暮らしのヒント2021/8/9

古今東西、和洋折衷を意識しつつ、現代の快適な暮らしの中に、時を経た程よいアクセントが必要だと常々僕は思っている。古民家は魅力的だがあのまま断熱材等ない底冷えがする家屋は住むに苦労が絶えないが、一方冷暖房完璧の現代建築は便利だが味気なく、やはり適度の風通しや長年住んだ経年変化から、素材に深みが帯びて、住む人の愛着から存在感が大きくなっていくという事のもまた大切な要素だと思う。

 

 

 

生活スタイルの変化とコロナが重なって、海辺の築年の古いマンションに居ることが多くなり、馴染みの古美術店で見かけた懐かしい電笠を一つ購入、ダイニングに付けてみた。電笠には手吹き・プレスガラス、切子ガラス、色ガラスなど様々な種類があり、明治から昭和30年代にかけて、手作業ならではの柔らかさと歪み、どこか懐かしい色合が、現代写真作家の淡く風情ある山桜といい感じになった。

 

 

 

弥生時代に渡来したわが国のガラス制作は、江戸時代に本格化。輸入のガラスに魅了され、日本独特の例えば江戸や薩摩の見事な切子や、柔らかな直線をみせる吹きガラス、いわゆるびいどろ、ぎやまんと呼ばれる「和ガラス」が誕生する。だが、それらの逸品は、薄く割れ易く、本格的な実用品は明治維新。近代的なガラス製法が英国から伝わり、それに学んだ日本製のガラス製品は輸出産業へと発展していく。

が、同時に、日本古来の生活器具は衰退していった。照明でとくに打撃を受けたのは行灯である。室町時代に始まり江戸期を飾った照明器具は、明治維新相当数あったが、生活スタイルのいわゆる畳から椅子への目線の変化は、畳に置く行灯とともに衰退が始まった。永井荷風が「明治は破壊だ」と慨嘆したが、灯りの質は蝋燭から石油ランプ、ガス灯、そして電笠などを経て蛍光灯やLEDに、その間戦乱や地震など多くのランプも失われてしまった。

 

 

だが、今回電笠を紹介するにあたり、僕はもはや死語かなと思って検索したら、ヤフオクやメルカリなどのサイトもあり、未だ地方の古家にひっそり残っていた近代の遺物が掘出されているようだ。さきのように明治維新の急激な近代化、西欧化により、生活スタイルが激変したように、コロナ禍もまた変化に順応してきた人類にとっていい転機になるかもしれない。

 

 

 

昨年は東京の転出が転入を上回り、田舎暮らしや2拠点生活を志向している人々も増えているという。コロナ禍で生活の質と言ったものの見直しの端緒に、こうした日本らしい美しさと、一点一点異なる風情が感じられる電笠を、照明の名脇役にしてはどうかと思う。昨今流行のSDGs「持続可能な開発目標」の究極は、開発などせず古いものを消費せず生かすことだと思う。今回は照明の配線を現代のソケットに合わせることで、当分は何処へでも付け替え出来る持続可能な照明器具になった。次のステップは灯りの質を、LEDからフィラメントを楽しめる白熱電球を探し、付け替えたいと思っている。

 

 

白洲信哉(しらすしんや) 文筆家/アートプロデューサー

1965年東京都生まれ。細川護煕元首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方、広く日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザイン、展覧会などの文化イベントの制作に携わる。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な編著書に『骨董あそび』(文藝春秋)、『白洲次郎の青春』(幻冬社)『天才青山二郎の眼』『小林秀雄 美と出会う旅』(新潮社)『白洲家としきたり』(小学館)『かたじけなさに涙こぼるる』(世界文化社)『旅する舌ごころ』(誠文堂新光社)他多数。最新刊に『美を見極める力』(光文社新書)。

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