LIFE IS BEAUTIFUL!!! 山田英幸のもの・ものがたり2021/5/2

好きなものだけに囲まれて暮らしたい。

毎日の暮らしを、わがままに、自分好みに美しく整えたい。

そのために必要なのはたっぷりのお金!!

ではありません。

ちょっとしたアイディアや工夫、少しの手間、そして何より一番大切なのはどれだけそのものを愛せるか、ということ。

 

身のまわりのものを愛する、ということは、暮らしを愛する、ということ。

それはつまり、人生を、自分を愛する、ということだと思います。

ちょっとしたことで、暮らしはもっと美しくなる。

人生も、もっと美しくなるのではないでしょうか。

 

 

1968年創刊の雑誌「季刊銀花」。当時、保管用にこんな秩も販売されていました。

 

かつて会社の同僚に「ゾノ」と呼ばれる男がいました。

帰国子女だった彼は、きれいで格調高いイギリス英語を話すことから、当時僕も担当していた某ラグジュアリーブランドのチームで重宝されていました。

彼は自他ともに認める読書好き、本の虫で、いつも分厚い英語の本を抱えており、いつか自分の好きなジャンルの本ばかりを集めた本屋を開くのが夢、と言っていました。

それを聞いたとき、僕は当時はやっていた映画「ノッティングヒルの恋人」の中でヒュー・グラントが経営していた旅行書専門の書店を思い出したのですが、ゾノの外観はヒュー・グラントとは似ても似つかぬ坊主頭、好きなジャンルの本は「軍事関係」。それでも、彼の銀縁メガネの中の眼は軍事オタクには似つかわしくない優しい眼で、そのギャップが面白かった記憶があります。

 

ある時、ずっと探していたある本のことをゾノに話すと、ゾノは「Amazonで探してみれば?」というのです。

そのころ(1995年ごろ)、まだAmazonはまったくポピュラーではなく、それもそのはず、そのころはまだ全米の古書店のネットワークサイトに過ぎなかったのです。

全米のたくさんの古書店が、自分の店に持っている本の情報をたぶん手で入力し、それらのデータの蓄積がひとつのデータベースになっていました。

もちろん今に比べれば小さなデータベースだったと思いますが、それでもビックリするくらいの情報があり、そこで僕は念願の一冊を見つけることができたのです。

 

その本、「The Art and Technique of Color Photography」は、僕の尊敬するアートディレクターの田中一光氏がどこかで「一番影響を受けた一冊」と話してらしたもの。

アーヴィング・ペンやホルスト、セシル・ビートンなど「VOGUE」などコンデ・ナスト社の雑誌で活躍していたカメラマンの「カラー写真」の写真集でした。

それは想像以上に素晴らしい写真集で、それが名も知らぬアメリカの町から届いたときには本当に感激し、すごい時代になったものだと感動したものです。

https://andthings.exblog.jp/14595731/

 

送料を入れても日本で買うより安いし、もちろん日本でなかなか見つけられないものも書名さえ分かっていれば簡単に探せる。

そんなわけで、仕事の資料や趣味の本など、次々とAmazonで買うようになりました。
本の買い方が大きく変わった、その瞬間でした。

 

その後Amazonは急成長し、いまや世界中で「ものを探し、調べ、買う」のにはなくてはならない、まったく新しい「方法」になったのはご存じのとおりです。

 

「幸田格子」と呼ばれる紬の帯と、同じ布で装丁された全集の一冊。

 

さて、話は変わりますが、最近着物に興味が出てきて、色々調べたり自分でも買ったりしているのですが、なかでも浦野理一という着物作家のものが大好きです。

ある時、ネットオークションで浦野理一のものという紬で格子柄の帯を買いました。それをインスタに上げたところある方から「幸田格子では?」とのご示唆をいただき、たまたま一冊持っていた幸田文全集と比べてみたら、その表紙の布とまるで一緒なので驚きました。

調べてみると、浦野理一の着物の愛用者であった幸田文が、自らの全集の装丁に使う布を浦野理一に特注し、そのことからこの格子柄を「幸田格子」と呼ぶようになったとか。

さらにすごいのは全集の刊行当時(1958年)、この幸田格子の着尺が100反、読者に抽選でプレゼントされたというのです。

この帯はそんな中の1反を使って仕立てられたものに違いありません。

 

そんな来歴を調べていたら、がぜんその幸田文全集の全巻が欲しくなり、(去年のことですので)ネットで調べました。

まずやはりAmazon、そして「日本の古書店」というサイトを調べたところ、全国に何軒か、この全集を持っている古書店が見つかりました。

その中で神田神保町の一誠堂という書店に、実際に見に行ってみることにしました。

 

 

久しぶりに訪れた一誠堂書店。アールデコの外観が美しい。

 

一誠堂で購入した幸田文全集全9巻。思ったより安く買えました。

 

そこで購入した幸田文全集全9巻は、安い値段の割には保存状態も良く、まだパラフィン紙のカバーもかかっているような状態でしたので迷わず購入。大事な「浦野理一コレクション」のひとつになりました。

あ、もちろん読んでますよ、少しずつですが。

 

神保町といえば和菓子の老舗「ささま」。古書店の帰りに和菓子を買って帰るのも楽しみのひとつです。

 

最近ではkindleなどの電子書籍もポピュラーになり、「もの」としての本の形を成していなくても本を読むことが可能になってきました。

図書館で本を借りるのに近い、というか、本を所有せずとも読むことができる。限りある自分の本棚のスペースを無駄に減らすこともないし、実際本を買うより安上がりでもある。

本を「読む」ことが好きな人にはいいシステムだと思います。

 

しかし、やはり「所有したい」本もあります。

内容が好きでいつでも身近に置いておきたい本なら、本の状態のものを買ってもいいでしょう。僕などは先の幸田文全集のように、凝った装丁のものなどはやはり買って持っておきたくなります。

表紙の手触りや、本紙の質感、本としての重さやはたまた匂いなど。

逆に内容を情報として読むだけなら電子書籍で十分だともいえます。

 

そういう目で見ると、昔は所有欲をも刺激するような凝ったつくりのものがいろいろあったように思います。

 

浦野理一のことをいろいろ調べているうちに、彼は雑誌「ミセス」に毎号連載を持っていたことはよく知っていましたが、それ以外にも同じ文化出版局の雑誌「季刊銀花」(1968年創刊、1970年より季刊)にもたびたび寄稿していることがわかりました。

そこでまた古書サイトで探してバックナンバーを集めたのですが、面白いことに銀花編集部では雑誌専用の「秩(ちつ)」まで頒布していたのです。

 

 

「銀花」専用の秩。 一年分4冊がちょうど入るサイズで、味のある縞などの布が張られています。

 

雑誌「季刊銀花」は日本の工芸や文化などを扱う比較的高尚な雑誌で、読者もそれなりの余裕のある趣味人が多かったとは思いますが、とはいえ雑誌です。

それに対してこのような秩まで販売していた。

決して消費される「情報」ではなく、長く愛蔵されるべき「所有物」「愛玩物」としての雑誌である、ということをこの秩が物語っているようで、もの好きとしては非常に感動を覚えました。

編集者たちの、自分たちが作っているものに対する誇りのようなものをそこに感じたのです。

 

いつまでも手元に置いておきたいような本や雑誌。

雑誌がどんどん廃刊になってしまう今日この頃ですが、雑誌や本に求められる役割が変わってきたのでしょうね。そんな本や雑誌が最近ではあまりないのが残念と言えば残念です。

 

そういえばゾノはその後会社を辞めてしまったのですが、今どうしているかなあ。書店を開く夢には近づいているのでしょうか?

 

 

 

山田英幸

幼い時から美しいものが好きで、長年にわたり骨董・アンティーク・古裂・ヴィンテージテキスタイルなどを収集。

また手仕事も得意で、洋服、帽子、人形、テディベアなどを制作するが、1990年頃「究極の手仕事・仕覆」に出会い、現在も制作を続けている。

西麻布「ルベイン」「銀座松屋」などで仕覆展示会開催。

自称「手芸の国の王子様」。

 

とにかく、「もの」が好き。それにちょっとした工夫や手仕事をプラスすることで、身の回りを美しく、毎日を楽しくしたいと思っている。

愛知県名古屋市生まれ。現広告代理店クリエイティブディレクター。

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