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更新日:2023.12.08
登録日:2023.04.14
日本経済新聞社、堀氏が語る 「マンションの課題」
マンションが抱える様々な課題について、日本経済新聞 生活情報グループ 住宅問題エディター 堀 大介様(以降、敬称略)にお話を伺いました。
堀氏はこれまでマンションの管理や修繕、建て替え問題のほか、老後の住まいの確保など多くの取材とご執筆をご担当されています。
インタビュアーは東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員兼マンション図書館館長の井出が務めます。
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日本経済新聞 生活情報グループ 住宅問題エディター 堀 大介 様 (以降、敬称略)
井出:堀さんがマンションを取材対象としたきっかけは何ですか?
堀:もともと、自身の生活に根差したテーマを取材する方が向いていると感じていました。私は1975年生まれですが、ずっとマンション住まいで、今もマンションに住んでいます。子どもの頃から親が理事会とやりとりする様子を見ていて、管理費を支払っていることなどもなんとなく知っていたので、マンションとお金は身近なテーマでした。
「判だけ押してくれ」と言われ、修繕工事は粛々と進んだ
堀:昔、住んでいたマンションで修繕積立金が足りず、多額の臨時徴収を求められたことがありました。理事会へ行ってみると、元地主とある居住者が通じていて、その2人によって修繕計画はほとんど出来上がっていました。元地主は決議を左右するような議決権を持っていたわけではなかったのですが、管理を外部へ委託するのではなく自分でするような意欲的な人で、「オーナー然」として振る舞っていました。他の所有者も元地主に任せきりだったのです。理事会で元地主から「判だけ押してくれ」と言われ、修繕工事は粛々と進められました。私は判を押したものの、お金に関わることがこんな形で決まってしまうのかと疑問を抱きました。何かルールがあるはずだと思いましたが、ずっとマンションに住んでいたにも関わらず、恥ずかしながら全然知らなかったのです。当時私は日経新聞でお金にまつわる記事を担当していて、ちょうどマンションとお金について取り上げることになっていました。そこへ私の実体験に基づく問題意識も加わり、マンション取材が始まりました。
マンション管理の問題点
井出:堀さんは、マンションの管理問題についてかなり早い段階からご指摘されていましたが、マンション管理のどこに、どのような問題があると考えますか。
堀:先ほどの実体験の通り、マンション管理にまつわるお金が果たして十分なのか、という意識は当初からありました。実際にそうしたテーマを取り上げるようになったのは2014年頃でした。部署異動を経て、またお金を扱う記事の担当へ戻ってきたタイミングです。あくまで個人的な印象ですが、以前はマンション問題を取り上げた記事は半年に1本のペースだと読者ニーズに対してやや多いくらいでしたが、その頃は半年に1本、あるいは3~4か月に1本というペースで記事化されていました。マンションに住む人の割合が高まり、かつその人たちが情報を求めるようになっていたのです。また、老朽化したマンションに住む人の割合も相対的に高まっており、取材をするうち、私のかつてのマンション修繕での体験は、決して特別なものではないという感触を持ちました。管理問題の1つの根幹は、管理していくのにお金が必要であり、それは原則的に区分所有者が負担していくしかない。しかし、果たして将来的に「足りるか、足りないか」を所有者の多くが知らない、当事者意識も乏しい――ということではないかと考えています。
都市型居住進行に伴うマンション居住者の増加
井出:都市型居住が進行して、マンションに住む方が絶対数として増えてきたと思います。問題はより身近に、社会問題にもなっていました。
堀:そうですね。この十数年で、単純なマンション化率の数字、自分がマンションに住んでいるという数字はもちろん、中身を見ればその親もマンションに住んでいるという人が増えたと思います。マネープランの中で居住費の占める割合が増えてくる世代の人たちが、親からマンションを相続したら、いきなり管理費や修繕積立金を請求されるような状況に直面したのでしょう。
マンション管理適正化法の改正
井出:そうした状況がある中で、マンション管理適正化法が改正されるなど法整備が進んできました。堀さんはどうご覧になっていますか。
堀:法整備自体は評価しています。先ほど、私が早い段階からマンションの管理問題を指摘してきたというお話をいただきましたが、過去の日経の記事を見るとバブル期からそれらを指摘するものが散見されます。このままでいいのかという意識は、マンションがどんどん建てられていく最中にもあったのです。法の整備が問題に対して後付けになってしまうのは仕方がありませんが、本丸と言える区分所有法の改正に向けても動き出しており、そうした動きが活発になるのは良いことです。しかし、現状の議論には歯がゆさもあります。さらに先をにらんだ取り組みを不断に行わなくてはならない。例えば区分所有法改正へ向けた検討事項に建て替え決議要件の緩和がありますが、これからの老朽マンションに対する答えが建て替えとは限りません。スピード感に限界はあるかもしれませんが、トライ&エラーで、法改正を先行していく姿勢でなければ手遅れになってしまいます。
区分所有者の責任
井出:管理費や修繕積立金のハードルを上げる話もありますが、他に必要だと思う視点はありますか?
堀:区分所有者の責任がクローズアップされがちですが、個人としてはマンションを分譲する供給側にも一定の規律を求める法整備が必要だと思います。
井出:デベロッパーが最初に修繕積立金の額を設定するのですから、供給側も維持管理の一端を担っています。もちろんデベロッパーも変わろうとしているのは感じますが、結局お金の問題になってしまっています。
堀:お金さえ払えば当然のようにサービスを受けられるという認識が、そもそも通用しなくなるのではないでしょうか。建て替えをするにも担い手を確保しなくてはならないのに、その議論がおざなりになっていると感じます。供給側は、維持管理に責任を持つことに加え、管理する人材が働きやすい環境づくりにも目を向けるべきです。過剰なサービスがあればなくして、その分管理費を抑えるなど、持続可能な管理体制を考える必要があります。
マンション管理と人手不足、管理のスリム化はどのように実現するか
井出:マンション管理の人手不足はよく耳にします。管理のスリム化は、これから必要な考えですね。
堀:今までの管理を維持するならば管理費が上がる。管理費を払う側がそれを甘受できるかということでもありますね。ただ、個人の考えですが、これまでの管理内容を維持することは無理だと思っています。今後は、所有者や居住者がどこまで役務を提供するかという話になりそうです。簡単な清掃や、組合運営などの頭脳労働は自分たちが担う。そういう覚悟も必要です。お金を払うか、自ら担うか、二者択一なのです。人口動態を見ればこうした状況になることはもはや明らかで、国が明確に指摘していい問題だと思います。
井出:そういう時期に来ていますね。管理以外に、購入者や世代、年収格差などマンションがもたらす二極化も取り上げられています。
堀:誤解を恐れずに言うと、タワーマンションはある意味で二極化の象徴ではないかと思います。私はタワマンの真ん中くらいの階に住んでいた時期があるのですが、事情があって手放すことになり、内見の場を設けました。その際に、同じマンションの下層階に住んでいる方も来られて、「眺望も、日当たりも自分たちが住む階とは比較にならない。素晴らしいけど、とても手が出る値段ではない」と話されていました。一方、最終的にはお医者様が即決していきました。取引成立にはホッとしましたが、同じ建物でも住人間でここまで格差があるのかと、少し複雑な気持ちでした。
マンションの長寿命化にまつわる二極化
井出:マンションの出口戦略についてはどう思いますか? 最近はリノベーションマンションが、長寿命化に向けた一策として多く見られます。
堀:リノベマンションについては、価格が高騰した新築から関心を移す若い世代が増えたと感じます。ただ、リノベには配管などの設備にも手を加えたものとそうでないものがあるけれど、まとめてリノベマンションと呼ばれています。若い世代が、配管が古いままの建物のリスクをすべて承知して購入しているとは到底思えません。管理組合の若返りが図られるといった良い点も多いですが、もともとお住まいの高齢世帯と意見が食い違う例もあります。深刻な例では、大規模修繕や建て替えなど、非常に大きなお金がかかる議題で、一定の所得を確保できている現役の層と、年金生活に移行した層で先鋭的な対立が起こると言います。前者は、「マンション資産価値を高めるために是非、前向きに」と言う一方、後者は「自分の余命分に近い、『もう少し保つ』程度で十分」という主張をする場合もあるそうです。
今後、区分所有法が改正されたとしても、様々な所有者が共有し、多数決で物事を決めるというマンションの本質は変わらないでしょう。異なる価値観を持つ人たちが同じテーブルについて議論するというのは、民主主義社会の縮図のようだと感じます。住人間の格差がある中では、今後増えてくるだろうタワマンの修繕は組合での議論が紛糾しそうです。「一億総中流」と言われた時代は過ぎ、合意形成はだんだんと難しさを増している。それでも、知恵を出して歩み寄る余地を探すことは大切ですし、マンション内でそうしたノウハウを持つ人が増えていけば、もう少し大きい社会コミュニティの運営にも役立つと思います。
管理組合を解散しマンションを売却する清算
井出:建て替えや修繕のほか、管理組合を解散しマンションを売却する清算についてはどう思いますか?
堀:人口減少の中ではあり得る選択肢だと思います。しかし、清算によって住まいを失っては意味がありません。清算後の住まいに対する手当などの議論も同時並行で必要です。とはいえ、例えば清算すると優先的に公営団地に住むことができる制度を設けたとして、それまでタワマンに住んでいたような人は住まいとしてのグレードに納得できないでしょう。マンションという区分所有物に限った議論だけではなく、住まい全体を見据えた実効的な議論をしなければ、どこかで副作用が起きてしまうと思います。
“東京ブランド”に固執する現在
井出:こうなると将来マンションを選択する人はいなくなるという危惧すら感じます。
堀:先日、マンション人気の根底について有識者に取材しました。その方によれば、東京というブランドへの固執は、他の圏域よりも強いのだそうです。都心に住みたいけれど戸建では高くて住めない。そこで、土地を共有して住戸を縦に積み上げたマンションを選ぶのです。東京と地方との仕事や所得の差を考えれば仕方がないかもしれませんが、日本は企業の東京一極集中がなかなか改善されない。海外は、中心都市がありつつ周辺都市にも企業が立地し、職住近接の環境が分散しています。日本の企業も移転に対して全くやる気がないわけではありませんが、中古住宅の流通の少なさから分かるように、日本は持ち家に縛られがちで、従業員には勤め先の移転とともに住まいを移すという考えがあまりありません。この意識が、日本企業の本社移転を部分的に阻んでいるのかもしれません。戸建もマンションもフラットに選ぶことができて、住み替えのため中古として売りに出しても買い叩かれない。こうした環境になれば、マンション人気は落ち着くでしょう。デベロッパーにとっては痛手かもしれませんが、都心への固執が薄らぐのが健全であって、今のマンション人気はいびつな需要にみえます。人口を合理的に分散させることに対して、国や地方自治体ももっと本気で考えなくてはならない。最近、子育て世代への給付を手厚くして、人口が増えた自治体もありますが、その子どもたちまで将来にわたって住み続けてくれる施策も必要です。地方には手つかずの課題がまだまだ存在し、人口動態上、避けては通れない状況になっていると感じます。
井出:東京というブランドに縛られ、持ち家に人生まで縛られている状況においては、その根本に手を加えなければ、住まいの問題は解決しないのでしょうね。
堀:場所に対する思い入れは大切ですが、個人が固執することによる社会負荷を考えなくてはならない局面に立っていると思います。法が私有財産への不可侵の原則を貫いていているだけでは、対処しきれないケースが増えているのではないでしょうか。
住み替えへの公的機関のサポートの必要性
井出:住み替えに対するサポートに対してはどう思いますか?
堀:約849万戸あるという空き家を、公的機関が本気で管理しなければならないと考えます。これもあくまで個人的な考えですが、最終手段としては所有者の意向に100%沿うものではなかったとしても、一定条件に当てはまる場合は、再開発をして次の人へ渡す。この再開発は、上辺を取り替えるのではなく、耐震性や省エネ性など住まいとして満足できるものとするということです。家がこれだけ余っているのに、一方ではマンションの抽選に漏れて買えない人がいたり、高齢者やひとり親世帯が適切な住まいを見つけられなかったりします。本当の意味で需要と供給を釣り合わせる役割は、公が担うべきだと考えます。まず空き家の数、状態などの実態をしっかりと把握する必要があります。
<略歴>
堀 大介 氏
住宅問題エディター
1999年日本経済新聞社入社。衣食住など主に生活関連情報の記事執筆を担当。22年4月より現職。マンションの管理や修繕、建て替え問題のほか、老後の住まいの確保の点から介護関連の取材も行っている。
東京カンテイ上席主任研究員
井出 武(マンション図書館館長)
1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
現在、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績あり。
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