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更新日:2024.09.05
登録日:2024.09.06

マンション最新技術研究室【サステナブランシェ本行徳】

マンション最新技術研究室【サステナブランシェ本行徳】

夜、寝る時間が近づくにつれて自動で暗くなる照明、マンション内にいながらバーチャルで森林浴体験……これは遠い未来ではなく、すぐそこまで来ている新しい住まいの姿です。
2023年9月に千葉県市川市で竣工した賃貸マンション「サステナブランシェ本行徳」。長谷工コーポレーションが、かつて自社で施工した物件を一棟まるごとリノベーション。建物が新築のように生まれ変わっただけでなく、次世代の新しい暮らし機能を搭載した「実験住宅」としても稼働しているのです。「実験住宅」は、長谷工コーポレーションの社員が実際に住みながら、さまざまな先進技術を使った暮らしのデータを取得しています。本プロジェクトを担当した、長谷工コーポレーション 都市開発部門 不動産投資事業部 事業開発部の小島智枝子部長(以下敬称略)にお話を伺いました。

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住みながら実験 データ蓄積でより良い住まいへ

――プロジェクトの背景や経緯を教えてください。

 

小島:「サステナブランシェ本行徳」は、国内初の建物運用時CO2排出量実質ゼロを実現したフルリノベーションマンションです。環境にやさしいリノベーションを実し、また、次世代住宅への実装を視野に入れた技術開発を目的に生活データを取得する居住型実験住戸を導入するなど、住まいの新たな価値創造へ挑戦したプロジェクトです。

長谷工コーポレーションは、マンションの施工実績ナンバーワン企業として、今日のマンションのスタンダードを築いておりますが得意としているハード面に加え、ソフト面も踏まえた両面での飛躍を目指しています。その一つとして、ウェルビーイングの考えに基づいた住まいづくりに取り組みたいと考えており、居住者の生の声を商品に活かしつつ、より健康でより快適に居住いただくためのプラスαの機能を追求する、様々な取り組みを実施しております。

長谷工グループとしても、マンションが持つ暮らしに関する情報を活用していく「LIMLiving Information Modeling)」という独自の概念を掲げ、人々が実際に住み始めてからのデータ収集・分析を本格化しています。その中で、約30年前に自社で施工した企業社宅を当社が事業主として再生する機会を得て、「サステナブランシェ本行徳」が誕生しました。

36戸のうち23戸は一般の賃貸住戸ですが、13戸は実験住宅として、社員が居住しながら効果を検証しております。

疲労回復に快眠、再配達防止 さまざまなマンションの可能性を考える

――具体的にどのような実験が行われるのでしょうか。

 

小島:実験項目のひとつとして、「森林によるリラックス効果、疲労回復効果の検証」があり、今回、マンション共用スペースに「バーチャル森林浴」を設置しました。壁と天井に森林の映像が投影され、音や香りとともに自然空間への没入体験ができます。これにより自律神経の乱れの改善、不安やイライラを和らげると言われています。

バーチャル森林浴。雪や海など他の風景も楽しめる

バーチャル森林浴。雪や海など他の風景も楽しめる

また、CO2排出量削減への物流効率化の取り組みとして「荷物の再配達防止」のために、置き配システムや将来対応としてスマートロックを導入しています。エントランスの宅配ボックスがいっぱいでも、配達員に一時的なデジタルキーを発行することで、各住戸の玄関前にある鍵付きの置き配スペースへ配達ができます。

専有部に設置した実験住戸では、部屋ごとに実験項目を変えています。「住宅の照明・温湿度・内装による睡眠の質向上の検証」を行う部屋では、夜は照明の明るさを弱め、朝は太陽光を取り入れるためにブラインドを開けるなど、「サーカディアンリズム」を取り入れました。このほか、木質クロス(木の香りなど)によるリラックス効果、全館空調による快適な温湿度環境の構築など、「快眠のための家」を創出いたしました。

私自身、出産後ホルモンバランスの変化からあまり眠れなくなって、せっかくの自宅なのに眠れないなんて、と睡眠のための住環境構築について関心を持っていました。もともと、眠る前は部屋の照明を暗くするようにしていましたが、それがまさにサーカディアンリズムに基づいた行動だったということで、今回の実験でも効果に期待しています。

サーカディアンリズム照明とは?

サーカディアンリズム照明とは?

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    サーカディアンリズムに基づき、夜は強い光を避けるよう制御

    朝は太陽光を取り入れる。室内の45%を木質化し、触れたり香りを感じたりすることでリラックス効果を狙う

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また他の部屋では、「エネルギー消費量を抑えつつ快適性を損なわないスマートホームシステム」を検証しています。その部屋では、太陽光で発電した電気を専用の蓄電池にため、そのエネルギーだけで生活します。ただし、必要な家電を使用しないなど我慢するのではなく、蓄電池の残量に応じて家電を省エネモードに自動制御しながら、快適性も維持することを目指しています。さらに室内のテレビモニターで、エネルギー消費量のほか日用品の残量など生活情報を見える化。残り少ない日用品を自動で発注することも可能です。このようなサービスは今後、複合開発などで、街区内の商業施設と連携して日用品をマンション住民に手配するなど、新しいビジネスモデルも考えられます。

――一般住宅への採用や他の実験など、今後の展開はどのようにお考えですか。

 

小島:実験的要素を含むうちは一般的な住宅への導入は難しいかと思いますが、想定している結果が出るだろうと示唆できる実験もあり、並行して開発中の賃貸マンションへの導入検討を進めています。早速、共用施設にバーチャル森林浴の導入を検討しているなど、広がりを見せています。

一方で、実は本プロジェクトで採用に至らなかった項目などがまだあります。例えば、都心の密集地に建設されエントランスの植栽に日が当たりづらい環境でも、植物が育つ照明を設けて生木が生息する環境にすることも考えていました。 

 

――植物が育つ環境を人工的につくることができれば、そのうちマンション内で自家製野菜が収穫できそうです。

 

小島:それも面白そうですね。ファミリータイプのマンションだと特に魅力的な取組みですね。このような会話から、実験内容についてはいろいろな部門の社員と議論しました。

 

ストック活用でCO2排出実質ゼロへの挑戦

――サステナブランシェ本行徳は、既存の建物を全面改修し、建物運用時のCO2排出量実質ゼロを目指すという、国内では初めての試みをしているマンションでもあります。改修の工夫や特徴を教えてください。

 

小島:省エネ性の向上にあたって、壁面には既存のタイルの上から外装材を施工する外断熱工法を一部採用しています。新しい外装材(サイディング)には国産木材の端材が用いられ、環境に配慮しながらデザイン性を高めています。新築でも採用可能ではありますが、特にリノベーションでサイディングを用いて施工することは有効だと思います。既存外壁の上から直接打ち付けることができるので、タイルの廃材を出さずに施工でき、またタイルの剥落防止にもなっています。

 

サステナブランシェ本行徳 外観

サステナブランシェ本行徳 外観

――見学した際、新築のような外観に驚きました。省エネに加え、再生可能エネルギーの利用も進められていますが、バルコニーの手すりを太陽光発電設備にしたことも、実験的な取り組みとなっています。

 

小島:バルコニー手すりなので、採光や眺望などの居住性を高めるためにシースルーである必要がありました。そのため一面すべてに太陽光パネルを採用するのではなく、発電する部分が細く線状に並んでいます。さらに、前述の壁面サイディングにも、ところどころに太陽光パネルが配置され、デザインと発電量の両方に貢献しています。屋上に太陽光パネルを設置した方が発電量は多いですが、十分な屋上面積を確保できるマンションは多くありません。発電量が少なくても、バルコニーや壁面を活用した太陽光発電は推進してくべきだと考えています。一方で、発電設備は定期的に点検しなければいけません。人が居住する中で、バルコニー手すりに設置した設備をどのように点検するかといった課題もあり、今後検証していきます。

 

――スクラップ&ビルドから既存建物の活用へ転換していくことは、社会課題解決のためにこれからより求められていきますね。

 

小島:そうですね。環境配慮の視点などから、今ある建物を大事にしていきたいという考えがあって、本プロジェクトでも建替えではなく改修の手法をとりました。最近は建築費が高騰していますので、費用面でも改修・リノベは有効です。先ほど、「新築のような外観」と仰っていただきましたが、そのクオリティが新築よりも費用を抑えてできるということです。長谷工の一棟リノベ実績として、多くのマンションオーナー様に本プロジェクトを知っていただきたいです。

 

小島 智枝子 氏

小島 智枝子 氏

<略歴>

小島 智枝子 氏

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株式会社長谷工コーポレーション 都市開発部門 不動産投資事業部 事業企画部 部長

株式会社長谷工アーベストへ入社後、分譲マンション販売や商品企画、マーケティングに従事。

その後、長谷工コーポレーションの経営企画部で新規事業検討などに携わる。

2017年に同都市開発部門、2023年より現職。一級建築士、宅地建物取引士。

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