暮らしのヒント2022/4/17

 僕は古美術、俗に「骨董」と呼ばれるモノが好きで、生活の一部に取り入れ暮らしているが、所謂「骨董趣味」ではない。骨董臭いモノだけが雑然と並んだ空間には興味なく、古今を織り交ぜることで、古いモノが新しく見えてくると思い、現代写真や洋の陶磁器を取り入れたり、例えばロマネスクと同時代わが国のモノとぴったり合うことに驚きまた楽しんでいる。

 

 骨董を高価だから、と言って箱から出さない人もいる。また、鑑賞陶器と言って眺めて楽しむモノもある。僕が好きな骨董は、日々の生活でいじくり回すモノだ。なかでも焼きもの、とくに酒器との付き合いは濃密で、これについては本連載でも少し触れたことがある。

 

 

 今月写真に取り上げた土偶は所謂発掘品で、多くの茶器や酒器のような伝世品とは対極にあり、また前述したいじくり回すモノではない。僕は、写真のような愛らしい姿を部屋の片隅に立てて楽しめるよう、裏面を棒状のもので貼り付けた。顔の表情がみみずくに似ていることから、みみずく土偶と呼ばれ、縄文時代後期後葉から晩期前葉にかけ関東地方から多く出土している。

 

 みみずくのネーミングに僕は違和感あるが、よくぞこの愛らしい顔部が残ってくれたと思う。細部に目を凝らすと目や口を円形状に貼り付けて表現し、耳にはピアスを付けるためか?穴が開けられ、頭頂の髪を結っているようにも見える。縄文時代人々はすでに、髪飾に耳飾、首飾や胸飾など様々な装飾具を身に付けていたことは多くの発掘品が示している。

 

 

 もう一つ同じく人型の土偶だが、目と口を点だけで表現したシンプルな造形である。僕はこのあどけない表情に惹かれ古裂に貼り付け額に仕立て、壁に飾れるようにした。誰でも知る銀座の某文房具店に持ち込んで、責任者と話し合いながらの仕事だが、あどけない姿が現代打ちっ放しの壁にもよくマッチしていると自画自賛だ。

 

 僕は学生時代考古学の現場に通っていたこともあり、発掘品など古いモノへの関心は尽きないが、考古と美術は一般に分けて考えられてきたと思う。発掘品は「美」というより資料として扱われ、昨今少しづつ、例えば東京国立博物館の考古展示室など変わってきたとは言え、まだまだ発展途上であろう。多くの発掘遺物は雑然と平面に並べられ、あるモノは時代や名称などキャプションの方が大きいものも多々ある。

 

 確かに縄文土器を土台とする時代編年を提示し、細部にこだわることも大切だとは思う。が、学問は今生きている我々の生活に生かされたものでなくてはならないと強く思う。土偶を作ったのは、一万年以上途方もない長い間、厳しい自然と向き合いながら狩猟採集し、無駄のない地産地消の生活を営んだ我々の祖先なのだ。その「美」を受け継ぎ、祖先の生きる知恵や精巧な職人技を探るため、その名残りを暮らしの中に飾り日々眺める意義は小さくないと思っているし「これ何ですか?」と来客との会話のキッカケになればなお嬉しい。

 

 

 

白洲信哉(しらすしんや) 文筆家/アートプロデューサー

1965年東京都生まれ。細川護煕元首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方、広く日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザイン、展覧会などの文化イベントの制作に携わる。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な編著書に『骨董あそび』(文藝春秋)、『白洲次郎の青春』(幻冬社)『天才青山二郎の眼』『小林秀雄 美と出会う旅』(新潮社)『白洲家としきたり』(小学館)『かたじけなさに涙こぼるる』(世界文化社)『旅する舌ごころ』(誠文堂新光社)他多数。最新刊に『美を見極める力』(光文社新書)。

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