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甘い生活2017/10/30

友人が、不思議な家を買った。一見、普通の中古マンションで、いわゆるデザイナーズマンションでもないから、きっと前の持ち主が変えてしまったのだろう。部屋の真ん中に、お風呂があったのだ。
いろいろな物件を見ていた頃、彼女は私たちによく、こんなのがあった、あんなのがあったと報告がてら相談をした。面白いのがあったの、お風呂が部屋の中にあって、一体どうやって生活するのかね、と彼女自身も笑っていたのを覚えている。

 

けれどもやがて家探しが佳境に入った時、彼女はなんとその不思議な家を買おうとしており、私たちは思いっきり止めに入った。それこそ、一体どうやって暮らすの? 湿気が半端じゃない! 絶対に飽きが来る! すぐに飽きちゃうに決まってる!
そう、私たちは、”普通でない家”に住む事などありえないと思っている。ハナから除外してしまうから、どうやって暮らすかと言うシュミレーションもしたことがない。なぜなら、100%飽きが来ると思っているから。

 

そもそもが、❝飽きの来ないものを選ぶ❞のは昔ながらの買い物の極意、みんな消耗品以外は「飽きが来ないかどうか?」を真っ先にチェックする。そしてそれは、ある意味正しい。

少なくとも服においては、飽きの来る服にはすぐに飽き、たちまち野暮ったく見えてくる。言うまでもなくトレンドものが、トレンドが過ぎればたちまち魅力を失うように。逆に時代を超える定番は、やっぱりいつまでも飽きが来ない上にヘビー・ローテーション、良い買い物をしたと言えるのだろう。

 

でも、家に関してこの法則はひょっとしたら当てはまらないのかもしれない。彼女の決断で、ふと気づいたのだ。そう言えば、”飽きの来ない間取り”ほどすぐ飽きてしまうこと。

いやそもそも最近の新築マンションの多くがいわゆる2 LDKか3 LDKと言うスタイルをとっていて、もちろんそれ自体は良いのだが、その作りの、まあよく似ていること。LDKのバランスも配置もなんだか決まりがあるようによく似ている。確かにその形が最も使いやすく、試行錯誤の末に行き着いた最終形なのだろう。だからそれで満足し、やっぱり飽きのこない間取りはいいねと言う人が大多数のなのかもしれない。

 

でも彼女は”お風呂が主役の家”を買って、人生とてもエキサイティングなものに変わったといった。そういえば、私自身にも確かに同じ経験があった。以前借りていたマンションが、ちょっと不思議な間取りで、実はそれがとても気にいっていたこと。家に帰るたびに何だかハッとさせられ、ちょっと嬉しかったこと。

 

家と自分はとても不思議な関係にあり、帰宅するたび、実は毎日、新鮮な気持ちで家と向き合っている。その時、まさに毎日心が動く家こそが、いい家。今まで住んだ家を思い浮かべても、そういう意味でいつも帰るたびにちょっとだけ心がときめいたのは、やっぱり少し変わった家だった。

当たり前の作りの家には、そういう風にはときめかない。それはすなわち、自分自身がその家に飽きてしまっている証拠ではないか。

 

ガウディが作った家、カサ・ミラには、今も4世帯が住んでいると言う。実業家の依頼で建設された邸宅は、建設当時は村人たちから醜悪と罵られ、その後も借り手があまりつかなかったことから、今も破格の家賃で”賃貸”されていると言う。直線部分が1つもない波打つような家は、確かに全く便利とは言えないが、なんだか死ぬまでに一度は住んでみたいと思ったもの。毎日ワクワクしながら生きられるのではないかと思うから。

 

家は、何のためのもの? 自分にとって家とは一体何なのか?

これはズバリ自分の作品であり、自分の人生と言うドラマの舞台。だから、人に見せたいものでありつつ、自分を高めてくれるもの。生きるためのエネルギーを与え、自分を鼓舞してくれるもの。つまり、そこに毎日帰っていくことで、気持ちを高揚させてくれるような場所でなければいけないのだ。

いずれにせよ、単に雨風をしのぐためのものじゃないのなら、自分が飽きてしまっては意味がない。いくら長く住んでも、ちゃんと元気をくれる家であって欲しい。

 

“飽きが来ない家”には、すぐ飽きる。家にまつわる意外な法則である。

 

斎藤薫 美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーと幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』(講談社)など著書多数。

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