『散歩の達人』清澄白河 

鳥満

アートにコーヒー、だけじゃない。
輝く“個”にひきつけられる下町

2000年に大江戸線開通、2003年には半蔵門線の延伸と、駅ができたのは比較的新しい清澄白河。清澄庭園や深川江戸資料館、東京都現代美術館に、数年前からはコーヒーという要素も加わり注目度が激変。でも、この街の求心力の理由は、それだけじゃない。

東京の下町・深川で、近年注目度が激変した街の素顔とは?

地下鉄の駅から地上に出ると、見慣れつつある光景とは言え、やっぱり毎度驚いてしまう人出の多さ。「旗日や土・日になるといつもこう。門前仲町よりもにぎやかになったんじゃない? 」と駅のそばの商店で女将さんが笑う。
東京の下町、深川エリアに位置するごく普通の静かな街は、2012年からコーヒーロースターがぽつぽつと生まれ出し、2015年にはBLUE BOTTLE COFFEEが出店。これを機に街の雰囲気が激変し、コーヒー巡りをするオシャレな若者や外国人も闊歩するように。今やすっかり観光地のようだ。

fukadaso

古アパートをリノベーションした人気スポット

近年は海外からの観光客も多く訪れる清澄白河。台湾人のカップルが興味を持って立ち止まるのは、築50年以上の古アパートをリノベーションした『fukadaso』。理化学製品の店、手芸材料の店など個性豊かな店舗が集まる。2階に上がると廊下も扉も壁も昔ながらのアパートそのもの。 地図★1>

2000年大江戸線開通で駅名として名付けられた清澄白河。清澄と白河、2つの地名を合わせた名前だ。大江戸線が走る清澄通りの西側・清澄は、元禄8年(1695)の検地で定まった「清住町」が由来。地形が安房国の清済(清澄。現在の鴨川)に似ていたことから付けられたと伝えられる。隣接する伊勢崎町や西・裏・仲大工町と合併して「清澄町」と改称されたのは昭和7年のことだ。一方、東側の白河は、なんと寛政の改革で知られる松平定信にちなんで付けられた地名。定信はこの地の霊巌寺の墓所で眠り、白河藩主であり、隠居後の名を白河楽翁といったのだ。その後昭和7年に深川東大工町・霊岸町・元加賀町・扇橋町の各一部を合わせて「白河町」が誕生したという。
そんな江戸の面影が残る街の、不動の名所といえば、やはり清澄庭園だろう。江戸時代の大名下屋敷の庭園をもとに造成されたという回遊式林泉庭園で、東京都の名勝。けれども、そのお隣の「清澄公園」も日本庭園の風情を気軽に楽しめ、かつ大きな芝生広場もあっておすすめだ。実はもとは1つの庭園。関東大震災で破損の少なかった東半分が昭和7年より清澄庭園に、西半分だった清澄公園は昭和52年に開放されたとか。緑豊かな貴重なオアシスだ。

清澄公園

庭園もいいけど、公園もね!

東側に隣接する清澄庭園と間違われやすいが、こちらは入園料がかからない『清澄公園』。朝から人出が多く、犬の散歩にもよく利用される。「大きな犬の散歩にはこれぐらい広い公園じゃないとね」とは、世界大会レベルのグレート・デンの飼い主さん。 地図★2>

cafe copain

自家製パンと野菜を思いきり食べたい!

ベーカリーカフェの『cafe copain(コパン)』では、自家製パンと一緒に千葉の契約農家から届く有機野菜をたっぷり食べられる。飲み物付きの日替わりランチプレートは各種1180円。スイーツなら、バニラアイスをふわふわのブッセ生地ではさんだブッセアイス200円をぜひ。テイクアウト可で散歩のお供にぴったりだ。11~18時(日・祝は~17時)、月・火(月・火の祝日も)休。📞03・6240・3306 地図★3>

木場公園の北端の東京都現代美術館も、1995年の開館以来、街にアートという要素を色付けた立役者で、外せない場所だ。そこへ向かう道中の、「深川資料館通り」がまた面白い。江東区役所があった跡地に深川江戸資料館ができたことから命名されて32年。ご飯処に中華、居酒屋、文房具店に和菓子店、駄菓子屋、米屋に焼き鳥屋、古本屋、写真館、紅茶専門店や器屋などと、生活に身近な、個性的な商店が老舗も新しい店も軒を連ねる。歩くたびに発見だらけ。思わず寄り道してしまう。毎年9月にはかかしコンクールも開催するので必見だ。力作ぞろいのユニークな手づくりかかしが立ち並び、通りを一段と賑やかす。

アオゾラカグシキ會社

木の温もりに安らぐオーダー家具

店主自ら手がける無垢材のオーダー家具の店『アオゾラカグシキ會社』。2018年より工房は武蔵村山市に移り、こちらのショールームではテーブルやイス、棚などの定番家具からブックエンドや一輪挿しなどの木の日用品までを展示。実際に触れて、使い心地を確かめてみよう。12~18時、土・日・祝のみ営業(平日は要予約)。📞03・3642・2470 (写真提供=アオゾラカグシキ會社) 地図★4>

ジンジャードットトーキョー

古本も音楽も楽しめる、よくばりカフェ

『Café GINGER. TOKYO(ジンジャードットトーキョー)』は、地元の人や店舗の蔵書を並べて販売する小さな古本屋「下町文庫」が面白い。音楽の楽しみもあり、月に数回のイベントや7インチレコード専門店も併設する。自家製ジンジャーエール600円。11~17時(水~金は~22時。L.O.は閉店の30分前)、日休。📞070・2199・9119  地図★5>

ふらっと横道に入れば、製本所などの町工場や倉庫も多く、昔からの働く街なのだと実感する。と同時に、お寺もなかなかの多さ。お堂が街の人を見守り、墓地が広がる寺町だ。その分高い建物がないので、空がぽっかりと開けていて、風通しがよく、開放的な気分にさせる。そんな中に、サードウェーブコーヒーという枠とは無縁の個性派カフェも思いがけずひょこっと顔を出したりするのだから、もう散策欲はとまらない。
「注目されている街だから、最初は出店を尻込みしていたんです。でも、来てみたら住む人も穏やかで親切。人気の理由も納得できました。ここで始めてよかったです」。そう微笑むのは、2015年にオープンしたチョコレート専門店『Artichoke chocolate』の店主・宮下雄樹さん。カカオ豆の知識が豊富で、そのマニアックさが実に楽しく勉強になる。
そうそう、人で言うなら、『fukadaso cafe』の古庄喜久恵さんも心引かれる存在だ。親しみやすい人柄についつい弾むおしゃべり。「人生は山あり谷ありのジェットコースター。谷は辛いけれど、何が起こるかわからないから、長生きしなさいね」なんて名言を、経験豊富な人生の大先輩から聞けたら、また会いに行きたくなってしまう。

fukadaso cafe

実はこの方のファンも多いのです

天井の高い開放的な店内はレンタルスペースとしても利用される『fukadaso cafe』。ベイクドチーズケーキ400円、アイスラテ500円などおすすめメニューは多いが、お店の人も魅力的。店主の叔母で週末限定の助っ人である古庄喜久恵さんは、台湾で学んだ後アメリカに30年移住したという、粋でユーモアある国際人だ。13~18時(金・土は~21時L.O.)、火・水休。📞03・6321・5811 地図★6>

洋服ポストさんごほぜん

月に一度のイベントでちょっといいこと

毎月第2日曜10~12時にfukadaso cafeで開催される「洋服ポストさんごほぜん」は、不要衣類を持ち込むことで沖縄のサンゴ礁保全に寄付できるイベント。同日には「清澄白河プチマルシェ」も開かれ、深川を中心に活動する店や作家が出店。お菓子やパン、雑貨などを販売し、売り上げの一部も寄付される。 地図★7>

都心の近くにありながらチェーン店が少なく、専門店や個人商店が元気な清澄白河。観光地的注目は浴びていても、変わらぬ平常心。浮かれすぎず、地に足付いた穏やかさも心地いい。いろいろな“個”が輝いているこの下町に、今日も心ひきつけられるのだ。

 

 

文=下里康子 撮影=加藤昌人、木村心保

 

*本ページに記載されている情報は2019年8月19日現在の情報です。

Artichoke
カカオ豆から手作りするオリジナルチョコレート

カカオの味わいを産地別に楽しめる、ビーントゥバーチョコレートの専門店『Artichoke(アーティチョーク) chocolate』。砕いたカカオ豆の選別などの作業がオープンキッチンから目にすることができる。板チョコ400円~。カカオラテなどドリンクの販売もあり。11~19時、不定休。📞03・6458・5678 地図★8>

清澄白河のコーヒー
コーヒー女子もすっかり定着

休日の清澄白河は、行列必至の有名コーヒー店のカップを持ち歩く女子率高し。「今日は空いていたほうで20分くらい並んで買えました」と女子大生コンビ。青いボトルのマークが光ってます。

江東区立深川図書館
フォトジェニックなべっぴん図書館

1909年(明治42年)築の東京市立図書館のデザインを一部踏襲する「江東区立深川図書館」。ステンドグラスや装飾が美しい螺旋状の階段まわりが印象的だ。郷土資料室、昔の街頭紙芝居も充実。9~20時(日・祝・12月28日は~19時)、毎月第3金休(祝日の場合は前日休)・2019年9月24日~10月3日休。📞03・3641・0062 地図★9>

わかば食堂
未来の巨匠を、食べて応援!

中国料理店に勤める若手料理人が1日料理長としてオリジナルメニューを提供する『わかば食堂』。創業60余年の中国料理食材の商社・メーカーである「中華・高橋」が、若手料理人の育成や地域との交流の場として運営。社内のキッチンを開放し、週1回だけ開いている。限定50食、1000円。水曜のみ、11時30分~14時(13時30分L.O.)。📞03・3820・0030 2019年7~12月は休業で、来年1月第3水曜より再開予定。 地図★10>

上行菩薩立像
子供からご年配まで顔を出す

平野交差点の角に立つ日蓮宗宣明院の小さなお堂・上行堂。中に祀られる優しい顔立ちの上行菩薩立像は、患部を洗うと苦痛が和らぐと伝えられる。中にベンチがあり、お参りしたご近所さんが休んでいくことも。 地図★11>

清洲寮
傘寿を超えても現役です

清洲橋通りにそびえ立つ豪華客船のような大型集合住宅「清洲寮」。1933年(昭和8年)に竣工された歴史的価値のある震災復興住宅で、部屋数は約60。1階は店舗になっている。 地図★12>

清澄橋
欄干にもご注目を!

清洲橋だけではなく清澄橋もある。仙台堀川に架かるこの橋は、眺めももちろんいいが欄干に施された麻の葉柄の透かし模様が繊細で、影まで美しい。ついでにガードレールまで凝っている。 地図★13>

鳥満
焼き鳥にも猫にも会える商店街

深川資料館通りは800mほど続く商店街。飲食店に文房具屋、和菓子屋に呉服店、古本屋とバラエティに富んだ店が連なる。焼き鳥屋『鳥満(とりまん)』では店先のテーブルでイートインも可。人懐こい看板猫のトンペイくんと会えるかも! 地図★14>

消火栓標識株式会社
新手の緊急車両にも見えますが……

路地にずらりと並ぶ赤と黄色の派手なツートンカラーのトラックは、『消火栓標識株式会社』の専用車。誰もが見覚えのある消火栓の位置を示す赤い標識を扱う企業で、その本社だった。 地図★15>


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