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住めば都も、遷都する2017/10/18

若い頃の住まい選びは、収納が充実しているか、子供の学校は近いか、ローンの支払いは大丈夫か・・・といった現実的な見方をする。それは、自然なことである。

だが、ある年齢になり、経済的にもゆとりが生まれると、違った望みも出てくる。好みの立地、くつろげる空間、眺望といったものが気になるのである。

例えば、茶室風の空間。方丈ともいわれるように四畳半が基本だ。本格的にお茶をしてもいいし、単に一部屋を和室のしつらえにして、正座をしてみるのもいい。谷崎潤一郎は、『陰翳礼賛』というエッセイを書いている。
「うすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に耽り、または窓外の庭のけしきを眺める気持は、何とも云えない」(『陰翳礼賛』より)
さすが、すぐれた描写だが、実は、この一節は、昔のトイレを描いている。いまさら和式トイレで、「うずくまって」というのは、ごめんこうむりたい。
一方、谷崎は、京都の料理屋のことを描いて、「座敷と云うのは四畳半ぐらいの小じんまりした茶席であって」とある。こうした陰翳空間なら、この国に育った人なら、誰もが懐かしさと憧れを覚えるはずだ。
谷崎は、その座敷で、漆器の「沼のような深さと厚みをもったつや」を再発見する。狭い空間で、明るすぎないところに和食器を置くと違った魅力が見えてくるのである。

さて、こうしたウェットな空間よりも、青空の下、カリフォルニアのような大きなテラスの空間を求める人もいるだろう。あるいは、南欧あたりの石を多用した半戸外空間といってもいい。

目の前には、近くの公園の樹木が広がり、遠くには、高層ビルも望める。こんなテラスで、おしゃべりをするのは楽しい。茶室風の閉ざされた空間も、半戸外の空間も、ひとりでいても落ち着く。誰かといっしょでも、じわりと親しさが伝わってくる。

空間は、ひとのあり方に影響を与える。茶室のような部屋では、自分の気持ちを整え、ゆっくりと物事を考えるようになる。空が開けた大きなテラスでは、先行きに楽観的になり、「やるぞ」という気概も生まれる。

内省の方向か、躍動する方向か。ある年月、生きてくると、自分の思いは見えてくる。配偶者の求めるものも理解している。あるいは、いままでが、内省的だったから、もっと外へ向かって活動的になろうとか、これからは、少し内面を見つめようとか、自分の人生を変えていくのも面白い。

両タイプの部屋を持てるなら、それに越したことはない。だが、恐らく、いずれかの好みの方向を誰もが持っているのではないか。いずれにしても、都を移すように、自分の城も、遷都してみるのは、人生をより充実させる試みである。

 

関沢英彦
発想コンサルタント。東京経済大学名誉教授。コピーライターをへて、生活系シンクタンクの立ち上げから所長へ。著書多数。現在、ヤフーニュースなどの個人ブログも執筆中。https://news.yahoo.co.jp/byline/sekizawahidehiko/

http://ameblo.jp/ideationconsultant/entry-12291077468.html

 

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