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更新日:2023.12.08
登録日:2023.09.22

小岩駅・京成小岩駅――"100年栄える再開発"(東京都江戸川区/JR中央・総武線各駅停車、京成本線)②未来編

小岩駅・京成小岩駅――"100年栄える再開発"(東京都江戸川区/JR中央・総武線各駅停車、京成本線)②未来編

 江戸川区で最も早くから拓けた街の一つである「小岩」。江戸川を境に、江戸時代から千葉県との境目の街として発展してきた街だが、発展が早かったからこそ再開発も区内の先陣を切って進みつつある。今回は「小岩」の再開発と、将来の姿を、街を歩きながら考えてみよう。

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前回「小岩駅・京成小岩駅――江戸川の流れと共に…"100年栄えるまちづくり"(東京都江戸川区/JR中央・総武線各駅停車・京成本線)①歴史編」

2.「小岩」「京成小岩」の現状と未来

 「小岩」駅前では多数の再開発プロジェクトが進行している。JR総武線沿線では「平井」「船橋」「津田沼」「幕張」などでも駅前再開発が進んでいるが、駅の両側で同時に何棟もの再開発物件が竣工するという規模・スケールは「小岩」が随一のものだ。その中でも「小岩」南口は、駅前の景観が一変するほどの規模であるため、西側(『新小岩』側)から「南小岩六丁目地区」「南小岩七丁目西地区」「南小岩七丁目地区」の3ブロックに分かれて進められており、また、これら再開発地区を環状に連絡する「リングロード」の整備、および南口交通広場の再編、柴又街道方面へ至るサンロード商店街の拡幅も同時に行われている。順番に見ていこう。

▲JR小岩北口地区第一種市街地再開発事業(JR小岩駅周辺地区まちづくり基本計画2019)HPより。小岩駅の南北で面的に再開発が行われている。

▲JR小岩北口地区第一種市街地再開発事業(JR小岩駅周辺地区まちづくり基本計画2019)HPより。小岩駅の南北で面的に再開発が行われている。

・タワーマンション増加中!南小岩六丁目地区・南小岩七丁目西地区・南小岩七丁目地区

南小岩六丁目地区(地図“B”・プラウドタワー小岩ファースト)

 南口再開発地区の中で最も駅に近いのがこの一角。駅高架下商業施設「シャポー小岩」までは15mほど、南口正面までは30mほどと限りなく駅直結に近いものの、駅直結ではなく傘要らずとはならなかったのが惜しいところだ。駅南口に隣接して商業棟「小岩ファスタ」(Ⅰ街区)が建ち、屋外のエスカレーターでデッキに上がることができる。そして、その2階デッキに繋がるのが、20238月段階で最も新しいタワーマンション「プラウドタワー小岩ファースト」(Ⅱ街区)およびもう1棟のタワーマンションが建設中である(Ⅲ街区)。

▲フラワーロード商店街から見た“プラウドタワー小岩ファースト”。手前のバリケード部分でⅢ街区が建設中。

▲フラワーロード商店街から見た“プラウドタワー小岩ファースト”。手前のバリケード部分でⅢ街区が建設中。

 「プラウドタワー小岩ファースト」とつくように、細い道を1本挟んだ南側では、更にもう1棟のタワーマンションが建設中である。既にフラワーロード商店街に面して「PROUD」のバリケードが建っているが、こちらには「ファースト」を凌ぐ33階建タワーマンションが計画されており、調査段階では更地化が完了したところであった。「ファースト」のペデストリアンデッキは道路を跨いだところで途切れており、現在は通行できないが、竣工の折には接続されることになる。

▲Ⅲ街区建設地。“ファースト”のデッキから南側を見る。左側(東)がフラワーロード商店街のアーケード。

▲Ⅲ街区建設地。“ファースト”のデッキから南側を見る。左側(東)がフラワーロード商店街のアーケード。

 横に長い計画地のうち、フラワーロード商店街(西)側は低層の「商業・業務施設」と「公共駐輪場」が設けられ、マンションは総武線()側にやや南西を向いて建てられることから、「ファースト」の視界も確保される。「小岩」は平坦地が広がる上に、商店街が縦横に伸びることから買い物での求心力も高く、駅から離れたエリアから自転車でのアクセスが多い。商店街や駅前への不法駐輪も多く、駐輪場の容量不足は長年の課題となっていた。商業施設直結で南口へもデッキで繋がる公共駐輪場の整備によって、駐輪場問題は一定の解決をみることになるだろう。

▲“ファースト”から伸びるデッキはⅢ街区で行き止まりだが、将来的にはこの先へ接続される。

▲“ファースト”から伸びるデッキはⅢ街区で行き止まりだが、将来的にはこの先へ接続される。

 「PROUD」のロゴが目立っているが、「南小岩六丁目地区第一種再開発事業(Ⅲ街区)」の市街地再開発組合には野村不動産のほかタカラレーベン・清水建設が加わっており、設計者・施工者は清水建設となる。スーパーゼネコンの一角を占める清水建設による施工ということで、期待も高いのではないだろうか(『ファースト』も同じ顔ぶれ)202291日着工、2025年11月末竣工予定となっているが、20238月段階では販売のアナウンス等はまだなされていない。「ファースト」の22階建に対し、こちらは33階建と1.5倍の階数となるため、300~350戸の規模になるだろう。「ファースト」は20217月の分譲開始で、平均専有面積70.49㎡・平均坪単価347万円となったが、2駅隣の「平井」で販売されている「プラウドタワー平井」が平均坪単価400420万円での売り出しが多くみられるため、Ⅲ街区もおそらく平均坪単価400万円を超えるだろう。再開発のスケールや販売時期のずれを考慮すると、「平井」以上になるかもしれない。販売のアナウンスを楽しみに待ちたいところだ。

▲Ⅲ街区のフラワーロード商店街側。工事のため、アーケードの屋根が一時的に撤去されている。

▲Ⅲ街区のフラワーロード商店街側。工事のため、アーケードの屋根が一時的に撤去されている。

◆「小岩」周辺の物件について、もっと知りたい方はこちら◆

南小岩七丁目西地区(地図“F”・アルファグランデ小岩スカイファースト)

 「小岩」再開発の先陣を切って完成したのが「アルファグランデ小岩スカイファースト」(29階建177戸・20154月竣工)である。13階にサミットストア小岩駅南口店や星野珈琲店、45階が駐車場、6階以上が住戸という構成で、フラワーロード商店街のアーケードにも面しているため、まさに商店街と一体となったタワーマンションという趣きがある。ただし駅へはいったん信号か駅前広場の横断歩道を渡る必要があり、こちらも傘なしというわけにはいかない。

▲フラワーロード商店街から見た“アルファグランデ小岩スカイファースト”。商店街直結で利便性は高い

▲フラワーロード商店街から見た“アルファグランデ小岩スカイファースト”。商店街直結で利便性は高い

 ここはかつて「ナコス小岩駅前店」という地場のスーパーであった。「長崎屋呉服店」として1917年創業(大手スーパーの長崎屋とは無関係)1962年にスーパーマーケットへ転換という長い歴史を持ち、江戸川区北部を中心に一部は千葉県内へも出店していた。小岩駅前店は本社併設の本店格であり、小岩南口を代表する商業施設であったものの、バブル崩壊による痛手から立ち直れずに20002月に経営破綻。跡地へはオリンピックが入ったが、再開発と共に閉店。オリンピックは再開発までのつなぎという役割だったのか、再開発後はサミットストアが入居することになった。形は変われど、同じ場所でスーパーが開業し、住民の生活を支えている。やはり人々が集まる場所なのだ。

▲“アルファグランデ小岩スカイファースト”前のフラワーロード商店街。バス通りでもあり、人や車が行き交う。

▲“アルファグランデ小岩スカイファースト”前のフラワーロード商店街。バス通りでもあり、人や車が行き交う。

 「アルファグランデ小岩スカイファースト」は小岩初の柱型タワーマンションとなり、複数の20階建以上のマンションが竣工した現在でもなお存在感がある。現在のところ、南口再開発エリアの南端がここまでとされていることから、中高層階以上ではタワーマンションならではの視界が妨げられる可能性も低そうだ。ここより離れると駅徒歩時間が5分以上となり“駅近”とは言えなくなってくることから、タワーマンションの建設には向かなくなる。そういった意味でも「スカイファースト」を名乗るに相応しいマンションと言えるだろう。なお、ここから東側は「南小岩七丁目地区」に含まれ、「小岩」最大のスケールでの再開発が展開されることになるが、それとの関連は次節にて触れよう。

▲“Ⅲ街区”建設現場と“アルファグランデ小岩スカイファースト”。フラワーロード商店街を挟んで向かい合う。

▲“Ⅲ街区”建設現場と“アルファグランデ小岩スカイファースト”。フラワーロード商店街を挟んで向かい合う。

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南小岩七丁目地区(地図“C”)

 「小岩」再開発で最大のスケールとなるのが「南小岩七丁目地区」だ。現状の南口交通広場を大幅に拡張し、サンロード商店街から昭和通り商店街を跨ぎ、「アルファグランデ小岩スカイファースト」(南小岩七丁目西地区)までを一体的に再開発する。大きく「東棟(44階建)」「西棟(18階建)」に分かれ、その間は低層部商業施設(6階建)が繋ぐ。

▲小岩駅ホームから見た“南小岩七丁目地区”。正面に見える範囲ほぼ全体が再開発地区に含まれる。

▲小岩駅ホームから見た“南小岩七丁目地区”。正面に見える範囲ほぼ全体が再開発地区に含まれる。

  マンションは大きく「東棟(44階建)」「西棟(18階建・多世代住宅)」に分かれ、その間は低層部商業施設(6階建)が繋ぐ。中でも、44階建タワーマンションとなる東棟は江戸川区でも群を抜く最高層マンションとなり、総武線沿線でも「本八幡」の“グランドターミナルタワー本八幡”(40階建)、「船橋」の“プラウドタワー船橋”(31階建)・“パークハウスプレシアタワー”(38階建)を凌ぐ階数となる。「錦糸町」の“Brilliaタワー東京”(45階建)や「市川」の“I-linkタウンいちかわタワーズ”(45階建)、「津田沼」の“津田沼ザ・タワー”(44階建)に匹敵する、長年にわたりナンバーワンに君臨するランドマーク・マンションとなるだろう。

▲再開発の現状はこうした既存建物がまだ残っている。奥に見えるのは先行して完成した西地区(アルファグランデ小岩スカイファースト)

▲再開発の現状はこうした既存建物がまだ残っている。奥に見えるのは先行して完成した西地区(アルファグランデ小岩スカイファースト)

 現状はまだ再開発準備組合の段階で、事業協力者として日鉄興和不動産をはじめ、住友商事、長谷工コーポレーション、学研ホールディングスが名を連ねている。もし日鉄興和不動産のタワーマンションブランド「リビオタワー」になれば、リビオタワーを代表するフラッグシップ物件となる規模・階数になる。既存の建物は立ち退きが始まっているものの営業を続けている店舗も多く、工事たけなわとなっている他の街区と比べて進みは遅い。計画では2025年度の着工、2030年度の竣工を目指しており、マンションの販売は他の街区の販売が終わったくらいのタイミングになるだろうが、東棟約950戸・西棟約300(こちらは多世代住宅となり一般的な分譲マンションとは異なる)の計1,250戸もの規模となるため、数年がかりの分譲となるのではないだろうか。

▲右からファスタ小岩(六丁目地区Ⅰ街区)、プラウドタワー小岩ファースト(六丁目地区Ⅱ街区)、アルファグランデ小岩スカイファースト(七丁目西地区)。

▲右からファスタ小岩(六丁目地区Ⅰ街区)、プラウドタワー小岩ファースト(六丁目地区Ⅱ街区)、アルファグランデ小岩スカイファースト(七丁目西地区)。

いずれにせよ、「小岩」駅南口では「南小岩六丁目地区」の300350戸、「南小岩七丁目地区」の約1,250戸に加え、次節で触れる「JR小岩駅北口地区」の約730戸と、向こう数年にわたりおよそ2,300戸ものタワーマンションの分譲が続く。すべて完成した暁には、「小岩」周辺には既存の5棟に加え3棟が加わり、計8棟のタワーマンションが駅を取り囲むことになる。8棟という規模は東京東部~千葉県内では最大クラスであり、いかに「小岩」の再開発に勢いがあるかがわかるだろう。

▲フラワーロード商店街に面する建物では少しずつ立ち退きが進められている

▲フラワーロード商店街に面する建物では少しずつ立ち退きが進められている

JR総武線 沿線のタワーマンション

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リングロード整備(地図“4”)/南口交通広場(地図“3”)・サンロード商店街再整備(地図“D”)

 「南小岩七丁目地区」の再開発建物は現在の昭和通り商店街を跨いで建てられる。このため、昭和通り商店街~駅への流れを阻害しないよう、かつ再開発地区と駅を一体化させるべく、南口交通広場を跨いでペデストリアンデッキが架けられる。駅の建物と直結になるかはまだはっきりしないが、イメージイラストのデッキには屋根も架けられている。現状は昭和通り商店街~駅の間に交通広場を挟むため、広場を回り込む必要がある上、横断歩道は信号が無いので人通りが途切れず、バスがなかなか出発できないこともある。デッキが架けられれば、こうした問題も解消されよう。

▲夕ラッシュで混雑する南口交通広場。信号が無いので歩行者が途切れず、バス・車と交錯し危険な面もある

▲夕ラッシュで混雑する南口交通広場。信号が無いので歩行者が途切れず、バス・車と交錯し危険な面もある

さらに、再開発地区を取り巻くように「リングロード」を整備し、「サンロード商店街」⇔「南小岩七丁目地区」⇔「アルファグランデ小岩スカイファースト(南小岩七丁目西地区)」⇔「プラウドタワー小岩ファースト(南小岩六丁目地区)」⇔「JR総武線高架下」⇔「西小岩通り商店街」と、駅の南北と再開発地区同士が環状に繋げられる。現状は南口交通広場から放射状に道路が伸びているため、フラワーロードからサンロードへ抜けるだけ、といったクルマ(通過交通)も交通広場を経由せざるを得ない。これらをバイパスするのがリングロードということになる。

▲将来的に“リングロード”に含まれることになるエリア。現状は所々に再開発まで暫定利用の駐輪場が見られる程度

▲将来的に“リングロード”に含まれることになるエリア。現状は所々に再開発まで暫定利用の駐輪場が見られる程度

また、南口交通広場から、小岩の街を南北に貫く柴又街道へのアクセス路となる「サンロード商店街」も大きく拡幅される。現状、商店街としては歩道の幅が狭く、道の両側の店舗を行き来する人も多いので横断歩道以外での道路横断も多く、バスの経路ともなっているため危険が付きまとう。こちらも営業中の店舗は多いものの、徐々に立ち退きが進んでいる状況であり、一連の再開発が完了する頃には拡幅が完了していることだろう。

▲サンロード商店街。バス通りにしては道幅が狭いが、ここも拡幅されて安全性が向上する。

▲サンロード商店街。バス通りにしては道幅が狭いが、ここも拡幅されて安全性が向上する。

南小岩七丁目地区 周辺のマンション

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・イトーヨーカドーと共に再開発進行中!JR小岩駅北口地区(地図“A”)

 さて、次なる変貌を控えているのが北口だ。南口と違って北口には駅前広場がなく、ごく狭い空間を挟んで向かい側に“イトーヨーカドー小岩店”があるほか、やはり車がやっとすれ違える程度の狭い商店街や小道が縦横に伸びている。このため、車の乗り入れもあるものの、基本的には歩行者が主体の空間となっており、電車が着くごとに一定の人数がイトーヨーカドーや商店街へと吸い込まれていく。

▲JR小岩駅北口(右)と向かい合うイトーヨーカドー小岩店(左)。電車が着く度に人の流れができる。

▲JR小岩駅北口(右)と向かい合うイトーヨーカドー小岩店(左)。電車が着く度に人の流れができる。

イトーヨーカドーは駅前では随一の規模を誇り、街の顔となる商業施設であるが、開店(1980)から43年を迎え、そろそろ建物の行く末が気になる頃になってくる頃である。近隣では、金町店(1973年開店→2022年閉店、49年間営業※再開発による建替・再出店予定)や、竹の塚店(1977年開店→2023年閉店、46年間営業)などが同じような年代で営業を終えている。そして小岩店も例外ではなく、閉店時期は明言されていないが、じきに再開発により閉店する見込みだ。イトーヨーカドーが含まれるブロックは“JR小岩駅北口地区第一種市街地再開発事業”の事業範囲に含まれ、20238月時点では既に既存の建物の解体がほぼ終了し、イトーヨーカドーだけが残っているという状況である。なお、ブロック内の「プレシス小岩イデアル」(2014年9月竣工)だけは築10年に満たないため再開発エリアに含まれず、事業範囲は凹型となっている。

▲開店43年を迎えたイトーヨーカドー小岩店。長く小岩駅前の中心的な商業施設として機能してきた。

▲開店43年を迎えたイトーヨーカドー小岩店。長く小岩駅前の中心的な商業施設として機能してきた。

計画によれば、まずイトーヨーカドー以北から蔵前橋通りまでを第一工区とし、地上30階・地下1階建のタワーマンション(730)ならびに低層階(14)に商業施設、業務フロアおよび保育所を設けるというもので、20271月に竣工の予定である。三井不動産レジデンシャル()と日鉄興和不動産()が参画するので、新しい「小岩」駅北口のランドマークとなるマンションは三井不動産レジデンシャルの「パークタワー」と日鉄興和不動産の「リビオタワー」ブランドを掛け合わせたものになるだろうか。

▲小岩駅北口通り商店街。再開発地区はイトーヨーカドー以外の更地化が完了し、工事車両が出入りする。

▲小岩駅北口通り商店街。再開発地区はイトーヨーカドー以外の更地化が完了し、工事車両が出入りする。

また、明言はされていないがイトーヨーカドーがこの段階でタワーマンション低層階へと移転し、跡地を第二工区として“北口交通広場”に整備する。イトーヨーカドーが建て替えの丸々数年間閉店してしまうと地域住民への影響が大きいため、北口交通広場の供用を遅らせてでも買い物先の確保が優先された形だ。北口交通広場を跨いで駅北口と商業施設を結ぶデッキが設けられ、交通広場に出入りするバス等と歩行者が交錯しない設計になる。北口交通広場を含めた全体の事業完了は2031年の予定。北口目の前のランドマーク性と、利便性(駅へデッキで直結+低層階商業施設)を併せ持った物件になるだろう。

▲蔵前橋通りから見た再開発地区。基礎工事が行われている。

▲蔵前橋通りから見た再開発地区。基礎工事が行われている。

現状、南口の「プラウドタワー小岩ファースト」(22階建)がデッキで駅と接続されているが、こちらは駅南口~エスカレーター乗り口の数十メートルが南口駅前広場を介するため屋根なしで、また駅改札階(中二階)に接続されているわけではない。2駅都心寄りの「平井」でも「プラウドタワー平井」(前回記事参照)が建設中だが、こちらも29階建と当マンションに僅かに及ばず、また「平井」駅とは北口駅前広場を介しての接続となり、直結にはならない。当マンションのイメージイラストは屋根なしとなっており、またデッキ端部は駅北口階段に隣接するが、駅改札階(中二階)と段差なしに接続されるかまでは読み取れない。これが屋根ありで駅改札階直結となれば、総武線沿線全体でも珍しい“駅直結タワーマンション”という希少性を備えた物件となるのだが、果たしてどうなるだろうか。

▲完成予想図がバリケードに掲げられている。駅前のランドマークになるべく、デザインも凝ったものになるようだ

▲完成予想図がバリケードに掲げられている。駅前のランドマークになるべく、デザインも凝ったものになるようだ

再開発エリア外でも「東京グランファースト」「パークタワー東京クラルテ」の2棟のタワーマンションを中心に、2020年以降も「オープンレジデンシア小岩ステーションフロント」「エクセレントシティ小岩ステーシア」など、駅5分以内に新築マンションが次々に建っているが、一方では駅東側を南北に貫く“小岩中央通り”沿いを中心に、夜の店が連なる歓楽街エリアも健在だ。またアジア系の飲食店に加え、韓国食材店など周辺住民の生活を支える店舗もあり、多国籍文化が形成されているのは北口周辺の大きな特徴と言えよう。歓楽街特有のにおいが漂う一角もあり、食事はじめ日常生活に困らないと見るか、生活圏にこれらがある必要はないと見るかは好みが分かれるところだろう。

▲小岩駅東側を貫く“小岩中央通り”。アジア系の飲食店や雑貨店などが集中する。

▲小岩駅東側を貫く“小岩中央通り”。アジア系の飲食店や雑貨店などが集中する。

ただ、その一角も駅から150mほど北側の蔵前橋通りでプツリと途切れ、それより先は北東の柴又街道沿いこそ「金町」行の京成バス(55系統)が多数通るバス通りで賑やかだが、マンション・戸建が混在するごく普通の住宅地となる。また、愛国学園短期大学および愛国中・高、愛国学園保育専門学校もこちら側で(ただし『京成小岩』の方が近い)、家政科のみの事実上の女子短大のため、朝夕には女子学生も北口に降り立つ。柴又街道を北へ1.2km(徒歩約20)ほど進むと「京成小岩」に着き、JR総武線に加え京成本線も利用可能なため、アクセスの幅が広くなるのは南口にはないメリットと言えよう。

▲愛国学園。この辺りまで来ると、小岩駅周辺の賑やかさとは距離をおいた、静かな環境になる。

▲愛国学園。この辺りまで来ると、小岩駅周辺の賑やかさとは距離をおいた、静かな環境になる。

「小岩」駅北口 周辺のマンション

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・新金貨物線がLRT化、“奥戸駅”ができる?

 続いて「小岩」駅北口から北西方向、蔵前橋通りを経て奥戸街道の方へ進んでみよう。再開発区域から外れた北口周辺は今なお昔ながらの“西小岩通り商店街”が残り、歴史を重ね“レトロになってしまった”喫茶店をはじめ、総武線が“国電”だった頃から大して変わっていないのではないかと思うほど。その“西小岩通り商店街”を抜けたところ、蔵前橋通りと奥戸街道が合流する“六軒島”交差点は、いかにも水の多い低地を感じさせる昔ながらの名だ。

▲小岩駅北口周辺にはこうしたレトロな喫茶店もまだ健在。2駅隣の「平井」でも喫茶店は多かった。

▲小岩駅北口周辺にはこうしたレトロな喫茶店もまだ健在。2駅隣の「平井」でも喫茶店は多かった。

 このあたりは葛飾区との区境にあたり、“奥戸”とは蛇行する中川と、まっすぐな新中川に挟まれたあたりを指す。いかにも“奥”っぽい地形だが、新中川は中川の洪水対策として1963年に通水が始まった新しい川である。その新中川を渡る奥戸街道の橋が“奥戸新橋”で、「小岩」からここまで徒歩1315分ほど。奥戸街道は片道一車線だが、葛飾区の中心部である立石や青戸に至るため、葛飾区にとっては重要な道路だ。ちなみに、奥戸や青戸の“戸”は“津”(=船着場)の変化と云われる。さしずめ奥戸は“奥の河港”といった意味合いで、米や塩などを運んだ中川の舟運にとって大事な場所だったのだろう。

▲奥戸新橋。手前が江戸川区、奥が葛飾区。奥戸街道は交通費がそこそこ多い。

▲奥戸新橋。手前が江戸川区、奥が葛飾区。奥戸街道は交通費がそこそこ多い。

 この奥戸新橋近くの奥戸街道を、ひっそりとした線路が跨いでいる。総武線「新小岩」と常磐線「金町」を結ぶ通称“新金貨物線”(しんきん―)で、1920年開通という長い歴史を持つ。①歴史編でも触れたが、総武線は当初両国橋(現『両国』)で終点であったため、都心で他の国鉄線と接続していなかった。このため、総武線の貨物列車を常磐線経由で都心に繋ぐために設けられたのが、この新金貨物線である。葛飾区は大きく常磐線・京成本線・総武線と3つの鉄道が横断し、うち常磐線と京成線は京成金町線によって結ばれているが、京成本線と総武線を結ぶ路線がない。このため、新金貨物線の旅客化が国鉄時代から度々陳情されてきたが、他路線の混雑緩和効果が少なく、京成金町線やバスである程度目的は達成されているという理由で、袖にされ続けてきたという経緯がある。

▲新中川を渡る新金貨物線の鉄橋。インフラは立派だが、通る貨物列車は少なくなってしまった。

▲新中川を渡る新金貨物線の鉄橋。インフラは立派だが、通る貨物列車は少なくなってしまった。

 しかしながら、東京の外環状線として武蔵野線が開通したことで、総武線の貨物列車の多くは武蔵野線を経由して他路線と行き来するようになり、新金貨物線の貨物列車は1日上下計9(20223月、東京新聞による)と大幅に減少した。一方、区の南北を結ぶ鉄道がないことには変わりなかったため、区内では悲願ともいえる新金貨物線の旅客化の機運が高まっている。葛飾区では“2030年の一部区間開業”を目指し、現在はJR東日本(所有者)JR貨物との検討を進めている。最大のネックとなっているのは「金町」南側にある国道6(水戸街道)との踏切で、このまま旅客化すると踏切渋滞が悪化するのは確実であり、この調整に時間を要するため、当面は「新小岩」―「高砂()」の一部区間開業にとどめ、高砂からは京成金町線へリレーすることで南北の接続を図る…という案が有力のようである。

▲奥戸街道を跨ぐ新金貨物線。LRT計画ではこの付近に「奥戸」駅(仮)が設けられる予定。

▲奥戸街道を跨ぐ新金貨物線。LRT計画ではこの付近に「奥戸」駅(仮)が設けられる予定。

 駅は「新小岩」「金町」および京成線乗換駅となる「高砂()」を含めて7駅または10駅とされ、新駅は4ないし7となるが、どちらの案でも奥戸新橋近くに「奥戸駅」、また800mほど北の三和橋近くに「細田駅」を設置する計画となっている。奥戸・細田とも既存の鉄道駅から徒歩1520分ほど離れた場所が多く、これら地域は特に新金貨物線旅客化による恩恵が大きい。

▲葛飾区HPの検討事項概要より。10駅案(左)と7駅案(右)が比較検討されているが、どちらにも奥戸街道交点に「(仮)奥戸駅」が設けられる。詳細については、以下葛飾区サイトを参照。

▲葛飾区HPの検討事項概要より。10駅案(左)と7駅案(右)が比較検討されているが、どちらにも奥戸街道交点に「(仮)奥戸駅」が設けられる。詳細については、以下葛飾区サイトを参照。

 計画では普通の鉄道だと輸送力や投資金額が過大となるため、路面電車タイプの車両を用いるLRT(Light Rail Transit)が主眼に置かれている。新金貨物線に道路を走行する区間はないが、LRT車両であれば駅のサイズが小さくて済み、バスのように地上の乗り場からすぐに乗れるという利点があり、バリアフリーの点でも優れた案と言えよう。2023826日には宇都宮市で国内2例目となるLRTが開業したが、車両や駅の使い勝手・イメージを掴むといった意味で、葛飾区にとっても身近な参考例ができたことになる。高齢化社会の進展に伴って交通弱者・移動弱者の増加が危惧される中、新金貨物線LRT化計画は時代にマッチした処方箋の一つと言えるだろう。奥戸や細田の“『小岩』駅遠物件”が駅近物件に化ける可能性もある。検討の練度は既に高く、“宇都宮に続くLRT”になる可能性は十分に見込めよう。

▲2023年8月26日に開業した芳賀・宇都宮ライトレール。新金貨物線もLRTが走るようになるだろうか。

▲2023年8月26日に開業した芳賀・宇都宮ライトレール。新金貨物線もLRTが走るようになるだろうか。

奥戸新橋 周辺のマンション

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・「京成小岩」でも高架化計画が進行中!

 さて、次は「京成小岩」に降り立ってみよう。JR「小岩」と「京成小岩」は柴又街道がほぼ一直線に結んでいるが“徒歩20分”と案内され、徒歩での乗り換えは現実的ではない。そのため、両駅間の移動は京成バス小55系統(小岩駅―金町駅)を利用するのが一般的だ(所要約5分)。小55は「京成小岩」に加え、北総線「新柴又」・京成金町線「柴又」と5つの駅を結び、柴又帝釈天の参詣客も多く利用するほか、並行する京成金町線(15分間隔)に対して日中7~8分間隔と本数も多く、JR線まで直接出られることから金町線よりも便利な面が多い。「小岩」を発着する路線バスの中で最も本数が多いのも小55である。

▲柴又街道を走る京成バス小55系統。利用者は多いが、柴又街道が片側1車線のため渋滞しやすい。

▲柴又街道を走る京成バス小55系統。利用者は多いが、柴又街道が片側1車線のため渋滞しやすい。

 「京成小岩」のメインは反対側の北口で、商店街も主にこちらに形成されている。一応駅前広場はあるもののやはり狭く、バス1台がようやく収まる程度。ここからは小55とは別経路で住宅地をくまなく回り「小岩」「京成高砂」を経て「亀有」に至る京成タウンバス小54系統が20分毎に出ているが、バス到着の際はバックが必須なため、誘導員の笛に従って乗り場へ据え付けるという余裕の無さだ。

▲京成小岩駅北口。バスがようやく1台停まれる程度の余裕しかない。

▲京成小岩駅北口。バスがようやく1台停まれる程度の余裕しかない。

 「京成小岩」は普通(日中10分毎)に加えて快速(日中10~20分毎)も停車するが「特急」系統は通過する。コロナ禍による減便ダイヤ改正により「特急」が半減し「快速」に置き換わったことで「京成小岩」は停車本数が増え、却って利便性が向上したという状態だが、京成線の屋台骨である成田空港関連の航空旅客が復調すれば、元の普通10分毎・快速20分毎のダイヤに戻される可能性もある。「京成小岩」は1~4番線まであって追い抜きができるため、普通は特急や快速に追い抜かれることも多い。「京成小岩」で降りるなら問題はないが、隣の「江戸川」へ行く場合は1駅手前で通過待ちという状況も多く、やはり利便性では「江戸川」よりも「京成小岩」に軍配が上がる。

▲京成小岩を出発する京成線。JR小岩駅周辺とはまた異なり、中規模のマンションが多い。

▲京成小岩を出発する京成線。JR小岩駅周辺とはまた異なり、中規模のマンションが多い。

このように駅自体の規模が大きいのに加え、駅の北側では柴又街道、東側では上小岩遺跡通り(葛飾区内で環七通りに接続する)の踏切があり、特に柴又街道は小55が通るために踏切で渋滞が起こりやすいのに加え、バスが踏切待ちで何分も発車できないといった状況も珍しくない。駅前広場が不十分でゆとりがないといった状況も「小岩」駅周辺と似通ったものがあるため、これを解決する策として「京成小岩」「京成高砂」の2駅を高架化する計画を練っている。2022年には国土交通省により“連続立体交差事業”の“新規着工準備採択”がなされ、現在は東京都による具体的な検討が進められているところだ。併せて江戸川区では2019年に“京成小岩駅周辺地区まちづくり基本構想”を策定している。

▲京成小岩駅前の“上小岩遺跡通り”。奥に京成線との踏切があり、高架化の計画が進められている。

▲京成小岩駅前の“上小岩遺跡通り”。奥に京成線との踏切があり、高架化の計画が進められている。

 ただ、3路線に加えて車庫を併設する「京成高砂」の高架化が難題であり、実現には少なくとも2030年代以降になるのではないだろうか。「京成高砂」の南東に広がる大規模団地・都営高砂団地では現在老朽棟の除却・建て替えが進められているが、まずはこちらに高砂車庫を移転させ、その後で線路の高架化と車庫跡地の再開発を進めるという検討が葛飾区によって進められているという。「京成小岩」の高架化もこれと歩調を合わせる必要があるため、通常の高架化よりも時間がかかるのはやむを得まい。

▲京成小岩駅ホーム。1~4番線まであり、追い抜きが可能な構造。

▲京成小岩駅ホーム。1~4番線まであり、追い抜きが可能な構造。

 計画では、柴又街道に面した南口に交通広場を設け、恐らく小55もいったん交通広場を経由するようになる。北口側の狭い広場もやや拡張された上で“拠点ゾーン”が設けられ、“京成小岩駅周辺および北小岩全体のにぎわいや交流の拠点としての「核」を形成”するという。イメージ図では大きな広場と共に再開発ビルのような建物が描かれており、“建物の共同化の検討”とあることから、再開発マンションが誕生する可能性もある。現状“拠点ゾーン”とされているエリアは古いマンションやビジネスホテルが密集しており、これら老朽建築物を共同化してまとめ、広場用地を捻出するということになろう。

▲JR小岩駅周辺には及ばないが、京成小岩周辺にもこうした飲食店が連なる一角がある。

▲JR小岩駅周辺には及ばないが、京成小岩周辺にもこうした飲食店が連なる一角がある。

 「京成小岩」周辺の商店街は、賑々しい「小岩」周辺と違った“いぶし銀”の風格すら漂い、また違った魅力があるように思う。ただ、江戸川区によると「京成小岩」の乗降客数はコロナ禍までは増加傾向であったところ、商店の数は減少傾向にあるという。確かに、駅周辺は昭和3040年代前後に建てられたであろう古い建築も多く、「小岩」周辺と比べ人通りの量では段違いに少ない。そのテコ入れを図り、街自体の代謝を促すといった意味で、今回の駅高架化に伴う再開発は理にかなったものだ。ただ、その影響で今の風情や魅力が失われるようなことは避けてほしいもの。実査の途中、柴又街道近くの洋食屋さんに入ってみたが、定食はハンバーグに魚のフライがついて1,000円ほどで、文句なしに安くてうまい。老夫婦二人で切り盛りしていて、昼時だったこともありお客さんが絶えなかった。こうした「小岩」とも違った魅力を持つ「京成小岩」の風情が残る再開発になればよいのだが。

▲横丁の雰囲気が残る京成小岩駅北口。こちらにも再開発の計画があり、将来は景色が一変するかもしれない。

▲横丁の雰囲気が残る京成小岩駅北口。こちらにも再開発の計画があり、将来は景色が一変するかもしれない。

「京成小岩」周辺のマンション

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    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

    ▲ランカ小岩(2024年3月竣工予定)

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◆「京成小岩」周辺の物件について、もっと知りたい方はこちら◆

・“小岩菖蒲園”に渡し舟の雰囲気が残る「江戸川」駅周辺

 京成本線「江戸川」駅は、東急世田谷線「世田谷」駅と並び、“区民にすら存在が知られていない区名の駅”ではないだろうか。「世田谷」駅はまだお笑いのネタにされているのを見かけたことがあり、“区民あるある”として親しまれている様子であるが、「江戸川」駅はそうした話も聞かない。1日の乗降客数は5,548(2022)と、約69万人の江戸川区民の1%にも満たない。隣の「京成小岩」が16,763人、JR「小岩」に至っては約111,000人におよび、これはJR中央・総武線の各駅停車のみの停車駅では最多で、快速停車駅の「市川」「稲毛」よりも多いほどだが、「江戸川」駅はそうした大きな駅の近隣とは思えないほど静かな駅である。

▲江戸川を出発する京成線下り電車。すぐ奥は江戸川の鉄橋で、渡ると千葉県市川市。

▲江戸川を出発する京成線下り電車。すぐ奥は江戸川の鉄橋で、渡ると千葉県市川市。

 しかしながら「江戸川」駅は①歴史編で触れたように、“小岩市川の渡し”の“小岩御番所町”の目の前であり、小岩の原点とも呼べる場所である。駅を降りてすぐ南側に“小岩御番所町跡”の碑が立ち、これまた静かな“京成江戸川商栄会”商店街を辿った先の“愛宕山宝林寺”には、かつて夜の渡し場を照らした“常燈明”(じょうとうみょう)が残っている。1934(昭和9)の江戸川河川改修によって河原から移されたといい、台座には“千住総講中”の文字が刻まれている。

▲宝林寺の常燈明。かつては“小岩市川の渡し”の渡し場にあり、常夜灯として使われていた。

▲宝林寺の常燈明。かつては“小岩市川の渡し”の渡し場にあり、常夜灯として使われていた。

 これは成田山新勝寺の信徒の集団を指す“成田講”(“連中”の意味で“講中”とも)のうち、日光街道千住宿周辺の集団のすべてという意味で“総”がついたものだろう。小岩市川の渡しは、江戸市中から成田山へ向かうに際に必ず通過する最大の渡し場であったことから、最も有力な経由地の一つである千住宿が常夜灯を寄付するというのは、厚い信仰を示すとともに千住宿の地位を高めるものであったのだろう。現在でも京成線が「千住大橋」から「江戸川」を経て「京成成田」までを結んでおり、現在では薄れてしまった小岩と千住の浅からぬ付き合いのほどが窺える。

▲小岩御番所町だったあたり。すぐ奥は江戸川の堤防で、どことなく古い街の面影が感じられる。

▲小岩御番所町だったあたり。すぐ奥は江戸川の堤防で、どことなく古い街の面影が感じられる。

 常燈明が残る宝林寺を過ぎ、現代の“小岩市川の渡し”にあたる市川橋のたもと“江戸川交差点”を渡ると国道14号千葉街道、かつての“元佐倉道”となり、ほどなく“一里塚”という交差点およびバス停(『篠崎』方面)がある。現在は説明板が立つのみで塚自体は跡形もないが、元佐倉道で日本橋から三里目の塚にあたり、“小岩の一里塚”の通称で昔から親しまれている場所だ。ちなみに、一つ手前の一里塚はやはり4kmほど先、江戸川区松島の五分一橋跡(ごぶいち―)あたりとされているが、こちらは場所すら不明瞭になってしまったというから、“小岩の一里塚”がいかに親しまれているかがわかる。ここで小岩市川の渡しへの道と慈恩寺道(岩槻街道)が分かれていたといい、平坦な農地のなかに立つ塚と榎の木は、遠くからでも目立っただろう。しかしながら、現在はごく普通の市街地が広がるばかりである。

▲一里塚交差点。ここで国道14号千葉街道から、篠崎街道が分岐する。篠崎行きのバスもここを通る。

▲一里塚交差点。ここで国道14号千葉街道から、篠崎街道が分岐する。篠崎行きのバスもここを通る。

 現在の「江戸川」駅の名物となっているのが、駅からすぐ東側の江戸川河川敷に設けられた“小岩菖蒲園”だ。同じ京成線沿いの「堀切菖蒲園」は駅名にもなるほど有名で、実際に江戸時代からの歴史を持つが、こちらは1982年(昭和57年)に区民から花菖蒲の寄付を受けたことによるもの。園内の説明によると、花菖蒲は発芽から34年で花盛りを迎え、67年目で寿命を迎えて枯れてしまうそうだが、園内は8つのブロックに分けられ、一年ごとに順々に株分けされているのがわかる。小ぢんまりとはしているが東屋や蓮池も設けられ、5月下旬~7月上旬の花菖蒲の時期には、地元の観光客で大いににぎわう。

▲小岩菖蒲園と、江戸川を渡る京成スカイライナー。江戸川河川敷が憩いの場として親しまれている。

▲小岩菖蒲園と、江戸川を渡る京成スカイライナー。江戸川河川敷が憩いの場として親しまれている。

 しかしながら私が訪れた8月では青々とした菖蒲の葉が茂るのみで、猛暑とあっては他に訪れる人もいなかった。むしろ、小岩菖蒲園は区の“江戸川グラウンド”として、野球場24面やサッカー場5面をはじめとしたスポーツ施設に囲まれており、菖蒲園の方が肩身が狭い。夏休み中の平日とあって、野球場はどこも野球少年たちが汗を流していた。その傍らを、時折京成電車が轟音を立てて鉄橋を渡っていく。ちょうど甲子園の期間中だったが、この江戸川グラウンドから夢舞台に立つ野球少年はいるのだろうか。たまに響くバットの快音を聞き、川風に揺れる菖蒲の葉を眺めながら、しばし足を休めた。

▲“株分け”が行われて刈り取られた一角。毎年エリアを少しずつ変え、美しい菖蒲田が維持されている。

▲“株分け”が行われて刈り取られた一角。毎年エリアを少しずつ変え、美しい菖蒲田が維持されている。

「江戸川」駅・小岩菖蒲園 周辺のマンション

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    ▲クオリティス小岩(2024年2月竣工予定)

    ▲クオリティス小岩(2024年2月竣工予定)

    ▲クオリティス小岩(2024年2月竣工予定)

    ▲クオリティス小岩(2024年2月竣工予定)

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    ▲クオリティス小岩(2024年2月竣工予定)

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◆「江戸川」周辺の物件について、もっと知りたい方はこちら◆

3.「小岩」「京成小岩」の駅別中古価格

 最後に「小岩」「京成小岩」を取り巻くJR中央・総武線各駅停車・JR総武線快速の駅別中古価格を見てみよう。

JR総武線

▲データ集計:(株)東京カンテイ 直近3年、各年とも1~12月。30㎡未満および事務所・店舗用住戸は除外。赤太字は上位5駅、赤字は上位10駅。背景青地は快速停車駅。

▲データ集計:(株)東京カンテイ 直近3年、各年とも1~12月。30㎡未満および事務所・店舗用住戸は除外。赤太字は上位5駅、赤字は上位10駅。背景青地は快速停車駅。

 「小岩」の2022年中古価格は「御茶ノ水」―「千葉」間22駅中10位と、概ね中位に位置している。都心側となる「御茶ノ水」―「亀戸」の6駅が順当に1~6位を占めているが、城東地域の中心的な存在である「錦糸町」が坪300万円超となっており、隅田川を渡れば日本橋である「両国」よりも高い。快速が停車し半蔵門線も乗り入れること、東京スカイツリーの玄関口の一つとなっていること、錦糸町PARCO(楽天地)をはじめ高い商業集積を誇ることが理由として挙げられる。ただ、「御茶ノ水」―「亀戸」の各駅は平均専有面積が60㎡未満であり、地価が高いためファミリーというよりもコンパクトマンションの需要が高いことが窺える。

 そうした中、「小岩」は都心側から数えて初めて平均専有面積が70㎡以上となる駅であり、なるべく総武線の都心寄りでファミリー物件を探したい方にとっては注目すべき駅と言えるだろう。向こう数年間の駅前再開発で2,000戸以上のタワーマンションが供給されるほか、再開発と連動しての一般のマンションも供給が続いているため、新築縛りの検討者にとっても物件同士の比較検討がしやすい状況にある。総武線快速こそ停車しないが、両隣の「新小岩」「市川」で乗り換えられるので、極端に不便というわけでもない。

 価格面でも「小岩」は魅力が多い。千葉県へ入っても平均坪単価はあまり下落せず、快速停車の「市川」と、都営新宿線の始発駅である「本八幡」は坪200万円超と江戸川区内とあまり変わらず、「市川」「本八幡」に至っては「小岩」よりも高いほどで、相対的に「小岩」は割安感がある。ただし隣の「新小岩」は駅前の再開発があまり進んでおらず、「平井」や「小岩」のようなフラッグシップとなる大型マンションも少ないため、周囲よりも平均坪単価の伸びが少ない。「市川」周辺は千葉県有数の高級住宅地として人気があり、「本八幡」は再開発の進展によりタワーマンションが林立するようになっているため、中古価格を押し上げている。「下総中山」を過ぎると「船橋」「津田沼」といった快速停車駅が優位となりつつ、徐々に下落していく。

京成本線・押上線

▲データ集計:(株)東京カンテイ 直近3年、各年とも1~12月。30㎡未満および事務所・店舗用住戸は除外。赤太字は上位5駅、赤字は上位10駅。背景青地は快速停車駅。

▲データ集計:(株)東京カンテイ 直近3年、各年とも1~12月。30㎡未満および事務所・店舗用住戸は除外。赤太字は上位5駅、赤字は上位10駅。背景青地は快速停車駅。

 京成本線・押上線の表を見る際は「京成小岩」~「京成船橋」間のJR総武線と並行する区間において“実質的な”JR線最寄りが含まれている場合があるため、注意を要する。例えば「京成西船」は2022年中古価格で全体7位(182.1万円/坪)で「京成小岩」に次ぐ水準となっているが、これは南500mほどにJR・東京メトロ「西船橋」があり、実質的な「西船橋」最寄り物件が「京成西船」最寄り物件として扱われていることによるものと考えられる(平均築年7.5年は不自然)。「京成小岩」も、南側ではJR「小岩」へも徒歩圏となる分が含まれているとはいえ、京成線最大のジャンクションである「青砥」「京成高砂」よりも高く、住宅地としての評価が一定していると言えるだろう。「日暮里」「京成上野」方面の京成本線、また「押上」「日本橋」「新橋」方面の京成押上線~都営浅草線直通のどちらへも直通列車が走るメリットは「押上」~「京成立石」までの押上線単独区間にはないものだ。ただ、今後は「京成高砂」の再開発が進み「京成小岩」との格差が縮小する可能性もある。京成本線・押上線の双方に加えてJRも使え、住宅地が広がる「京成小岩」と、京成線最大のジャンクションにして未来の再開発が控える「京成高砂」とで好みが分かれるかもしれない。

おわりに

 取材後の夕方、改めて「小岩」の商店街を歩いてみた。南口から3本伸びる商店街のうち、真ん中の“昭和通り商店街”だけは日中のみ歩行者天国になっていることもあり、最も人通りが活発であるように感じられた。歩いてみると、ドラッグストアや不動産屋、駄菓子屋などのチェーンストアも見られるものの、パン屋や漬物屋、古着屋、惣菜屋といった中小の店舗も非常に多いのが印象的だった。歩行者天国となるのは駅側250mほどだが、昭和通り自体はその先もまだ続いており、家路のついでに買い物を済ませる人が本当に多い。駅と自宅の間にこうした便利な商店街があれば、導線に無駄がなく、効率的な生活ができることだろう。街並みも平坦なので自転車が多く、実質的な駅勢圏も広いのも便利なあたりだ。

▲“昭和通り商店街”の入り口のアーチ。この写真に写る駅側100mほどは再開発区域に含まれる。

▲“昭和通り商店街”の入り口のアーチ。この写真に写る駅側100mほどは再開発区域に含まれる。

 北口にまわってみると、こちらは居酒屋をはじめ飲食店が集積しており、はしご酒を楽しむ人々がそぞろ歩いていた。焼き鳥屋、もつ焼き屋、小料理屋、焼肉屋・・・といった飲み屋ばかりでなく、ラーメン屋、つけ麺屋、丼もの屋といった“食事処”や古い喫茶店も数多く、これだけあれば何を食べるにも困らないだろう。小岩中央通り沿いには韓国料理店や(いかにも大陸式の)中国料理店も数多く軒を連ね、あまりお目にかかれないような品々も通りに向けて掲げられている。こうした光景は一朝一夕にできるものではなく、また再開発で失われがちな光景の典型でもある。“木造家屋密集地域”でもあり、災害に対する備えが必要なのも十分理解できるのだが、それにしてもこうした街並みが将来的に失われ、後に入るのがチェーンストアばかりということになれば、それは却って町全体を没個性化させてしまうことになりかねない。

▲小岩駅北口の飲食店街。17時を過ぎれば、早くもはしご酒を楽しむ人々が街へ繰り出していく。

▲小岩駅北口の飲食店街。17時を過ぎれば、早くもはしご酒を楽しむ人々が街へ繰り出していく。

 願わくば、再開発タワーマンションと“味のある”街並みが共存できればいいのだが…。ただ、楽しそうに夕方の小岩を歩く人々の顔を見れば、そう簡単に失われることもないのかもしれない。駅前タワーマンションから味のある飲食店街、アジアンテイスト溢れる通り、そして旧街道筋の面影を残す江戸川河川敷と、“なんでも詰め込んだ新・下町”、それが「小岩」なのだろう。どうかこの賑わいが100年後も続きますように―――。再開発組合が掲げる“100年栄えるまちづくり”が、言葉通りに実現する将来であってほしい。そう思いながら夕刻の黄色い総武線に揺られ、「小岩」を後にした。

▲改札前の栃錦(第44代横綱、在位1955-1960:28場所)像。小岩村出身。待ち合わせ場所として親しまれており、定期的に人が現れては去っていく。こうしたランドマークがあるのも、街の愛着に繋がっていく。「両国」が近いので、小岩には“田子ノ浦部屋”など相撲部屋もいくつかある。

▲改札前の栃錦(第44代横綱、在位1955-1960:28場所)像。小岩村出身。待ち合わせ場所として親しまれており、定期的に人が現れては去っていく。こうしたランドマークがあるのも、街の愛着に繋がっていく。「両国」が近いので、小岩には“田子ノ浦部屋”など相撲部屋もいくつかある。

※特記以外の画像は2023年8月筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。
※再開発関連については、以下のHPを参考にしました。

佐伯 知彦

賃貸不動産経営管理士

佐伯 知彦

大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。

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