LIFE IS BEAUTIFUL!!! 山田英幸のもの・ものがたり2018/12/5

好きなものだけに囲まれて暮らしたい。

毎日の暮らしを、わがままに、自分好みに美しく整えたい。

そのために必要なのはたっぷりのお金!!

ではありません。

ちょっとしたアイディアや工夫、少しの手間、そして何より一番大切なのはどれだけそのものを愛せるか、ということ。

 

身のまわりのものを愛する、ということは、暮らしを愛する、ということ。

それはつまり、人生を、自分を愛する、ということだと思います。

ちょっとしたことで、暮らしはもっと美しくなる。

人生も、もっと美しくなるのではないでしょうか。

 

 

昨年、雑誌「美しいキモノ」の取材を受けました。その時の撮影風景。 浦野理一の赤い格子の着物にこれも浦野の帯で。

 

自分自身、着物を着始めたのはほんの数年前で、それまでは古い日本の布などには興味はありましたが、自分で着物を着る気はあまりありませんでした。

もちろん、夏場に着る浴衣は1~2枚、それに合わせる帯は祖父のものをもらって持っていましたが、そもそも洋服がかなり好きで、着物にまで触手を伸ばしたら大変なことになる、というのが正直なところでした。

 

それが、いまでは銀座のきもの屋さんでトークショーをするまでに着物が好きになってしまいました。

そのきっかけになったのが浦野理一の着物です。

 

 

有名な経節紬の浦野工房の帯。銀座「灯屋2」の展示会にて。

 

浦野理一といえば小津安二郎の映画の着物で有名です。映画の中で原節子や岩下志麻、山本富士子などが着た浦野理一の着物は、その背景でもある鎌倉などの知的な暮らしを感じさせ、おおいに憧れるものでした。

それらの着物の多くは縞、格子、無地などの普段着や、型染などのちょっとしたよそ行き着なのですが、地味にさえ思えるそれらの着物を、シンプルな組み合わせでとてもモダンに、若々しく着こなしているのです。

 

よくSNSなどで、着物好きのかたたちが「今日の組み合わせ」などと称して写真を上げてらっしゃいますが、面白いのは多くの方が帯まわりなんですね。

着物と帯の組み合わせ、帯と帯締、帯揚げ、はたまた帯留めの組み合わせ、、、。「かわいい柄」や「季節の色」など、柄や色の妙を見せ、そのテーマなどについて書いてらっしゃいます。

だいたい顔が切れているのは「謙遜」だとして、着物好きの多くの方の興味はそこなのではないでしょうか?

 

銀座「灯屋2」所蔵の浦野工房の見本裂。無地の経節紬。

 

同じく縞のいろいろ。右側が耳なので、横縞です。
藍のバリエーション。経糸に節糸を使う紬は、とても織りにくいのだそうです。

 

着物には着物の色合わせがあり、柄合わせがあり、季節があり、ルールがある。着物好きのかたたちがお好きなのもそういうところなのでしょう。

洋服とは違う着物独自の美意識は確かにあり、それは意外にむつかしく、だからこそハマルのもよくわかります。

 

しかし、そんな組み合わせもちょっと引いて見てみると、別の言い方をすれば人の目線で見てみると、、、ちょっと細かい、というか全体のバランスが取れていないと感じることがよくあります。

 

ダメ文士のふりをする浦野の着物を着た私と、横森美奈子さん。横森さんのグリーンの帯は浦野理一。

 

別の浦野の縞の着物を着た私と横森さん。横森さんの無地感覚の組み合わせに注目。

 

小津映画の女優たちの着こなしの写真をここでお見せできれば簡単なのですが、版権の都合でそれはできません。かわりにわが尊敬するファッションデザイナー横森美奈子さんの着こなしでそれをご覧ください。

横森さんが普段から言われている、「必ず全身を見ること」。ここにその効果がよく表れています。

つまり、帯まわりだけの細かい部分ではなく、全体の色合わせ、色と柄の大きなバランス、そして質感の対比、、。

それこそが小津映画の、そして浦野理一の着物のポイントなんです。(もちろん、横森さんのポイントもそこだと思います)。

 

小津は画面の中の色彩構成にものすごく気を使ったといいます。言ってみれば着物もその色彩の一つに過ぎなかったのですが、だからこそ「遠目で見て美しい」きっぱりはっきりした組み合わせをしたのだと思います。

「柄には無地」「無地に無地もあり」「色彩の対比」、、、。映画の画面を見れば、彼の狙いがよくわかります。

そしてもう一つ、大事なのは質感。無地や縞の着物となると、普通の織りではどうしてものっぺり見えてしまうのでしょう。そこで多用したのが経節紬などの荒々しい質感だったのではないでしょうか。

 

もちろん、映画の衣装と日常の着物は違います。

ただ、浦野の着物、特に小津映画の中の着こなしを見ていると、非常にモダンで、特にその色合わせなどは「日本独自の色合わせ」とは違う、単純な、われわれが美術の授業で習ったような「西洋風」の明快さがあります。

いわゆる「対比色」だったり「ドミナントカラーとアクセントカラー」だったり。

 

「なーんだ、カンタンじゃん!!」

僕にはそれこそ「目からウロコ」でした。

小難しく考えていた着物の「組み合わせ」が一気に自分の得意な領域に入ってきたのです。

大胆でシンプルな色や柄合わせ。そして質感の対比。

色面構成のように着物を組み合わせればいい、と気づいたことが、僕の着物のハードルを一気に下げることになったのです。

 

浦野工房から「灯屋2」さんが譲り受けられた膨大な見本織をつないで着物を作ってもらいました。

 

仕上がった着物。帯も同じく見本織を寄せて作ったもの。

 

浦野理一の着物はほかにも豪華な染の着物などもあるのですが、もちろん僕にはそのような着物は着られません。

映画の中で女優たちが着ていた縞や格子、無地などの「男らしい」紬。実はそれらは女優たちが着るとそのアンバランスが非常な魅力になり、きっちりした知的な美しさが出ます。男の僕が着ると、、、意外にフツー、というかオッサンというか、、、。難しいところではあります。ですがその難しさも含め、ますます浦野のモダンにはまっていくのです。

 

 

 

山田英幸

幼い時から美しいものが好きで、長年にわたり骨董・アンティーク・古裂・ヴィンテージテキスタイルなどを収集。

また手仕事も得意で、洋服、帽子、人形、テディベアなどを制作するが、1990年頃「究極の手仕事・仕覆」に出会い、現在も制作を続けている。

西麻布「ルベイン」「銀座松屋」などで仕覆展示会開催。

自称「手芸の国の王子様」。

 

とにかく、「もの」が好き。それにちょっとした工夫や手仕事をプラスすることで、身の回りを美しく、毎日を楽しくしたいと思っている。

愛知県名古屋市生まれ。現広告代理店クリエイティブディレクター。

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