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更新日:2024.09.24
登録日:2024.09.27
URまちとくらしのミュージアム:マンション図書館館員で行ってみた!
かつては東京23区内で最大の公団団地であり、「団地マニアの聖地」と言われた「旧赤羽台団地」。その一角が新たな聖地として生まれ変わる予感です。同潤会アパートなどを実物展示するミュージアム棟、登録有形文化財として当時の姿を残した保存棟などで構成される「URまちとくらしのミュージアム」が、2023年9月にオープンしました。一方では建て替えにより新たに整備された住まいが広がり、もう一方ではかつての人々が暮らした住まいへ実際に入り込むことができるのです。関東大震災からの復興、新しい生活様式の提案、ニュータウンの誕生、まちづくり――。同潤会や日本住宅公団、都市再生機構(UR都市機構)による、日本の住まいと暮らしを支えてきた歴史を体験できる「聖地」へ、マンション図書館員がお邪魔しました。
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スターハウス
「URまちとくらしのミュージアム」はJR赤羽駅から歩いて8分ほど。まず目に入ってくるのは保存棟のひとつ、「スターハウス」と呼ばれる建物です。団地のシンボル的存在として日本住宅公団では1950~60年代に建設されていました。 上空から見るとY字型の形が特徴で、1フロア3住戸がすべて3面採光という優れた居住環境で人気を得ていたそうです。エリア内にはこのほか板状の保存棟もあり、IoTモデル住戸を開設するなど、実証実験の場としても活用しているとのこと。
保存棟の奥にあるのがミュージアム棟。周辺に植えられた木々と調和する外壁と、大きな開口が目を引くデザインとなっています。
いざ、ミュージアム棟見学!
見学の際にはガイドの方が当時のエピソードを交えながら案内をしてくれます。目玉はやはり、復元住戸。同潤会代官山アパートや蓮根団地など、各時代の住戸がミュージアム内に復元されています。しかも、実際に中へ入ることができる点が、このミュージアムの大きな特徴と言えるでしょう。
同潤会代官山アパート
年代別に見ていくと、まずは同潤会代官山アパート(1927年入居開始、以下同)です。このアパートをつくった同潤会は、関東大震災からの復興のために義援金をもとに設立された団体で、地震や火事に強い鉄筋コンクリート(RC)造の住宅を東京都内や横浜市で供給しました。ここでは、単身用と世帯用がそれぞれ復元されています。単身住戸には備え付けの寝台(ベッド)があり、横に通気用の窓がついています。気密性の高いRC構造のため、こうした風通しを良くするための工夫が見られました。さらに、湿気対策として床はコルクの上にゴザを敷いた「畳風」。家具を置いた際の沈み込みを防ぐ役割もありました。
単身住戸のベッド。下は収納になっている
続いて世帯住戸です。驚いたのがトイレに電球がないこと。電球の数によって電気料金が決まっていたので、節約のために電球をつける箇所を選別していたのだとか。夜は玄関の明かりを利用していたようです。木造住宅が主流の当時、このように設備が整ったRC造の住宅は人気が高かったのですが、家賃は同じ立地・間取りの木造住宅と比べると1.5倍ほどで、大学教授や銀行員、新聞記者など、定期的に安定した収入がある、当時の社会的には裕福とされる人たちが住んでいました。
世帯住戸の台所。流し台の右側にはダストシュートがあり当時としては画期的
蓮根団地
次に蓮根団地(1957年)。この団地はUR都市機構の前身となる日本住宅公団が設立初期に供給したものです。日本住宅公団の設立までに、同潤会から事業を引き継いだ住宅営団が1941年に設立されており、第二次世界大戦下において軍需工場で働く人のための規格化された住宅供給を担っていました。戦争終結後に住宅営団は戦争協力団体とみなされ、GHQによって解散させられ、戦後の住宅政策の柱の一つとして日本住宅公団が登場したわけです。公団ができた1950年代というのは、集合住宅の形を模索した時代で、さまざまな試みが見られたそうです。
蓮根団地では、日本でまだ馴染みがなかったダイニングキッチン(DK)の間取りを提案しました。 ちゃぶ台を片付けて同じ部屋に布団を敷くスタイルから「食寝分離」の現在へ、この蓮根団地が転換点となっていたのです。公団住宅で最も人気の高い団地では、競争率数十、抽選で入居を勝ち取った「団地族」は、当時あこがれの的でした。
何もないとまたちゃぶ台を置いてしまうのでは? ということでテーブルは備え付け。まだステンレスの大量生産が実現してなく、流し台は人研ぎのもの
晴海高層アパート
続いて晴海高層アパート(1958年)です。日本住宅公団初の高層アパートで、10階建ての建物へ初めてエレベーターも2基設けられました。設計は前川國男氏によるもので、「メガストラクチャー構造」が採用されています。この構造は、3フロア6戸を1ユニットとして大きな柱と梁で支えるというもの。壁や床を抜いて広い空間として使うことも想定していました。前川氏はパリで、モダニズム建築をけん引していたル・コルビュジエに師事していた経験があり、日本でもこのように先進的な手法を取り入れていたようです。
また、「スキップアクセス方式」がとられていた点も特徴です。エレベーターが停まるのは1・3・6・9階で、他の階はエレベーターが停まる階から共用の廊下を通り、そこから伸びる専用階段を昇って自分たちの部屋へ入っていました。
晴海高層アパートの案内図
住戸の広さは約30㎡、2Kの間取りですが、欄間をガラスにして抜け感を出したり、特注サイズの畳の縁とふすまの縁、天井板の継ぎ目で一本線を描くようにしたりと、前川氏による広く見せるための工夫が散りばめられています。ところで床の間に見つけたコンセントのようなものは一体? 実はスピーカー。電話がくると電話交換士がスピーカーを通してブザーで知らせます。住人はそれを受けて廊下の電話を取りに行くという仕組みでした。家賃はエレベーターの停まる階が現在の価値に換算すると 月額16~17万円、エレベーターの停まらない階は共用廊下がないぶん部屋が広くなり約23万円でした。都心で眺望も良いとあって、家賃は高めです。
多摩平テラス
高層アパートが都心に建てられた一方で、郊外では戸建て感覚の団地も供給されました。日野市の多摩平テラス(1958年)です。隣と壁を共有したテラスハウス(長屋)で、専用庭がついていました。敷地内には公園もあり、ここで住民同士のコミュニティが形成されていたそうです。間取りは3Kで約42㎡。2階は和室が2つありました。現在の価値に換算すると家賃はおよそ10万8,000円と、やはり晴海と比べれば低い価格設定です。
当時使用されていたさまざまな実物品
ミュージアムでは復元住戸の他にも、同潤会代官山アパートの食堂カウンター、宮益坂ビルディングのサッシ、晴海高層アパートのエレベーターなど、当時使用されていたさまざまな実物品が展示されています。
住宅部品が並ぶ
赤羽の地から日本の新たなまち、くらしを発信
晴海高層アパート以降、住宅の大量供給が続きました。1971年には、日本最大規模のニュータウンである多摩ニュータウンで入居が始まっています。1980年以降は量より質の考えに転換し、UR都市機構は都市機能の向上を目指したまちづくりにも注力するようになっていきます。そして1995年の阪神淡路大震災では、震災復興支援事業本部が正式発足。培った復興のノウハウは、2011年の東日本大震災でも生かされることとなりました。一方で、これまで建ててきた住宅の次の活用も考えていく必要が出てきました。先ほど復元住戸でご紹介した晴海高層アパートは、住宅だけでなくオフィスや商業施設などの機能も取り入れた複合施設「晴海アイランド トリトンスクエア」として生まれ変わっています。
ミュージアムがある旧赤羽台団地もまた、多世代が交流できる都心近接住宅地の形成、地域に開かれた良好なまちづくりをテーマに建替えられました。建替え後はUR賃貸住宅「ヌーヴェル赤羽台」のほか、介護事業所や東洋大学赤羽台キャンパスなどの用途が加わっています。2024年度は、「まちとくらしのトライアルコンペ」で募ったアイディアをもとに、ミュージアムの屋外などで新たな風景づくりを目指した実証実験が行われています。UR都市機構によって、この赤羽の地から日本の新たなまち、くらしが発信されていきそうです。
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