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更新日:2024.09.13
登録日:2024.09.13

最先端のリノベマンション「サステナブランシェ本行徳」:マンション図書館館員で行ってみた!

最先端のリノベマンション「サステナブランシェ本行徳」:マンション図書館館員で行ってみた!

 千葉県市川市「妙典」に誕生した「サステナブランシェ本行徳」は、長谷工コーポレーションが当時築31年の旧社宅を取得し、徹底的なリノベーションを施した、全く新しい賃貸住宅だ。最大の特徴は、単なるリノベーションに留まらず、SDGs、Sustainable、Well-beingなど、マンションの未来を先取りする様々な取り組みを詰め込んでいることだ。今回は、株式会社長谷工コーポレーション 都市開発部門 不動産投資事業部 事業開発部長 小島 智枝子氏にお話を伺いながら、「サステナブランシェ本行徳」が目指すもの、そしてマンションの未来について考えてみよう。

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サステナブランシェ本行徳とは

 「大手町」から東京メトロ東西線の各駅停車に揺られること26分で「妙典」に着く。駅北口を出て徒歩6分、市川市本行徳に建っているのが「サステナブランシェ本行徳」だ。竣工は1990年2月で、取材(2024年1月)時点でほぼ築34年になる。とある企業の社宅として用いられていたが、本物件の建築自体を長谷工コーポレーションが手掛けていたこともあり、経年の変化を調査するとともに、技術開発に役立てる狙いもあり同社が取得、徹底的なリノベーションを施したものだ。詳細については公式ホームページをご覧いただきたいが、“マンション図書館”的に注目ポイントをいくつか深掘りしてみよう。

▲「サステナブランシェ本行徳」のエントランス側。サイディングが効果的に用いられ、築年を全く感じさせない。

▲「サステナブランシェ本行徳」のエントランス側。サイディングが効果的に用いられ、築年を全く感じさせない。

物件名に込められた意味

 まずは物件名に込められた意味について伺った。そもそも、長谷工コーポレーションでは自社で手掛ける分譲マンションのブランドとして「ブランシエラ」を用いているが、これは同社公式HPによると「<流行の先端を行く>という意味のフランス語『BRANCHÉ』と、<時代、紀元>を意味するイタリア語『ÉRA』を組み合わせた造語です。常に時代を切り開いていくという意味が込められています。」とある。つまり、そこに「Sustainable(=持続できる)」を組み合わせ「Sustaina Branche(=持続可能な流行の最先端を行く)」という、SDGsを強く意識した物件名に仕上げたということだ。なるほど、エントランス周りからして豊かな緑化が施され、「建物運用時のCO2排出量実質ゼロ」を目指し、屋上のみならず壁面・ガラス手摺にも施された太陽光発電、セントラルエコキュートによる太陽光発電の自家消費システム、純水素型燃料電池の採用など、多くの“Green  Renovation”が詰め込まれているのだ。

▲バルコニーのガラス手摺に組み込まれた太陽光発電パネル。適度な視界、採光、プライバシー性と発電を両立している。

▲バルコニーのガラス手摺に組み込まれた太陽光発電パネル。適度な視界、採光、プライバシー性と発電を両立している。

 また「妙典」徒歩6分と駅近であるのに敢えて「妙典」を外し、所在地名の「本行徳」を冠した理由についても聞いてみたが、これは「“妙典”よりも“行徳”の方が広域的な知名度があるため」だそうだ。確かに、「妙典」では東西線沿線では「妙典行き」が走ることもあり一定の知名度はあるが、沿線外への知名度には乏しい。これに対し「行徳」は“行徳塩田”に代表されるように歴史の舞台にも登場するほか、“行徳警察署”(『行徳』駅周辺ではなくJR京葉線『市川塩浜』駅前にある)や“市川市役所行徳支所”など、「妙典」よりも広域的な地名として用いられている。所在地名の“本行徳”も、行徳寺町を代表する“徳願寺”すぐ隣という立地ならばこそのもので、せっかくある“本行徳”の町名を有効に用いたということだろう。賃貸住宅の競合先としては「市川」~「船橋」あたりのJR総武線沿線を想定しているといい、沿線外にも地名のイメージがつきやすいのは確かに「行徳」の方かもしれない。

▲「サステナブランシェ本行徳」の館銘板。緑に覆われた意匠が"Sustainable"そのものだ

▲「サステナブランシェ本行徳」の館銘板。緑に覆われた意匠が"Sustainable"そのものだ

リノベーションでここまでできる!驚きの改修の数々

車路をエントランスホールに改修してイメージを一新

 まずはマンションの顔となるエントランスだが、スクエアなデザインかつモノクロームと観葉植物でまとめられており、華やかながらもシックな印象を受ける、とても現代的なものだ。オートロック内部にもグリーンがあしらわれ、ちょっとしたコワーキングスペースになっている。在宅ワーク時の気分転換にも良さそうだ。斯様に現代的なエントランスなのだが、この部分はかつての駐車場への出入口だったというから驚く。なるほど、車路をメインルートからマンションの裏手側に移し、道路に面して印象的なエントランス棟に一新することで、マンション全体のイメージを引き締めるとともに、車路という部外者が入り込みやすい部分を目立たなくすることで、セキュリティ性の向上にも寄与しているというわけである。駅6分という立地なのでクルマを持つ世帯も多くはないだろう。道路に面したアクセス性より、マンションのイメージを優先しているようだ。

▲エントランス。かつての車路を転用した空間に新築。マンションの顔となる印象的な造形に仕上がっている。

▲エントランス。かつての車路を転用した空間に新築。マンションの顔となる印象的な造形に仕上がっている。

 また無視できない効果として、屋根と壁の既存躯体を残しつつ、エントランス部分を新築同様にすることで、それに繋がる築34年の躯体までも“新築っぽい”印象が継続して感じられるのだ。もちろん仔細に観察してみれば、丁寧に再塗装されてはいるがタイル張りではなく吹き付けの外壁であったり、躯体の基本は変わっていないので当然ではあるのだが、それでも床材がエントランス周辺と共通するものに一新されたり、玄関扉が木調のものに交換されたりといったおかげで、経年を感じさせない仕上がりになっている。また、外壁にもサイディングが印象的に用いられており、こちらも木調のデザインを用いることで統一感のある意匠に仕上げているほか、吹き付けの外壁特有の“のっぺりとした印象”を全く感じさせないものとなっている。上から取り付けるだけなので端材・廃材も出ないといい、小島氏曰く「サイディングはリノベーションに最適な手法」とのことで、デザイン性の高さと施工の簡潔さを両立させている、見事な仕上がりというほかない。

▲エントランス棟内部。当物件を象徴する木調にまとめられ、コワーキングスペースも兼ねた心地よい空間。

▲エントランス棟内部。当物件を象徴する木調にまとめられ、コワーキングスペースも兼ねた心地よい空間。

はしごの上のロフトをテレワークスペースに

▲上部の開口部がかつてのロフト部分。リビングとは切り離され、独立した空間に仕上がっている。(リビング上とのロフトとは別室)

▲上部の開口部がかつてのロフト部分。リビングとは切り離され、独立した空間に仕上がっている。(リビング上とのロフトとは別室)

 まず「IoT+AI Smart Housing」の部屋に設けられたロフトへ上がってみる。すると、掘りごたつのように改修されていて、足が下ろせるので座ってしまえば天井の低さが気にならず、明かり取りから階下、そしてバルコニーとその先の景色を見渡す設計になっているので、座っているだけでも開放感がある。かつ、昇降口と明かり取りを除いて壁で覆われているので、リビングでのテレビの音や話し声もあまり気にならないだろう。反対に、ロフト上で電話やオンライン会議をしていても、その話し声がリビングにまで響いてきてうるさい、ということもなさそうで、なるほどロフトはこうすれば活きるのか!と、目から鱗。ただ“居室ではない”ので、エアコンの設置はできないそう(自治体による)。それでも通風のための開口部は確保されているので、サーキュレーター等を利用して階下からエアコンの風を送り込むことはできる。ワークスペースだけでなく、趣味の空間などにも有効だろう。

▲ロフトへ上がるための階段。洗面所への通路を兼ねているため、収納式になっている。巧みな設計

▲ロフトへ上がるための階段。洗面所への通路を兼ねているため、収納式になっている。巧みな設計

未来を先取りするロボットとのIoT生活

 続いて印象的だったのが、IoTをフルに活用した技術だ。まず目を引いたのが、Kachaka(カチャカ)という自動で動く収納家具。平たく言えば、ロボット掃除機・ルンバのような基部が自動で動き、その基部の上に跨がるワゴンを乗せ換えて、様々な生活のアシストをしてくれるというもの。例えば、時間になったら薬を収納しているワゴンがベッドの横にやってきて服薬を管理してくれるとか、物干しの時に洗濯カゴをバルコニーまで持ってきてくれるといった具合だ。また、スマート収納として、Amazonと連携し、センサーで食料品や日用品のストックを把握、少なくなったら自動で注文してくれる収納もある。不在時は、玄関脇の戸別宅配ボックスに置き配してくれたりもする。Kachakaは、「●●持ってきて」というオーダーにも応えてくれる。いわば“動くアレクサ”であり、IoT家電もここまで来たか、という思いを抱かずにはいられない。

▲ワゴンを装着したカチャカ(最下部のユニット)。まさに「動くアレクサ」として、日常生活をアシストしてくれる。

▲ワゴンを装着したカチャカ(最下部のユニット)。まさに「動くアレクサ」として、日常生活をアシストしてくれる。

 また“快眠のための家”という、良質な睡眠を導くコンセプト住戸も目を引いた。その核となるのが“サーカディアンリズム照明”という、色合いや光量の変化によって入眠・覚醒を適切に誘導する仕掛け。照明だけでなく、ブラインドの開き具合や空調管理といったIoT家電との連携や、木質クロスの温かみといった自然由来のものに至るまで、あらゆる面から快眠を導く仕掛けが施されている。これらは長谷工だけではなく、“NTT東日本グループ”および“ブレインスリープ”との共同研究によるものだが、この部屋に限らず、コンセプト住戸では多くの企業や大学研究室がかかわる“共創”が重んじられているのもポイントだ。いまやイノベーションは自社単独でできるものではなくなり、“共創”によって自分たちだけでは得られないアイデアや技術を組み合わせていくものになっている。それがいよいよマンション業界にも取り入れられつつあるということに、マンションの未来を見る思いがしたのだった。

▲“快眠のための家”。サーカディアンリズム照明を間接照明に採用。木質クロスも本物の木質である突板クロスを使っている。

▲“快眠のための家”。サーカディアンリズム照明を間接照明に採用。木質クロスも本物の木質である突板クロスを使っている。

コンセプト住戸に住みながら実験!

 「サステナブランシェ本行徳」の目的として、長谷工技術研究所の「住める実験住宅」という役割もある。コンセプト住戸は未来を感じさせるものではあるものの、一般的な賃貸住宅として供用するには尖った要素も多いため、一般的な住戸のみを賃貸住宅として運用し、コンセプト住戸は社宅として利用するという方策が採られている。“快眠のための家”で本当に快眠ができているか、IoT家電は生活に欠かせないものとして機能しているかなど、社員の生活を通じモニターしているのだそう。従来の技術研究所では“住むこと”はできなかったので、もう一歩踏み込んだ実験施設として、過去に同社が手掛けた社宅を取得することになったそうだ。実際、実験的要素は別として、解体してから同様の住宅を新築するよりもコストは安く、“使えるものは使う”SDGsの考え方にも合致するものとして、今後はより多方面に展開していきたいとのこと。分譲マンションにも盛り込まれる日は、遠からずやって来そうだ。

▲ロフトを撤去し、天井までの“魅せる収納”に。高い天井を活かし、収納を境に部屋を分割しているのもポイント。

▲ロフトを撤去し、天井までの“魅せる収納”に。高い天井を活かし、収納を境に部屋を分割しているのもポイント。

▲中二階を造り、上部を子どもの遊び空間、下部を収納に。中二階でも座る分には問題ない。縦空間をうまく活用

▲中二階を造り、上部を子どもの遊び空間、下部を収納に。中二階でも座る分には問題ない。縦空間をうまく活用

“緑を育てる赤いライト”!?今後盛り込みたい最新技術

 また今般は盛り込めなかったが、今後検討していきたい要素として「緑を育てる赤い光」があるそうだ。「サステナブランシェ本行徳」では、立ち木は本物の樹木ながら、エントランス周辺を彩る草花はフェイクとせざるを得なかったそうだが、新たな技術として“照射すると緑の成長に寄与するライト”が実用化されつつあるのだそう。都心の密集地で採光が望めないような場所でも豊かな緑を育むことができたり、マンション内で野菜を水耕栽培できたり、といったことも夢ではないという。昨今、物価や労務費の高騰によりマンション価格は上昇し、専有面積は縮小するということが課題となりつつあるが、こうした新技術はそれらの悪条件を克服する原動力ともなるだろう。また、ロフトの有効利用に見られるように、横の空間を広げられないのであれば、縦の空間を活用するということも重要になってくる。コンセプト住戸の中には中二階を設けたものもあり、子ども部屋や収納空間としての活用が模索されていた。成熟しつつあるように見えるマンションだが、まだまだ技術革新と共に進歩するのりしろは大きそう。それが新築でなく、リノベでここまでできるということに、驚きを隠せない体験であった。

佐伯 知彦

賃貸不動産経営管理士

佐伯 知彦

大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。

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