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更新日:2023.03.02
登録日:2022.10.28
亀有駅――胸を張って言える「みんなおいでよ 俺たちの街へ」(東京都葛飾区・足立区/JR常磐線各駅停車)
「♪あーそこは亀有 あーきっと亀有 みんなおいでよ俺たちの町へ」
「こちら葛飾区亀有公園前派出所(以下『こち亀』)」のテーマソング、「おいでよ亀有」の一節だ。亀有といえば両さん(主人公『両津勘吉』のあだ名)、両さんといえば亀有であり、連載期間40年という金字塔を打ち立てた国民的漫画「こち亀」の舞台である。これほどまでに街を愛し、みんなおいでよと来訪を誘う街が他にどれほどあるだろうか。もうひと世代上の方々にとって葛飾区といえば「寅さんの街」だと思うが、30代の私にとって葛飾区はやはり「両さんの街」だ。
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▲亀有駅を出発する常磐線。平日朝7時前だったため、上り電車は混雑していた。
▲千代田線の終点、綾瀬は隣駅。JR常磐線各駅停車はほぼ全てが千代田線直通で、利便性は高い。
1.「両さんの街」亀有を歩く
大手町駅から千代田線~JR常磐線直通に揺られること23分。JR亀有駅南口に降り立つと、敬礼する両さん、中川、麗子がいきなり出迎えてくれる。極彩色のバックにお祭り姿の両さんが描かれた「ようこそ亀有へ!」の大看板が目を引くが、やはりこち亀ファンの訪問も多いのだろう。メインと言えるのはこちら側で、駅前広場も南口の方が大きい。
▲南口目の前に立つ3人。ほぼ等身大で記念写真を撮る人も多い。現時点で唯一の着色された像だ
▲近代的な亀有駅南口交番と自転車駐輪場のゲート。「ようこそ亀有へ!」とはいかにも観光地のようだ
▲亀有リリオ(イトーヨーカドー亀有駅前店)と南口バスターミナル。環七通りが近いため、青砥駅行き、新小岩駅行き、果ては東京ディズニーリゾート行きなど、路線バスも充実している。
商店街が放射状に三方へ伸び、南東側のものは徒歩5分ほどで大型ショッピングモール「アリオ亀有」へ至る。途中で環七通りを跨ぐものの、エスカレーター付きの歩道橋があって信号待ちをする必要はなく、歩道橋がそのままアリオの2階に繋がっているため、とても便利。常磐線沿線で駅近の大型商業施設はあまり多くないため、電車が着く度に駅からアリオへ人の波ができる。
▲アリオ亀有。葛飾区内最大級の広さを誇る上、電車でのアクセスも良いため、買い物客が途切れない。
▲環七通りを跨いでアリオ亀有と亀有駅方面を結ぶ歩道橋。電車が着く度に買い物客の列ができる。
▲すぐ近くに「亀有香取神社」がある。かつての亀有村の鎮守。中川を行き交う舟運の目印にもなったという
アリオだけでなく、駅前の再開発ビル「りりお」にはイトーヨーカドー亀有駅前店(全館ではなく1F・B1Fの2フロア、食品・日用品のみ)が構えるほか、商店街「ゆうろーど」をはじめとした商業集積は相当なもの。高い買物利便性を誇る点は、亀有の魅力の一つである。
▲「亀有リリオ」には「かめありリリオホール」を併設。度々こち亀の舞台が上演されることでも知られる。
反対側の北口に降りたっても、改札口に向かって両さん像が手を振っている。北口広場に面して「亀有駅北口交番」があり、いささか古びた平屋建ての交番は「亀有公園前派出所」そのものの雰囲気。
▲亀有駅北口に向かって手を振る両さん像。亀有を訪れる人を出迎えているかのようだ。
▲両さん像の背後に「亀有駅北口交番」がある。「派出所」が「交番」に改められたのは1994年のこと
▲亀有駅北口交番は年季を経た平屋のコンクリート建。雰囲気は「亀有公園前派出所」によく似ている。
少し東に進むと「亀有公園」があり、ベンチには両さんが座っているが、残念ながら「亀有公園前派出所」は実在しない。ある意味、わが国どころか世界的に有名な公園の一つなのではないかと思うが、亀有公園はごく一般的な遊具を木々が囲むごく普通の公園。周囲の街も、両さん要素を除けば正直なところ「ごく普通の街」の範疇である。
▲亀有公園。ベンチにはやはり両さん像が腰かけている。平日だったが、写真を撮るファンの姿も見られた
▲亀有公園と、すぐ近くの「レクセルマンション亀有」。ここだけなら、ごく普通の公園とマンションの景色だ
▲亀有公園の防災倉庫だが、ただの倉庫にしては「亀有公園前派出所」を模した外観に見える。
その「ごく普通の街」の「ごく普通の公園」の前にある「ごく普通の派出所(交番)」を舞台にしたからこそ、破天荒な警察官が繰り広げる日常というストーリーが活き活きとしたものになったのだろう。亀有公園のベンチに座って休んでいると、そんな気がしてくる。
2.亀有の歩みと亀有マンション事情
こち亀の作中でも度々紹介されているが、亀有はかつて「亀梨」「亀無」(かめなし)と呼ばれていた。中川下流の低地で、この辺りだけが亀の甲羅のように浮き出たように見えたり、六角形のように中川が湾曲していたことから「亀のかたちを成す」土地、ということで「カメナシ」→「亀梨」となり、その後、江戸時代に「亀無では縁起が悪い」ということで「亀有」に改められたという。
旧来、この辺りで栄えていたところといえば、柴又帝釈天題経寺(だいきょうじ)の門前町として栄えている東に2kmほどの柴又か、水戸街道が江戸川を渡る地点に設けられた「金町松戸関所」を擁した金町であり、かつての亀有はひなびた農村に過ぎなかった。中川の流れも緩く、それこそ亀がのんびりと泥や田の中を泳ぐような光景であったことだろう。域内を奥州街道の脇街道であった水戸街道が通過するが、千住宿の次は10kmほど離れ、江戸川を渡り千葉県に入った松戸宿であり、宿場町というわけでもなかった。
▲中川土手。中川は埼玉県羽生市に端を発し、複数の合流を経て東京湾へ注ぐ。亀有とは切っても切れない関係。
後年、距離が長かった千住~松戸間を埋めるべく新しい宿場が設けられたが、それも亀有から見て中川を挟んだ対岸で、その名も新宿(にいじゅく)。1896年に現在の常磐線にあたる鉄道が開通した時も駅は設けられず、新宿駅が設けられる予定であったという。しかし、有料橋(現在の中川橋)の通行が減るとして新宿地区から反対運動が起こった上、亀有村の地主・矢沢錦亀千氏から駅用地1,000坪の無償提供を受けたことで駅設置が決まり、翌1897年に晴れて亀有駅が開業、半年遅れて金町駅も開業、中間となった新宿に駅ができることはなかった。駅設置をめぐる駆け引きが、亀有と新宿の立場を逆転させたと言えるだろう。
▲亀有駅南口にある「新宿」の案内。地名として出世した亀有と対照的に、新宿は「亀有と金町の中間」という立場に
駅開設を機に亀有は東京の郊外に組み込まれ、1919年に南口側に日本紙器製造(のちの日本大昭和板紙、現・日本製紙)、1938年には北口側(足立区中川)に日立製作所亀有工場が開設されるなど、亀有は工業都市として発展してゆく。戦後は住宅地としての色合いが濃くなっていき、亀有の発展を支えた日本大昭和板紙は2003年に閉鎖。駅(西)側がアリオ亀有、東側が「ザ・レジデンス東京イースト(双日・日商岩井不動産・ニチモ他、2005年竣工、540戸)」へ生まれ変わった。 540戸という規模は亀有で最も大きく、20階建以上のいわゆるタワーマンションが無い亀有にあっては、かなりの存在感を誇る。
▲ザ・レジデンス東京イーストはアリオ亀有の向かいで、利便性は非常に高い。昔は同じ工場の敷地だった
現在でも工場跡地の再開発は続いており、駅北西側の旧三共製薬亀有工場跡地が「クラッシィハウス亀有(住友商事、2021年竣工、121戸)となっている。2022年10月時点で最も新しいマンションで、亀有駅徒歩4分と駅から近い上、1階にスーパーマーケット「サミットストア亀有駅北店」を併設しているため、高い生活利便性を有する。三共製薬跡地の南半分は「東京保険医療公社東部地域病院」として1990年に開院しており、未利用だった北半分がこのほど「クラッシィハウス亀有」となった形だ。大きな病院が隣接していることは、万一の際の安心感も得られるのではないだろうか。
▲クラッシィハウス亀有。全戸南向きで、南は東部地域病院のため遮るものがなく、解放感があるのも魅力。
▲1階にサミットストアを併設しているため買物は至便。「プラウド浦安」(千葉県浦安市)でも1階にサミットストアが入居しているが、サミットストアはこうした駅近くの再開発マンション1階への出店を強化しているように感じられる。
その他にも「グレーシアタワー亀有(相鉄不動産、2013年竣工、91戸)」や「パークホームズ亀有ガーデンズコート(足立区中川、三井不動産レジデンシャル、2017年竣工、191戸)」など、亀有駅周辺ではマンションの供給がさほど途切れることなく続いているが、その背景には工場跡地をはじめとしたマンション適地の供給が多いことに加え、亀有駅からJR常磐線各駅停車~東京メトロ千代田線直通電車で大手町駅へ23分といった交通利便性を有し、環七通りが接しているため自動車・バスも便利であること、そして高い買物利便性を誇ることなど、複数の要因が挙げられるだろう。
亀有のウィークポイントは、千代田線が隣の綾瀬までである点だろう。千代田線と常磐線は綾瀬を境に直通運転を行っているが、千代田線(日中5分毎)の半数弱が綾瀬止まりか、支線に逸れる北綾瀬ゆきであり、亀有に至るJR常磐線直通は半数程度(日中10分毎)となる。加えて、運賃も東京メトロ+JRの二重にかかるため、運賃も綾瀬を境に上がってしまう。電車の利便性はどうしても綾瀬の方が高い。
また、常磐線快速電車は亀有を通過してしまうため、上野・東京・品川方面は北千住、土浦・水戸方面は松戸で乗り換えが必要になるが、この点は綾瀬も同様である。
綾瀬で本数が半減することを反映してか、亀有のマンションの相場は、綾瀬に比べてややお安め。しかし、それさえ飲めれば買物利便性はアリオに加え商店街が発達する亀有の方が高い。「生活のしやすさ」が亀有の魅力であり、マンション供給が途切れないのも頷ける。
2021年の「クラッシィハウス亀有」に続き、2022年には環七通り沿いに「エクセレントシティ亀有ステーションスイート」(新日本建設・2022年11月竣工予定・41戸、亀有駅徒歩3分)、2023年には千代田線北綾瀬駅最寄り(徒歩13分)ながら亀有の名を冠した「クリオ亀有ガーデンマークス」(明和地所・2023年3月竣工予定・36戸、亀有駅徒歩16分)と、新築マンションの竣工が相次いでいる。
加えて、「葛飾区」は寅さんや両さんの知名度ゆえに高いものがあり、こち亀の作者・秋本治氏も「連載当初、亀有は知名度がなくとも、寅さんで"葛飾区"を知っていた人が多かったので、タイトルに"葛飾区"を入れた」と語っているほど(亀有は秋本氏の地元である)。いまや亀有、そしてこち亀は柴又、寅さんに並ぶ知名度を誇るまでになったし、この「誰でも知っている」街であるということは、ネームバリューという点においてプラスに作用していることは間違いない。
3.亀有のこれからと「こち亀記念館」
亀有周辺には、先ほどからちらほら登場しているように、葛飾区亀有の北西隣に足立区「中川」があり、南には葛飾区「白鳥」、さらに近隣の葛飾区四つ木、立石などを「本田(ほんでん)」地域と称するなど、亀有周辺にはこち亀の登場人物と同じ地名が多い(キャラクターは平易な『本田(ほんだ)』読み)。
かつてこち亀の作中において、亀有公園前派出所は当時実在しなかった「葛飾警察署」所轄であったが、2002年に当時の本田(ほんでん)警察署が作中と同じ「葛飾警察署」に改称されてしまい、作中の葛飾署が「新葛飾警察署」に改められるという珍事まで起きている。作中世界に現実が追い付いてしまったようで、まさに「事実は小説よりも奇なり」。亀有だけでなく、足立区中川などの知名度向上にもこち亀は一役買っているのである。
▲亀有駅北口の案内。「中川2~5丁目」とあり、広大な都立中川公園もこちら。両さん像を眺める人の姿も
ちなみに亀有の南、立石には「南葛(なんかつ)」こと都立南葛飾高校があり、これだけでピンとくる方は「キャプテン翼」ファンだろう。隣の四つ木と合わせ、一帯はキャプテン翼の舞台として知られる。柴又の寅さん、亀有の両さん、四つ木の翼くんと、立て続けに有名キャラクターを輩出する葛飾区には、漫画家や映画監督の感性を刺激する"なにか"があるのかもしれない。
柴又帝釈天題経寺の隣に「葛飾柴又寅さん記念館」があり、日ごと寅さんや故・渥美清氏を偲ぶファンが訪れているが、亀有にも「こち亀記念館(仮)」が開設されることが決まり、亀有駅とアリオを結ぶ商店街の一角へ、2024年の開館予定であるという。
▲観光客で賑わう柴又駅。駅前広場には寅さん像が立ち、故・渥美清氏を偲ぶファンの訪問が絶えない。(2019年1月撮影)
現在の亀有には、各所に点在する両さん像(駅前の像の序幕式には当時の麻生太郎首相も出席したという)と、アリオ亀有内のゲームコーナー「こち亀げ~むぱ~く」以外の観光スポットはあまりないが、「こち亀記念館」が開設されれば、寅さんにとっての柴又のような定点スポットができることで、ファンと地元の交流がますます増えるだろう。亀有の商店街や点在する両さん像を巡る「こち亀スタンプラリー」などのイベントも定着しており、地元のバックアップ体制も整っていることから、記念館の完成でこうしたイベントも活性化されるはずだ。
これが呼び水となって亀有から新たなメディア発信がなされれば、トキワ荘で有名になった豊島区椎名町のごとく、ゆくゆくは亀有が「ごく普通の街」ではない「メディアの街」へと変わってゆくかもしれない。
▲亀有駅北口。普通の街であっても、観光地に成り得る。コンテンツツーリズムの在り方の一つと言えるだろう。
普通の街だけど、そこに「両さん」という国民的漫画の主人公が現れたおかげで「みんなおいでよ 俺たちの街へ」と胸を張って言える観光地になったのが、亀有の面白いところだ。
それでも、亀有が「変わらない街並みが 妙にやさしい」(『葛飾ラプソディー』より)、気の置けない下町であり続けることは”変わらない”のだろう。
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「JR常磐線各駅停車」沿線をもっと知りたい方は・・・
金町駅――若さみなぎる下町人情タワマンストリート(東京都葛飾区/JR常磐線各駅停車・京成金町線)
「ワタクシ、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」とは、映画“男はつらいよ”の主人公、“寅さん”こと車寅次郎を演じた渥美清の名調子――とは、説明するまでもないだろう。その寅さんの故郷、柴又への玄関口となるのが金町だが、寅さんのイメージから“人情厚いコテコテの下町”を想起する方もいるかもしれない…
※特記以外の画像は2022/9/9筆者撮影。マンション図書館内の画像は当社データベース登録のものを使用しています。無断転載を禁じます。
※「こち亀記念館」および「こち亀スタンプラリー」の情報は、以下「日本経済新聞」の記事を参考にしました。
2022/2/9 日本経済新聞 東京・葛飾区、「こち亀」観光施設を24年度に開業
2022/7/15 日本経済新聞 「こち亀」スタンプラリー夏季限定で復活 東京都葛飾区
賃貸不動産経営管理士
佐伯 知彦
大学在学中より郊外を中心とする各地を訪ね歩き、地域研究に取り組む。2015年大手賃貸住宅管理会社に入社。以来、住宅業界の調査・分析に従事し、2020年東京カンテイ入社。
趣味は旅行、ご当地百貨店・スーパー・B級グルメ巡り。
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