空港」へのバスもあるが、「北広島」便よりも当然始発は遅い。このため、現時点で札幌市内への通勤はほぼクルマ前提となる。降雪期はなおさらだ。
▲「北広島」駅~エスコンフィールドを結ぶシャトルバス。Non-Gamedayでも30分毎に運転される
もっとも、Fビレッジはようやく球場とその周辺施設が完成したに過ぎず、“まち開き”直後である。住民の数も限られ、その中から札幌市内への通勤・通学となるとほんのわずかと言え、最初から潤沢な交通インフラを整える必然性も薄い。エスコンフィールドやレ・ジェイドの南側「北広島」駅寄りにはサービス付き高齢者向け住宅“マスターズヴェラス北海道ボールパーク”(7階建290戸…単身・二人向けが殆どなのでレ・ジェイドより戸数が多い)が建設中で、2024年6月の入居開始を予定する。
▲高齢者向け住宅「マスターズヴェラス北海道ボールパーク」。Fビレッジを構成する施設の一つ。
Fビレッジの北側には北海道札幌養護学校共栄分校をはじめ、特別養護老人ホームなど福祉関係の施設が集中する一角があるが、この森の先には同じ北広島市域となる大曲地区となり、多くの住民がいる。現状、北広島市の市街地はこの大曲地区と、「北広島」駅周辺の中心部がこの森で隔てられており、Fビレッジも中心部側に位置する。元々交流が薄いのでFビレッジのシャトルバスも大曲地区へは行かず、「北広島」発の路線バスも20時台で終わってしまう(Fビレッジは経由しない)ので、大曲地区の住民がFビレッジへ向かうにはほぼクルマに限られる。Fビレッジ自体の求心力が上がれば、福祉関係施設の人々も交え、こうした市域の分断もいくらか解消される面もあるだろう。
4.北広島の将来
・「北広島」駅西口再開発が進行中
日本エスコンにより開発が進められているのはFビレッジだけではない。千歳線新駅が開業するまでの間Fビレッジへの玄関口となる「北広島」駅西口でも、Fビレッジ開業前では考えられなかった多様な人々が行き交うことを踏まえ、“キタヒロの顔”となるべく広場、商業、宿泊の機能を併せ持った複合施設の開発が進められている(市有地A)。これに加え、北広公園の再整備(同B)、分譲住宅等の整備(同C・D)が並行して進められている。一連の計画は「キタヒロ・ホームタウン-BASE 2021-2029」と称される。“BASE”という表現からは、野球のベース/ホームベースと関連するのはもちろん、これからの北広島の基礎(=ベース)をつくろうという気概も感じられる。
▲西口駅前で建設中の「tonarie北広島」。新たな北広島駅前のランドマークとなる
駅西口正面で最も目立つA地区は14階建の複合施設となり、1~3階は商業施設「tonarie北広島」、4~5階はコワーキングスペース、会議室、スポーツジムなどの交流を促す施設、7~14階は北広島に不足するホテルが設けられ、2025年3月に開業予定。元々ここにあった“北広島駅前公園”を代替する意味合いもあり、2~4階は“テラスパーク”をひな壇状に大きくとった開放的な構造になる。2~3階(吹抜け)にはエスコンフィールドと連動し、パブリック・ビューイングが楽しめる“ライブパーク”が設けられるとのこと。また、「北広島」―Fビレッジのシャトルバス乗降場が目の前となるため、駅前広場と導線をクロスさせないよう、駅舎⇔tonarie2階=ライブパーク⇔バス乗降場を直結するデッキも設けられる。
▲駅舎(奥)とtonarie北広島(手前)2階を結ぶデッキが設けられ、駅直結となる予定だ
また、北広公園(小さな野球場を併設)に隣接する市有地B、および駅北側のFビレッジに近いC・Dは現状駐車場や空地となっているが、これらはいずれも日本エスコンの手で交流拠点施設、生活利便施設などに整備される。注目は、B・C・Dいずれも“分譲住宅含む”“分譲住宅等整備”と、マンションの建設を窺わせる表現となっている点だ。特にBは隣が広い公園かつ「tonarie北広島」向かいという立地から、マンションとしての魅力度が高い。「レ・ジェイド北海道ボールパーク」と双璧を成す、北広島のランドマークマンションが誕生するのはほぼ確実だろう。北広公園の北側に広がるUR北広島北進町団地をはじめとする“北広島団地”も1972年の入居開始から50年以上を経過しており、遠からず建て替え・再整備を検討することになる。今回の市有地B・C・Dのマンション建設は、その試金石になることだろう。
▲ボールパーク開業を前に「北広島」駅舎も多数の観客に対応できるよう改修が行われた。
・北海道医療大学が当別町からFビレッジへ移転
原稿執筆中に明らかになったニュースだが、2028年のJR千歳線新駅開業に合わせ、北海道医療大学がFビレッジ内へ移転するというニュースが飛び込んできた。
北海道医療大学は薬学部、歯学部、看護福祉学部などからなる医療系大学であり、医学部は持たないものの、当別キャンパス(石狩郡当別町)内に歯科クリニック(“クリニック”という名だが6階建で規模が大きい)、また当別町に隣接する札幌市北区“札幌ニュータウンあいの里”内に“北海道医療大学病院”を有するなど、札幌市北郊の地域医療に貢献してきた。当別町には1974年に“東日本学園大学”として開学以来キャンパスを構えており、キャンパスの目の前にJR学園都市線「北海道医療大学」駅がある。以前はこの先も樺戸郡新十津川町まで路線があったが2020年に廃止され、学園都市線はここが終点となった。しかしながら「札幌」から約30km、45~50分前後かかる通学時間の長さがネックとなり「学校の存続をかけて(移転を)決めた」と理事長は話す(読売新聞)。2023年度の入学志願者数は約4,000人と、2014年のピーク時から4割減といい、この状況を打開する策がFビレッジへの移転ということになる。
▲北海道医療大学の移転予定地。エスコンフィールド(左)と新駅(右)の間がキャンパスになる予定だ
報道によると、JR千歳線新駅と球場の間に広がる駐車場用地を利用するという。新駅から敷地内までは100mほどと大変近く、「札幌」から新駅までは約15分、そこからキャンパスまでは徒歩2分程度となり、当別と比べて通学時間は3分の1程度に短縮される。歯科クリニックと、あいの里の大学病院(約を含めてのほぼ全面移転となるが、現状の当別キャンパスは建物が集中する部分だけでも40,000㎡ほど、大学病院も建物だけで10,000㎡ほどあるが、移転後は敷地面積17,700㎡ほど、延床面積で65,000㎡ほどと、現状の3分の2程度に狭くなるという。この面積ではとてもグラウンドを移転させることはできず、グラウンドのほか薬草園も当別に残るというが、当別キャンパスに通う約3,000名におよぶ学生の大部分が当別を去ることになる。
▲千歳線車内から眺める北海道医療大学移転予定地。新駅からはすぐ目の前となる。
当別町の人口約15,000人のうち学生は約900人といわれ、JR学園都市線「当別」駅周辺は学生向け賃貸住宅も多く、飲食店などの商業へ影響が出るのは避けられないだろう。「北海道医療大学」駅は殆ど大学以外の施設がなく、大部分は北海道らしい大規模な農地であり、JR北海道としても「駅名の変更や列車本数の見直しを検討せざるを得なくなる」という。当別町長は「決して希望をなくしたわけではない。町としても大学側と危機感を共有して、新たなまち作りに取り組んでいきたい」と話す。ただ、当別町は北欧風住宅地“スウェーデンヒルズ”開発の成功体験を有し、札幌市へも通勤・通学可能なベッドタウンとしての側面もある。北海道土産として知られるロイズチョコレートの本社工場も当別町にあり、従業員の通勤や工場見学の観光客の需要を見込み新駅「ロイズタウン」も開業したほどだ。こうした北海道らしい“農”や“自然”をテーマにした開発ノウハウが当別町にはあるので、町長のいう「新たなまち作り」にも期待したい。
▲当別キャンパス周辺はアパートが無いので「当別」からJR学園都市線に1駅乗って通う学生も多い(『当別』駅改称前の駅名標)
北海道医療大学以外にも札幌周辺では大学キャンパスの移転が相次いでおり、札幌学院大学も本拠地の“江別キャンパス”(JR函館本線「大麻」徒歩12分、江別市)に加えて“新札幌キャンパス”(地下鉄東西線「新さっぽろ」徒歩1分、札幌市厚別区)を開設したほか、北海道科学大学も附属高校を中の島(地下鉄南北線「中の島」徒歩15分、札幌市豊平区)から大学が立地する前田キャンパス(JR函館本線「手稲」バス9分、札幌市手稲区)へ移転している。札幌市中心部からのアクセス向上や、附属学校との連携性向上など、目的は様々にせよ“学生獲得競争の熾烈化”が背景にあるのは共通している。当別町は大きな課題を背負うことになったが、北海道医療大学は“Fビレッジキャンパス”という大きな武器を手にすることになった。これだけアスリートとの距離が近い医療系大学は他に例がなく、学生や大学病院関係者という固定需要を掴んだFビレッジにとってもメリットは大きい。まだ移転決定以外の発表はないが、“Fビレッジらしさ”を体現した、今までにないキャンパスになるだろうか。
▲北海道科学大学最寄りの「手稲」駅。高校も今度手稲に移転してくる。
・Fビレッジに41階建タワーマンションができる?
2023年10月10日、ファイターズスポーツ&エンターテインメント、学校法人東日本学園大学、北広島市の3者は北海道医療大学のFビレッジ移転を含めた共同まちづくりに関する基本合意を締結したと発表した。それに合わせて“将来のFビレッジの完成イメージ”が公開されたが、注目すべきは商業施設の隣に41階建タワーマンションが描かれていることだ。
▲北海道日本ハムファイターズ公式HPより(以下リンク先参照)。中央左に北海道医療大学の新キャンパス3棟、中央下にJR千歳線新駅が描かれている。新駅の左(南側)に10階建ホテル、右(北側)に6~8階建の商業施設、エスコンフィールド側に中低層オフィスビルと思しき建物が描かれているが、41階建タワーマンションが相当目立っている。よく見ると商業施設とも屋根付き歩道で結ばれていることがわかる
https://www.fighters.co.jp/news/detail/202300433635.html
41階建とはいうまでもなく札幌市外では最高層で、札幌市を含めても「ONE札幌ステーションタワー」(48階建)に次ぎ、「シティタワー札幌大通」(41階建)と並ぶ2位タイの超高層タワーマンションとなる。おそらく日本エスコンが手掛けることになるだろうが、1フロア10戸としても400戸という札幌市外では例外的な大規模マンションになる。「レ・ジェイド北海道ボールパーク」の118戸に比べると約4倍の戸数となるが、これが即完売したことも自信に繋がったことだろう。ここまで施設が充実すると千歳線から球場はかなり見えにくくなってしまうが、その頃には“球場だけが目立つ必要はない”ほどにまちづくりが進んでいる、ということだろう。ファイターズ側は「ボールパーク全体では完成度は30%近く。あと5年をかけて完成を目指す」というから、更なる変貌が期待される。
▲新駅予定地周辺は今のところ空地。千歳線の電車が頻繁に素通りしていく。
現在のところ新駅予定地周辺は更地で、先立つ2022年6月には大林組が新駅周辺を開発予定という報道が出ていた。既に大林組が土地を所有し(一部は北広島市有)「地権者として主体的に開発に関与したいが、概要は何も決まっていない」が「高層マンションをはじめ、水族館や映画館が入居する商業施設、ホテル、温浴施設の整備」が構想されているということであった(2022年6月29日・北海道建設新聞)。しかし、新駅の場所が300mほど南に移動し、開業時期が2028年3月に変わったこともあり、構想が練りなおされたようだ。大林組はエスコンフィールドの建設も担ったため、該当用地は建設時の駐車場として利用されていたようだが、訪問した際は一台も止まっていなかった。温浴施設やホテルなどFビレッジと正面から被る面もあるが、商業施設はレ・ジェイドの住民にも望まれていることだろう。“非日常”のFビレッジでマンションや商業施設が幅を利かせてしまうと興を削がれる面もあるが、東京ディズニーリゾートの商業施設「イクスピアリ」にもスーパー「成城石井」が入居しているように、人々が住むからには日常の生活を支える店舗も必要なのは確かであり、その存在がFビレッジの価値を毀損するかといえば、必ずしもそうではない。むしろ、野球を主軸として様々な交流が増えていくにあたり、“ここに住んでみたい”という憧れを持った人が増えれば、やがてはFビレッジが住宅地としてもブランド化し、さらに魅力を増していくということも考えられよう。
▲新駅予定地周辺は何もないが、駅開業の頃には多くの施設が建っていることだろう
・替えの利かない街、替えの利かないマンション
「レ・ジェイド北海道ボールパーク」を見て思うことは、これぞ“替えの利かないマンション”だ、ということ。これ以上プロ野球球団の本拠地球場に近いマンションは、球場ごと一から造るプロジェクトでもない限り誕生するとは思えず、また大林組が計画しているようにFビレッジ内にマンションが建つにしても、レ・ジェイドより球場に近くなることはない。何しろ、マンションの端は球場の屋根にくっつきそうなほど近いからだ。千歳線の電車からも、球場はもちろんマンションもよく見える。レ・ジェイドはFビレッジにおいて替えが利くマンションではなく、全国的に見ても希少な価値を有しているということになる。このような唯一無二といえるマンションは、時を経るごとにその価値が認められ、ヴィンテージ化してゆくのではないかとも思う。
▲これほど球場に寄り添ったマンションは過去に例を見ない。まさに替えの利かないマンションといえる
マンションに限らず、多くの商品は“差別化”に悩んでいる。競合他社との差別化、ブランディングとしての差別化という話は商品に限らず、まちづくり、地域づくりといった面でも同じである。“ふるさと納税”の返礼品合戦はその最たるものだろう。では、ボールパークができる前の北広島市にいったい何があったかといえば、「札幌に近い」「新千歳空港に近い」という地理に恵まれてはいたものの、正直これといったものがなかった。北広島市の人口は2005年に60,000人台を記録したのを頂点に微減傾向となり、2020年には58,000人台になっているが、これは2000年代に全国的にマンション大量供給期を迎え、札幌市内でも十分に住宅取得が可能になったことで人口の社会増(他所からの転入による人口増)が鈍化したからと考えられる。つまり「札幌に近い」という価値は、札幌市内の不動産価格が落ち着いてしまえばその意味合いが大きく薄れてしまい、“代わりが効く価値”でしかないのだ。これは北広島に限らず、「新築」「駅に近い」「都心に近い」「商業施設に近い」といったマンションに共通すると考えられる価値は、さらに新しく、駅に近く、都心に近く、商業施設にも近い競合物件が登場した途端、その価値は色褪せてしまう。「東京に近い」「大阪に近い」などでも同じである。
▲「北広島」で接続する快速エアポート(右)と普通(左)。「札幌」から16分という近さはボールパーク誘致に味方した
だが“ここにしかないもの”を持っている街は、数多の“●●に近い”の中から抜きん出ることができる。例えば“東京に近い街”は数あれど、“東京ディズニーリゾート”という“ここにしかないもの”を持っている千葉県浦安市は、全国的な知名度の高さと住宅地としての高い評価を両立しており、自治体の財政健全化指数でも全国トップクラスである上、千葉県最高の地価となることも珍しくない。北広島市が“札幌のベッドタウン”から抜け出るには、“ここにしかないもの”がどうしても必要だったというわけだ。ファイターズが札幌ドームで問題を抱えていた中、元からあった“札幌に近い”メリットを活かし、人口195万の巨大自治体である札幌市にはなかなか真似ができない“中小規模自治体ならではの機動力”を武器に、北広島市はファイターズの誘致を勝ち取った。“ここにしかないボールパーク”を持つ街というブランディングを得て、Fビレッジだけではなく「北広島」駅前の再開発も動き出している。
▲「北広島」駅改札口付近。どちらを向いてもFビレッジ一色。駅に着いた時から興奮が高まるようになっている
ただ、人口5.8万人の市としては、相当に大きな財政負担を負ったという側面もある。北広島市はエスコンフィールドの用地を無償で貸与するほか、10年間の固定資産税・都市計画税を免除。2019年段階では200億円と言われていたところ、道路やライフラインの整備などで300~400億円を費やしたとされる。市の一般会計予算が年間250億円前後という中では重い負担であり、市議会の中ではFビレッジへの投資を惜しまない市長の姿勢を問題視する向きもある。千歳線新駅(北広島市による請願駅のため設置費用は全額市の負担)にしても、当初計画の80~90億円が昨今の物価上昇を受けて120億円になる、とJR北海道が通告したことで、コストダウン案の策定を迫られることになった。40億円もの値上げには耐えられないのが北広島市の規模なのである。
▲千歳線新駅予定地。既存の線路の外側に、新たなホームと線路が分岐して設けられる計画
・“野球”דまちづくり”の流れを生んだFビレッジ
2034年以降の冬季オリンピック誘致を目指す札幌市は、札幌ドーム周辺の市有地に「新・月寒体育館」の建設を行うという。整備費は400億円に上るとみられ、エスコンフィールドの建設で日本ハムが拠出したのが600億円といい、北広島市が40億円の拠出に難儀する中にあっては、その規模の大きさが窺える。五輪専用ではなくプロバスケットボールBリーグ「レバンガ北海道」の本拠地とすることも想定されているという。現在の月寒体育館は1972年の札幌オリンピック時にアイスホッケー競技場として整備され、築50年以上となっており更新が求められているのだが、それにしても“札幌ドームの赤字とは別の話”とはいえ(秋元市長)、札幌ドームからファイターズが去った直後、ドームのすぐ隣に新体育館を建設するというのはちぐはぐな印象が否めない。
▲ファイターズが去った札幌ドーム。“サッカースタジアムとの共用”は先進的だったのだが…(2019年6月撮影_AdobeStock)
とはいえ、替えが利かないはずのファイターズを失った札幌市が“次なる一手”を模索しなければならないのもわかるし、北広島市も替えが利かないファイターズを手にしたからには“何が何でもまちづくりを成功させなければならない”宿命を負ったのも事実である。幸い、アクセス問題はあるにせよファイターズファンのエスコンフィールドに対する評価は高く、Non-Gamedayでも道内外から観光客が集まり、ファイターズファンクラブの加入数も2023年は例年の3倍におよび、単年の増加数は2004年の北海道移転以降最多となったという。
▲2023年3月に開業したJR京葉線「幕張豊砂」。千葉マリンスタジアムの駅前移転が検討されている。
今後、バブル期前後に整備された大型施設が立て続けに更新時期を迎える。プロ野球球団の本拠地だけでも、千葉ロッテマリーンズの本拠地・千葉マリンスタジアム(ZOZOマリンスタジアム、千葉市美浜区)は1990年開場ではあるが海風が吹き付けるという環境ゆえ、JR京葉線新駅「幕張豊砂」駅前への移転や現地建替えなど今後の方向性を検討しているほか、1988年開場の東京ドームも築地市場跡地への移転を検討しているとされる。2023年9月7日には三井不動産や大成建設、読売ジャイアンツの親会社・読売新聞をはじめとする特別目的会社が8,000~9,000億円を投じ、ホテル・オフィス・“多目的スタジアム”を建設する再開発案を東京都へ提出したとの報道がなされた。エスコンフィールドやFビレッジとは文字通り桁違いの規模だが、“エスコンフィールドHOKKAIDOの評価がこれほど高く、Fビレッジの注目度も非常に高い”ことは、多少なりとも影響を与えたのではないだろうか。
▲都営大江戸線「築地市場」駅周辺では旧築地市場の撤去作業中。「新・東京ドーム」の最寄駅になるかもしれない
“●●といえばこの街”というものがある街は、差別化に悩む街が沢山ある中、差別化に成功している街と言える。“Fビレッジがある街”・北広島市は、これ以上ないほど強力な武器を得て、“札幌と新千歳空港の間の街”というイメージから見事抜け出した。今後はエスコンフィールド・Fビレッジという強力な武器を活かしつつ、まちづくりで成果を出していくことが求められる。2028年の千歳線新駅の開業時には、さらなるFビレッジのパワーアップと北海道医療大学新キャンパスのオープン、そして「北広島」駅前再開発の進展という新たな局面を迎える。さらに、2030年代中盤には北海道新幹線「新函館北斗」―「札幌」の延伸も控える。既に札幌市内では新幹線開業を見据えた再開発があちこちで進んでいるが、そうした中でも“Fビレッジがある街”・北広島市は埋没することなく、むしろ新幹線を味方にできるだろう。 “替えが効かないマンション”「レ・ジェイド北海道ボールパーク」も、今以上に存在感を放っているかもしれない。
▲北海道新幹線「新函館北斗」。ここから先、「札幌」へは2030年代中頃に延伸予定。
“替えが効かないマンション”は、今後のマンション業界のトレンドになっていくのではないかとも思う。そのムーブメントができるとすれば、「レ・ジェイド北海道ボールパーク」はそのパイオニアとして、マンション史に残るレジェンドになるかもしれない。そうなるかどうかは、今後の北広島市、そしてFビレッジを取り巻く人々の手腕にかかっている。
▲たとえほかのマンションがFビレッジにできても、この近さが将来にわたり変わることはない。
次回:千歳駅――2023年地価上昇率トップ!道産子半導体“ラピダス効果”がもたらす未来(北海道千歳市/JR千歳線)
北広島市について執筆している折、基準地価の上昇率トップ3を北海道千歳市が独占――というニュースが話題になった。北広島市も上位につけており、これは“ボールパーク効果”であることに疑いはないものの、北広島市の近隣であり、新千歳空港を有する千歳市の上昇率トップは半導体メーカー・ラピダスの進出による“ラピダス効果”と考えられる。非常にホットな話題であり、札幌圏全体の方向性をも動かすテーマであるため、次回は「北広島駅②未来編」の補完として、千歳市や周辺地域にとってラピダスが進出することはどういう意味合いを持つのか、また、それが不動産市場にもたらす影響について掘り下げていく。
▼次回▼千歳駅――2023年地価上昇率トップ!道産子半導体“ラピダス効果”がもたらす未来(北海道千歳市/JR千歳線) 2023/11/3(金) 10:00 公開予定
※特記以外の画像は2023年8月筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。
※ニュースソースについては、以下のHPを参考にしました。
賃貸不動産経営管理士
佐伯 知彦
大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。
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