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住めば都も、遷都する2017/8/29

『ライフシフト』(リンダグラットン&アンドリュースコット著・池村千秋訳 東洋経済新報社)という本が2016年に翻訳されている。寿命が100年になろうという時代、人生のあり方はどう変わるのかというテーマだ。実際、1世紀の人生となれば、働き方、家族などの人間関係、住まい方、余暇、時間の過ごし方などは大きく変わっていくだろう。

100歳、それは日数でいえば、約36500日。ひとまず、90代まで生きれば、35000日ということになる。20代の前半までは、学びの日々。そして、社会に出て、働き、家庭を持つことになる。多くの人は、60代前半でリタイアするとして、15000日ほどが、多忙な時期である。その後は、お好みで、働き続けてもいいし、ノンビリしてもいい。人生とは、3万5000日の大冒険といえそうだ。

 

さて、50代からだと、おおよそ1万5000日。どう過ごしていこうか。ひとまず、居場所の点検をしてみるのもいい。例えば、住まいの改修、改装すべきところは、ないだろうか。いや、いままでのように、仕事や家庭の事情にしばられない年頃になったのだから、いっそ、住みたいところに引っ越すのも悪くない。

 

 

高層階から、広がる街並みを見渡したいという人もいるだろう。「一望願望」と名づけておこう。恐らく、移った当初は、あちこちのビルを目印に、街の地図を描き直すことになる。やがて、眺望にも驚かなくなると、上を見上げる。高層階からの広い空。光の強さと色合いが刻々と変わっていくことに気づくだろう。それにも慣れた頃には、空中高く、誰にも邪魔されないで、家族の時間を過ごせることを楽しむようになるはずだ。この「空ナカの安心感」は、ずっと継続する、高層階の贅沢である。

 

一方、低層階に移り住む人もいる。こちらは、「薫風願望」である。窓を開けて、そよ風が吹き抜けていくのを感じたい。そうした地面感覚の暮らしに帰りたいと思うのである。近くの林から鳥の声を聞き、地面近くを飛ぶ色鮮やかな蝶のダンスを見ていると、幼い頃の自分を思い出すこともあるだろう。人の気配、生き物の動き、樹木の揺らめきのそばにいたいという願いである。「地面のソバにいる安心感」であり、低層階の安らぎである。

 

場所選びから始めてもいい。都市のまんなかで暮らしたい。いや、海風の通り抜ける街に。あるいは、山の見えるところに落ち着くか。それぞれ、願いは違っても、人生という空間のデザインをすることでは同じである。

 

1万5000日の過ごし方を考える。それは、時間をデザインすることだ。だが、いままで、外からの定めでスケジュールが決められてきた経験が長い。突然、自由にといわれても、なかなかイメージがつかめない。となれば、時間という目に見えないものを編集するよりも、自分を取り囲む空間という、カタチのあるものを変えてみるのも賢い方法である。

 

新しい空間のもとで生きるようになれば、自ずと、そこに流れる時間は変わってくる。すぐれた建築家は、その事実をよく知っている。空間の設計を通して、そこに住む人の時間のデザインをしているのである。

 

かつて、この国には、遷都という習慣があった。人心を一新して、国をシャキッと生き返らせるために都のある場所を変えたのである。都移りともいうそうだ。わたしたちの居場所も、時には、意図的に移動した方がいいのだろう。住めば都というが、時には、都移りも必要なのだ。住めば都も、時には、遷都してみる。人生の後半生が、もっと面白くなるに違いない。

 

関沢英彦  発想コンサルタント/東京経済大学名誉教授

コピーライターをへて、生活系シンクタンクの立ち上げから所長へ。著書多数。現在、ヤフーニュースなどの個人ブログも執筆中。

https://news.yahoo.co.jp/byline/sekizawahidehiko/

https://ameblo.jp/ideationconsultant/

 

 

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