暮らしのヒント2020/10/22

「実りの秋」である。欧州では、ハーヴェスト・シーズンといい、真先に思い浮かぶのがワインの原料である葡萄で、ポルチーニやトリフなどとともに季節の醍醐味になっている。

わが国では年に一度の収穫祭、言うまでもないがその中心は稲であり、神様に新しく収穫した穀物をお供えし、天皇陛下自らも食べる「新嘗」が生きてゆく糧として受け継がれてきた。

 

■ダツ、トビウオ

 

■小アジ

 

実りの秋は、「食欲の秋」でもある。秋になると故郷に戻ってくる鮭、山では団栗や栗、街路樹の下には銀杏が落ちる。まさに天の恵みである。中でも秋深まる10月、北からくだってくる房総沖の「秋刀魚」は美味だ。手間隙だがやはり秋刀魚は、炭火で塩焼きにするのが最高である。

 

秋刀魚の脂が炭ではじけるともうもうと煙が、遠火の強火に燃え上がる秋刀魚。都会のマンション暮らしでは夢かもしれないが、今年は秋刀魚そのものが不漁で、ほろ苦い内臓を懐かしい。

 

余談だが、この後秋刀魚は伊豆大島や紀伊半島辺りまで下ると脂過多に、それを丸ごと一匹風干しにする。天日で良い加減に身が引き締まり、背骨や内臓までを一緒にバリバリ頂戴する。冷凍も効くので、冬、燗酒のいい肴になる。

 

 

さて、今年はコロナ禍にあり、近所海辺の魚をおっている。今月に入りがらりと魚種がかわったのにひどく感じ入ったが、流通にのるメジャーな魚だけでないと当たり前のことに気付く。魚をさくや切った状態で買うのは都会の日常であるが、丸のまま中骨まで食すのが本来の礼儀だとここにきて実感する。

 

■赤鯖

 

■鰹

 

■赤鯖と鰹刺身

 

眼に鮮やかな赤鯖(ハチビキ)に、矢のようにとがった口をもつダツなど見た事のない魚はさばくとよくわかる。

 

■ウルメイワシ、カマス

 

■ダツ、トビウオ、カマス一夜干し

 

カマスにウルメ鰯、トビウオなども自分で一夜干しにすればこの上ない美味に変貌する。さきの炭をおこす以上に魚の処理は手間だが、その分味わい深い。

 

 

30年ほど前、英国遊学終盤無性に魚が食べたくなり、数少ない市場に生の鯖を発見し、日本から料理本を送ってもらい〆鯖をつくってみた。

初めての三枚おろし、いったい何十匹の鯖をさばいたか定かではないが、やっとのことでかたちになり食した感動は今でも鮮明だ。

 

■手製鯖寿司

 

それから経験を積み重ね、秋に脂ののってくる鯖の棒寿司は僕の大好物になる。無論京都老舗のそれに味は敵わないが。

若狭一塩の甘鯛を食した経験から、近場の甘鯛を一塩し半身を刺身に、骨の付いた身は皮をぱりっとオリーブオイルで香ばしく焼きなんとか形にする。コロナ禍で外食はままならないが、値段はうんと手頃に。

先日も横浜南部市場で穴子をみつけ煮穴子に、次回は穴子寿司も視野にはいってきて、今やアンチョビまで自家製となってきたこのごろだ。

 

■甘鯛イタリアン風

 

■甘鯛一夜干し刺身

 

■煮穴子

 

世は時短だが、新たなライフスタイルは新たな食生活をも切り開くきっかけになるのではないだろうか。在宅勤務で生まれた時間を、食生活の手間暇に、好きな魚をさばくことからチャレンジしては如何か?まずは、週に一度GO TO キッチン!

 

 

 

 

白洲信哉(しらすしんや) 文筆家/アートプロデューサー

1965年東京都生まれ。細川護煕元首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方、広く日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザイン、展覧会などの文化イベントの制作に携わる。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な編著書に『骨董あそび』(文藝春秋)、『白洲次郎の青春』(幻冬社)『天才青山二郎の眼』『小林秀雄 美と出会う旅』(新潮社)『白洲家としきたり』(小学館)『かたじけなさに涙こぼるる』(世界文化社)『旅する舌ごころ』(誠文堂新光社)他多数。最新刊に『美を見極める力』(光文社新書)。

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