バビロン再訪~バブル時代のマンション物語~2019/12/24

タワーマンションはすっかり当たり前になった。

 

その数は全国で1,300棟を超え、東京には441棟、139,991戸のタワーマンションが存在するのだそうだ。(20階建て以上の分譲マンションの2020年までの竣工予定の合計、東京カンテイ調べ、2018年10月31日)。

 

過去に関わったタワーマンションを思い返してみると20棟は下らない数になる。

 

プロジェクトによってその関わり方はざまざまだが、最初に関わったのは西洋環境開発在籍当時の《シテヌーヴ北千住30 A棟》(1990年竣工)だった。隅田川沿いの工場跡地にス―パー堤防の整備とあわせて30階建てのタワーマンションを計画した。

 

当時、タワーマンション(その頃は超高層マンションという言い方が主流だった)といえば、大川端のリバーシティ21での初の分譲マンション《シティフロントタワー》(三井不動産、1992年竣工)が販売中だったが、それ以外ではタワーマンションはほとんどなかった時代だ。

 

《シテヌーヴ北千住30 A棟 》の販売開始はバブルの絶頂期の1990年春。上層階への希望が殺到する当初の販売状況は、同年3月の総量規制を経て一変し、汐が引くように顧客がいなくなり、あの手この手を考えるも、まったくなすすべがなかったことが今も記憶に鮮明だ。

 

プロジェクトにもっとも深く関わったのは荒川区の町屋に建てられ2004年に販売した《マークスタワー》(町屋駅前南地区再開発組合、2006年竣工)だ。千代田線「町屋」駅と直結し、住宅では初めての中間免震構造を採用した住商複合の28階建ての計画だ。商品企画、外観デザイン、共用部デザイン、ユニットプランニング、専有部インテリア、モデルルームインテリア、共用部家具などを手がけた。

 

 

 

2000年前後ですら、今とは異なり、ディベロッパー各社はタワーマンションに、どちらかというと二の足を踏んでいた。23区内の地下鉄駅直結の再開発計画という、今だったら垂涎の立地・計画にもかかわらず、ディベロッパーがなかなか見つからず、結局、《マークスタワー》は再開発組合が施工会社の前田建設工業のサポートのもと、自ら分譲するという東京では初めての稀有なケースになった。販売はというと、早期に完売し、タワーマンションや駅前再開発に対する評価の高さをうかがわせる結果となり、その後のタワーマンションの増加を予感させた。

 

タワーマンションの要諦をひとことで言うと<立地創造>ということになるだろう。

 

大規模な敷地、数百戸の戸数、高さ100メートルを超える存在感、環境創造型のランドスケープ、

多彩な共用施設、堅固なセキュリティ、さまざまなソフトサービス、そして住・商複合開発による生活利便など、普通のマンションを超える規模と計画で、立地する土地のもともとの環境やイメージを刷新する物件が、タワーマンションだ。

 

タワーマンションの多くは、川沿いや湾岸エリアにおける工場や倉庫などの産業用地の用途転換か、駅前の闇市発祥の飲み屋街や木密商店街などを建て替える再開発事業によって計画される。

 

それまでひとが住んでいないところに、突然に300戸、500戸の大規模な住居が生まれる。タワーマンションでは必然的に<立地創造>が不可欠となる。

 

<創造>とはないものを創り出すことだ。現在、ないもの、目に見えないものを青田で(建物完成前に)売るために招聘されるがキャッチコピーとイメージパースの広告2点セットだ。

 

ジャン・ボードリヤールは、商品に付与された差異の印としての記号が、モノとしての商品の使用価値や商品生産に要した労働価値以上に、効力を持つ社会を消費社会と定義し、1980年代の日本において一世を風靡した(『消費社会の神話と構造』、紀伊国屋書店、1979年)。

 

セゾングループは、その消費理論の先兵だ、とも言われたりしていた。

 

そんなボードリヤールの主張が、現在、あまり返りみられなくなったのは、その後の世界が、すっかり消費社会に覆われ、それが当たり前になってしまった証拠といえる。

 

 

キャッチコピーやイメージパースは、<創造>したいものを記号化したものだ。

 

けれん味たっぷりのキャッチコピーは「マンションポエム」と称され、マニアによって現代を象徴する「文学」としての価値を認められ、イメージパースは、インスタグラムに先駆けること十数年、「パース映え」というマンションデザインを決定する際の殺し文句を生み出した。

 

タワマン黎明期のリーディング物件《センチュリーパークタワー》(三井不動産、1997年販売)は「中心に住む」と謳い、東京居住の中心概念を東にシフトさせ、今日のタワマンブームの先兵《東京ツインパークス》(三菱地所他、2000年販売)は、「都心を、極めつくして、住む」と誇り、汐留はほとんど銀座と地続きになり、湾岸での大規模タワマンラッシュの起爆剤となった《ザ・東京タワーズ》(住友商事他、2005年販売)における「I LOVE NEW TOKYO」キャンペーンを通じて、埋め立て地の晴海・豊洲・東雲は、NEW TOKYOとなった。

 

ほんとうにそうなのかどうかは、たいして重要ではない。現実はともかく、皆にそう思わせることが重要なのだ。

 

<創造>とは今、ないものを創ることであり、キャッチコピーとは、創造したいものの記号であると同時に、今、ないものを表象している記号でもある。

 

現在、販売中の《白金ザ・スカイ》(東京建物他、2019年販売)のキャッチコピーは、「POWER & ELEGANCE」というもの。

 

 

 

日本における、高級レジデンス、高額住宅は、すべからく<邸宅>を範としており、日本の<邸宅>には庭園がつきものである。マンションといえども、日本においては、建物のすばらしさに加え、水と緑の庭園やアメニティが不可欠であり、それらがワンセットとなってはじめて<邸宅>に値すると評される。したがって、日本のタワーマンションのコンセプトには、<タワー&ガーデン>という2つの要素が含まれるのが常である。

 

POWERとELEGANCEとは、それぞれタワーとガーデンが象徴するものであり、その意味で《白金ザ・スカイ》の「POWER & ELEGANCE」というキャッチコピーは、王道のそれと言える。

 

 

古川沿いの地に<タワー&ガーデン>を創る。まさにタワーマンションンならではの<立地創造>の醍醐味であり、「POWER & ELEGANCE」というキャッチコピーは、身も蓋もなさすぎて「マンションポエム」の詩興に欠ける感は否めないが、やっぱり王道のそれなのだ。

 

その王道が微妙に変わってきた感じがするのが、昨今のタワーマンションだ。

 

《パークシティ武蔵小山ザ タワー》(三井不動産レジデンス、2019販売)のキャッチコピーは「日本一、感じのいいタワマンへ」であり、《ブランズタワー豊洲》(東急不動産、2019販売)のそれは「愛が、長続きするタワー」というものだ。

 

 

 

 

「感じのいいタワマン」や「愛が、長続きするタワー」がはたして具体的にどういうものかは正直言ってわからない。でも、キャッチコピーとして言いたいことは良くわかる。

 

タワーマンションはこれまでにないもの(価値)を創造することが不可欠だという論理でいうと、この場合のこれまでないもの(価値)とは、「感じのいいタワマン」であり、「愛が長続きするタワー」であるということになる。

 

つまり、これらの広告は、「タワマンというものは一般に感じがわるいものだ」、「タワーマンションでは普通、愛は長続きしない」ということを言外に言っているのだ。

 

今までのタワーマンションの広告に見られた、自信満々で威勢がよいどや顔が、冷静で控えめなはにかみ顔にとって代わられている。確信に満ちた自己肯定願望から、内省的な自己批評性へと、その眼差しが一変している。

 

これはどういうことだ。

 

キャッチコピーはコピーライターと広告代理店の単なる思いつきという訳ではなく、ディベロッパーが抱いている、ある種の想いや漠然と感じている市場の空気や無意識の本音を射抜いていることは間違いない。

 

マンションにつけられたキャッチコピーやイメージパースなどの広告は、マンションをどう見せたいかというディベロッパーの意志が源泉ではあるが、同時に、その大本にあるのは、自分が住んでいるマンションはこんなマンションだと思いたい、あるいは自分はこんなマンションに住んでいると他人から見られたいという住み手の欲望(それが欲しいと感じる欲求)を先取りし、可視化し、記号化したものだ。

 

マンションはキャッチコピーに基づいて作られている訳ではない。ここまで書いてきて言うのもなんだが、マンションのキャッチコピーやイメージパースは、残念ながらマンションそれ自体とは何の関係もない。タワマンは感じがいいのか、悪いのか、あるいは、タワーでは愛は長続きするのか、しないのか、という問題とはまったく関係ない。

 

ただ、言えることは、今、僕たちがタワーマンションに託する夢や理想やイメージ、言い換えれば、タワーマンショへの欲望は、かつてのような「中心」でも、「極める」でも、「NEW TOKYO」でもなく、好感度や愛という言葉が表象するようなもの変わりつつある、ということである。

 

日本全国で累計35万戸を超え、あちこちで林立するタワーマンションは、タワマンに対する新たな愛と幻想を誕生させつつある。

 

 

(★)トップ画像は《シテヌーヴ北千住30 A棟》。 所在地/足立区千住曙町 総戸数/223戸 構造規模/SRC造地上30階地下1階 事業主/西洋環境開発 設計/日建ハウジング 施工/竹中工務店・青木建設 竣工/1990年11月

 

(★)2枚目の画像は《マークスタワー》。 所在地/荒川区荒川 総戸数/301戸 構造規模/RC造地上28階地下2階 事業主/町屋駅前南地区再開発組合 設計/山下設計 施工/前田建設工業 竣工/2006年3年

 

(★)3枚目の画像は建設中の《白金ザ・スカイ》、4枚目の画像は《パークシティ武蔵小山ザ タワー》。

 

 

 

大村哲弥 一級建築士/ブロガー

有限会社プロジェ代表:1984年、セゾングループのディベロッパー株式会社西洋環境開発に入社。住宅・マンション事業のマーケティング・商品企画・事業企画に従事する。バブル前夜からバブル崩壊とその後のカルチャーシーンのなかで20歳代、30歳代を過ごし、不動産ビジネスに携わる。1996年、有限会社プロジェ設立。建築・住宅分野のコンサルティング・商品企画・デザイン・執筆などを手がける。東京工業大学大学院修了。一級建築士。

ブロガー:本・映画・音楽・アート・デザイン・ファッション・都市・建築・食・料理・旅・暮らし・まち歩きなどのカルチャーフィールドを横断的に渉猟・論考するブログを主宰。

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