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更新日:2024.05.31
登録日:2023.12.01
マンションの未来を考える【長谷工総合研究所】
「マンションの未来を考える」では、マンションを取り巻く環境について、現在から少し先の未来、さらに10年、20年先の未来の姿について、マンションに関わっていただいている様々な業界、業種の皆様から、多角的に語っていただこうと思っております。第三回目は株式会社長谷工総合研究所 取締役 主席研究員 鈴木 貴子 様(以下敬称略)にお話しを伺いました。
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現在のマンション市場、エンドユーザーの意識
――現在のマンション市場をどのように見ていますか。
鈴木:首都圏では2016年以降、近畿圏でも2017年以降、一本調子で平均価格が上昇していますが、その間に新型コロナ感染拡大といった世界的パンデミックがあり、さまざまなことをマンション市場は経験したと感じています。マンション供給・販売は一時停滞し、同年6月頃までは通常の営業活動ができない状況でしたが、その後、マンション価格が上がり続けるにも関わらず売れ続けるという想像もしなかった事態となりました。
私はバブル期に現長谷工アーベストへ入社しましたが、入社した年もマンションの販売は好調で、物件へ申し込みを希望する人の列が販売センターの外まで連なっている状況でした。今はどこも販売センターを訪れる際に予約が必要ですが、予約制でなかったら当時のように行列ができる物件もあるのではないでしょうか。
市場面では、ただ数字だけがどんどん積み上がったように見えますが、エンドユーザーの意識にも変化が見られました。価格が上がる中でも好調なマンション販売が継続した要因には、①新型コロナ感染拡大による価値観の変化、②企業対応の変化、③低金利、④中古マンション価格の上昇、⑤購買層の変化――があると思います。
好調なマンション販売が継続した5つの要因
好調なマンション販売が継続した5つの要因
――好調なマンション販売が継続した5つの要因について、具体的に教えてください。
①新型コロナ感染拡大による価値観の変化
鈴木:新型コロナ感染拡大による価値観の変化については、在宅時間が増えたこと現住居への不満が顕在化しました。また在宅勤務の実施によって毎日会社に行く必要がなくなったので、会社までの距離や家から最寄り駅までの距離に対する許容度も上がりました。とはいえ、相変わらず都心や駅近のマンションは売れていましたので、皆がそうなったわけではなく、許容範囲が広がり選択できる地域や場所が広くなった人も現れた、というくらいの変化だと思います。遠いけれども最寄り駅が商業施設のあるビッグターミナルであったり、始発駅であったり、そういった郊外のマンション人気も高かったです。
②企業対応の変化
鈴木:企業対応の変化については、都心部を中心に在宅勤務へ踏み切る企業が多数あり、中には都心から地方に拠点を移す企業も出始めました。それに伴う郊外居住の選択や新幹線通勤なども視野に入れた購入が見られました。
③低金利
鈴木:低金利政策は、購買意欲維持・継続に大きく寄与しました。2021年末にマンションの平均価格がバブル期を超えたと話題になりましたが、かつての金利水準と比較すると2021年の方が低金利でしたから、返済金額はバブル期と同じか抑えられた方もいらしたのではないかと思います。地域によっては大型の住宅ローン控除制度も一役買っていたことでしょう。
④中古マンション価格の上昇
鈴木:中古マンションの成約価格が10年間ずっと上がり続けています。持ち家層にとっても買い替えしやすい環境が整いました。もちろん、新たに買うマンションも高いのですが、値上がり益をもとに低金利で新たに借入れを起こしても、今までと変わらない返済金額でより広い、より条件の良いマンションを買うことができます。また住宅ローン控除期間が終わるタイミングで、新たなマンションを買い控除を受けようという層もあり、比較的築年数の浅いマンションでも買い替えが見られました。
⑤購買層の変化
鈴木:購買層の変化では、①②のように働く環境の変化がマンション選びに影響をもたらし、合理的な立地選びをする方も見られました。もちろん、なんらかの地縁があったり、子どもの通学に心配のない地域だったりと背景があってのことですが、かなり柔軟な選択をされる方も出始めています。この他、パワーカップルと呼ばれる層も出現しました。共働きによって住宅を買う層は以前から存在しましたが、お互いの収入目いっぱいでペアローンを組んで購入する買い方が見られるようになりました。女性の収入が、家計の補佐的な位置づけから、夫と肩を並べて働く妻が都心部を中心に顕在化したのです。女性側もずっと働いていくという意欲の高まりがあるのに加え、企業側の福利厚生の充実が大きく関係していると考えます。
経験したことのない世界的パンデミックの中で、大きく不動産に関する知識の変化や購買層の変化がこの数年間の好調なマンション市場を支えてきたのだと考えます。加えて、着工件数が激減したことが新築マンションの品薄感を冗長し、価格高騰の要因は建築コストの上昇だけではないと消費者に受け入れられたことも背景にあるのでしょう。
鈴木:このように好調に推移してきた新規マンション市場ですが、コロナとの共存という局面に生活が変わっていく中で、テレワーク比率も下がり都心部への通勤も再び増加し始めました。転職なき移住が可能となる23区外周の郊外部がその受け皿となってきましたが、これからは少し状況が変わってくるのではないでしょうか?
一部タワー物件が強く影響し、都心部では平均価格が1億円を超える物件も数多く散見されるようになりましたが、販売は好調に推移しています。生活スタイルがコロナ禍以前に戻っていく中で、都心に近いマンションは高額でも需要が高く、インバウンドにとっては円安もプラス影響に働いていると考えます。
一方、郊外部はどうかというと、全体的にボトムアップし必ずしも買い易い価格の物件だけではなくなりました。地域によっては家賃と返済金額の乖離が大きく広がる地域も出始めました。郊外でも買う事が難しくなった人の中には当面賃貸で(あるいは賃貸で良い)と考える人が出てくるかも知れません。km圏別の住宅型ごとの着工シェアでは30~50km圏は概ね共同賃貸住宅は25%前後ですが、今後ファミリー需要が高まる可能性も考えられます。
これからは少し潮目が変わるだろうと見ています。先ほど、未曽有の低金利の継続がマンション市場を支えたという話をしましたが、固定金利が上昇し金利の動向は気になるところです。この数年、都心部だけでなく郊外部のマンションも値上がりが顕著です。夫婦共働きを続けるからこそ都心に近いマンションが必要となり、高額であっても購入に至るわけですが、都心と郊外では立地する企業の給与や福利厚生が異なり、郊外は必ずしも好条件とは言えません。また、家賃水準が都内と比べて低く、上昇もそれほど見られませんので「月々の支払いは家賃並み」という謳い文句が使いづらい地域もあります。賃貸と購入の支払額の乖離は広がる一方、となるかもしれません。都心・利便性の良い地域のマンションは価格が高くても売れていき、郊外の条件の良い、もしくはその地域の中で価格が高いマンションは現状で賃貸に住んでいる層とって高嶺の花となる可能性も出てくるのではないでしょうか。そんな二極化が、金利動向によっては顕在化するのではないかと想像しています。
マンションを取り巻く環境
マンション取り巻く環境と課題
――マンションを取り巻く環境としては価格高騰の他、長寿命化の促進や人口減少下における管理体制なども話題に挙がります。
鈴木:国土交通省によれば、築40年以上のマンションは全国で約125.7万戸あり、20年後には445万戸ほどになると言われています。
国土交通省:築40年以上の分譲マンション数の推移(8/28閲覧)
こうした高経年マンションに対しては官民一体となった取り組みが必要で、これらをいかに良好なストックとして維持していけるかが重要な課題と考えます。再生の方向性として大きく2つの選択肢が挙げられます。
”官”としての施策
鈴木:1つはスクラップ&ビルドによる建て替え、もう1つはマンションの質を高めること。そして、こうしたハード面に加えて、マンション管理の適正化が重要となります。
2020年には、国土交通省が維持管理の適正化等の強化策として「管理計画認定制度」を創設していますし、住宅金融支援機構では修繕費用の積み立てを支援する「マンションすまい・る債」において、前述の管理計画認定を受けたマンション向けに利率の上乗せを予定しています。機構は他にも、管理組合向けにマンション共用部分リフォーム融資を取り扱っており、今後40年間で必要となる大規模修繕工事費用をシミュレーションできるシステムも提供するなど、金融機関の参入支援を進めています。こうした取り組みが今後拡大し、ハード面と合わせてマンションの長寿命化が促進されていくことを期待したいです。
”民”としての取り組み
――今お話いただいた「官」による施策の他、「民」としてはどのような取り組みが考えられるでしょうか。
鈴木:先般、弊社や東京都立大学などとの共同研究として、築25年超の高経年マンション居住者に対してアンケートを実施しました。サンプル数はそれほど多くなかったのですが、「マンション居住者によるコミュニティ活動」「建て替え・長寿命化への検討」に対する回答状況から、「民」としての課題も見えてきました。マンションの長寿命化は居住している人自身の、良好な環境づくりや地域の価値向上・維持などに対する興味と行動が必要だと考えますが、そうした取り組みは行われていない場合が多いようです。「建て替え・長寿命化への検討」について、「議論・検討したことがない」という回答がもっとも多く、特に小規模マンションでは半数を超えていました。そうした意味では、居住者・民間企業側の意識や取り組み方を変えていく必要性があると感じています。
一方で、定期借地権分譲マンションが昨今では供給を増やしています。定借マンションの第一号は1994年に供給されましたが、まだその行く末を見届けた人はいません。期間満了が近づいた場合の管理が懸念されるほか、「マンションの手仕舞い」をどのように考えていくかも課題にあります。そういう意味では、解体費の積み立てといった定借の仕組みは、今後のマンションの在り方として一考に値するものではないでしょうか。
人口減少や高齢化の進行など、さまざまな時代の変化はマンション・マンション居住に対し影響を及ぼすでしょう。それらはネガティブに語られることが多いですが、私はむしろポジティブな側面も多いと捉えています。例えばマンションは、地方においても比較的利便性の良い場所に立地している場合が多く、それはすなわちコンパクトシティ実現につながると思います。コロナ禍で急激に変化した働き方の変化にも即した居住形態だと言えるでしょう。会社でなくても仕事ができ、二拠点居住という生活もマイノリティでなくなるかもしれません。地方のリゾートマンションが、そういった需要の受け皿となることもあり得ます。
さらに、昨今増加している自然災害では、被害を受けにくい都市部に建つマンションが多いことや、構造上堅固であることは、防災拠点としても評価されるでしょう。
住まいとしてのマンションの未来
いまを知り、未来をつくる。
――さまざまな時代の変化がある中で、住まいとしてのマンションの未来をどのようにお考えですか。
鈴木:住まいとしてのマンションの未来は、住む人、地域、用途が広がっていくと考えます。人口減少・高齢化が進行する中で一役を担う住まいだと思いますし、防災拠点としても活用でき、“住まう”マンションから“地域社会に貢献できる”マンションへと、その役割は一層拡大していくでしょう。また、今後さらに人口減少が進行した際には、マンションの中で空き家となるケースも発生すると思われますが、そうした空き家を学生寮や集会所、商業施設として活用するなど、すでにさまざまな自治体で対策がなされています。
良好な住環境や質の維持に向けて、第三者管理も今後拡大していきそうです。働き盛りの若い世代の方は、管理に関わる時間・手間暇を捻出するのは難しいですし、高齢者が増えるとさまざまな決め事が煩雑になりがちです。こうした諸々のハードルを代わりに引き受けるのが第三者管理であり、特定の住民に負担がかかるのではなく、全員が等しく、かつ緩やかに負担が分散されるというのは、これからの暮らしに合っていると思います。
グループ会社の長谷工コミュニティでは現在約3,200戸を第三者管理方式で管理し、区分所有者向けの専用アプリを提供するなどしています。高齢者が多く役員不足のマンションの他、アプリによるさまざまな情報発信は、共働き世帯や若い世代の方から使い勝手が良いとの声をいただき、幅広く需要があるようです。アプリなら通勤等の隙間時間を活用して、理事会の内容や他の居住者の意見をいつでも確認できますので、その手軽さや身近さによって他の組合員との距離感を縮められるのは、全員が参加しやすい管理の土壌づくりとして画期的なシステムだと考えます。
こういった管理に携わるハードルを下げるシステムは、自分たちのマンションという当事者意識を醸成するのに役立つと思いますし、先にお話したマンションの長寿命化という点についてもプラスに働くでしょう。「3つの老い」に対する一つの施策でもあり、今後浸透していく事が想定されます。
顕在化しているマンションの課題を一つ一つ解決していくことが、マンションの未来に繋がるのだと思います。長谷工総合研究所では、今ある課題を提起し、その課題解決の手助けとなるような研究成果を発信していきたいと考えています。
▲株式会社長谷工総合研究所 取締役 主席研究員 鈴木 貴子 様
<略歴>
鈴木 貴子 氏
株式会社長谷工総合研究所取締役主席研究員
1986年現長谷工アーベスト入社。入社後2年間は新規マンション販売業務に従事。以降はマンション市場レポート作成、市場・顧客分析システム開発、販売受託営業の法人営業を経て2023年4月より現職。長谷工総合研究所が発行する総合不動産情報誌「CRI」(月刊)の
執筆及び編集業務を担当。
長谷工グループが蓄積してきた情報・研究成果をはじめ、住まいに関する幅広い情報を基に業界内外に情報を発信。
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