LIFE IS BEAUTIFUL!!! 山田英幸のもの・ものがたり2018/9/26

好きなものだけに囲まれて暮らしたい。

毎日の暮らしを、わがままに、自分好みに美しく整えたい。

そのために必要なのはたっぷりのお金!!

ではありません。

ちょっとしたアイディアや工夫、少しの手間、そして何より一番大切なのはどれだけそのものを愛せるか、ということ。

 

身のまわりのものを愛する、ということは、暮らしを愛する、ということ。

それはつまり、人生を、自分を愛する、ということだと思います。

ちょっとしたことで、暮らしはもっと美しくなる。

人生も、もっと美しくなるのではないでしょうか。

 

 

神田神保町の和菓子店「ささま」の「初秋」。時期により柿が色づいていくんだそうです。

 

子供の頃一緒に暮らしていた祖父は、なかなかの趣味人で、骨董なども集めていたのですが、僕はその血を引いているのだな、と気づくようになりました。

僕が子供のころはふつうの、優しいおじいちゃんでしたが、若いころはなかなか派手にやっていたらしい。といっても地方の庶民ですからたかが知れてますが。

いまでも実家には祖父が集めた掛け軸などがたくさんあります。

 

そんな祖父の逸話を、大叔母(祖父の妹)から聞いたことがあります。

戦争中、祖父たち一家は祖母の郷里に疎開していたそうです。つまり妻の実家に、ということなのですが、そこでも祖父は毎日午前中、縁側で抹茶を点てて一人で飲んでいたんだそうです。

それを見た祖母の家の人たちは「この人は出世せんなあ」と嘆息したとか。田舎とはいえ「非常時」に唯我独尊というか能天気というか・・・。

その話を聞いて僕は思わず笑ってしまいました。「よく似てる」と。

 

根来の椿皿に若い緑がよく映えます。茶碗は祖母の手びねりの志野。

 

僕が生まれ育った名古屋は「芸どころ」ともよばれ、お茶やお花、日本舞踊などおけいこ事が盛んな土地といわれていました。我が家でも母は表千家のお茶を習っていたそうですが、日常ではもっぱら「勝手流」。祖父も母も、お点前などというのもおこがましい、「盆点て」でもなくただ単に「抹茶を点てて」飲んでいました。

午前中のひと時、ちょっと休憩などという時、あるいは夜の食事の後のちょっとのんびりしたいとき、など、ヤカンから直接お湯を注いで、お茶を点てて飲む。へたしたら、台所で立ったまま点てていたかもしれません。

お菓子も適当にそのときあるもの。お菓子はお茶の前に食べる、ということも当時は知りませんでした。

 

それでもお茶の銘柄は決まっていて、名古屋の有名なお茶舗「升半」の「上別儀」という廉いお茶をいつも買っていました。

 

 

同じく「ささま」の秋のお菓子、「鶏頭」。皿は李朝刷毛目。

 

僕は趣味とはいえ、お茶と切っても切れない存在の「仕覆」などを作ったりしていますが、実はちゃんとお茶、茶道を習ったことがないのです。

それを言うと、いろんな方から驚かれ、またもったいない、とも言われます。いい先生を紹介しようか?と申し出てくださる方もいらっしゃいます。

それでも今まで習わずに来たのは、単に時間がなかったから、ということが一番大きいのですが、実は不遜なことに「お茶なんか飲めりゃいい」と思っているからなのです。

 

松笠の形のお菓子は「みさきや」。皿は古染付、茶碗は菱田賢治さんです。

 

僕の周りにもお茶をされている方は大勢いらして、そのなかには僕が尊敬する方たちもたくさんいらっしゃいます。考え方が斬新で、茶道などという伝統的なものとは程遠いアバンギャルドな方だと思っていた方も「お茶は面白い」とおっしゃり、僕にも勧めてくださるのですが、なかなか腰が上がりません。

ややこしい「お点前」を覚えるのが大儀そう、というのもありますが、流派のお稽古で使われている「お道具」が気に入らないのです。そう、やはり、好きな道具で好きなお茶を飲みたいですよね。

 

そういう意味で、道具屋さん、とくに骨董屋さんのお茶会は面白い。

名古屋で懇意にしていただいている古美術「木瓜」さんが時々開催されるお茶会はそれはそれは楽しいです。

織部や黄瀬戸など、あるいはすばらしい古染や交趾や安南など・・・。まさにさわれる美術館なんです。

骨董好きには骨董好きのお茶があるんですね。

 

「とらや」のきんとんは枯葉のような備前の皿で秋の風情に。

 

桜餅には菱型の竹製の皿。茶碗は伊羅保、朱塗りの折敷でひな祭りらしく。

 

エキゾチックな「清浄歓喜団」には根来の皿。茶碗は天目、折敷も中国風の煎茶盆にしました。

 

初夏の味、「美濃忠」の「初かつお」はすっきりと黒の折敷で。

 

そんなわけで、僕も道具好きの端くれとして、集めた小皿や茶碗、折敷やお盆を使ってお茶を楽しんでいます。

お菓子に合わせてお皿を選び、お茶碗を選び、折敷を選ぶ。

そこでやはり重要なのは「季節感」と「物語」。

小さなお盆の中に、「世界」を作ることができるからこそ、心を広く遊ばせることができるのだと思います。

 

バレンタインにもらった資生堂のチョコレート。茶碗は大きく金継された絵唐津。

 

たとえば、ちょっと早く目がさめちゃったとき。たとえば休日の前のゆっくりできる夜。

そんな時に僕はお抹茶を点てて飲みます。買ってきたばかりの生菓子があれば最高なのですが、ありあわせの干菓子でも、チョコレートでもかまいません。

取り合わせがよさそうな皿を選び、茶碗を選びます。そこまでが自分の一番楽しいところ。お茶はそれこそ台所で立ったまま点て、それをお盆にのせて窓辺だったりテレビの前だったり、ベッドの上だったり・・・に運びます。

そこではじめてゆっくりゆったりお菓子を食べ、お茶を飲む。

それが僕のお茶の時間。

ドリス・ディの名曲「TEA FOR TWO」が頭の中では流れていますが、これは僕だけの「TEA FOR ONE」。

そんなとき、戦時中田舎の縁側でのうのうとお抹茶を点て飲んでいたという、祖父を思い出すのです。

 

 

山田英幸

幼い時から美しいものが好きで、長年にわたり骨董・アンティーク・古裂・ヴィンテージテキスタイルなどを収集。

また手仕事も得意で、洋服、帽子、人形、テディベアなどを制作するが、1990年頃「究極の手仕事・仕覆」に出会い、現在も制作を続けている。

西麻布「ルベイン」「銀座松屋」などで仕覆展示会開催。

自称「手芸の国の王子様」。

 

とにかく、「もの」が好き。それにちょっとした工夫や手仕事をプラスすることで、身の回りを美しく、毎日を楽しくしたいと思っている。

愛知県名古屋市生まれ。現広告代理店クリエイティブディレクター。

 

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