バビロン再訪~バブル時代のマンション物語~2021/4/5

買い食い。懐かしく甘美な響き。

 

「買い食いとは、食べ物を買って食べることであり、ごく当たり前の行為であるが、あえて『買い食い』という言葉を使う場合は、『子どもが自分で食べ物を買って食べること』を意味する」とWebサイト「笑える日本語辞典」には記されている。

 

同サイトは、その背景も解説してくれる。

 

曰く、「子どもは親が作った料理や給食、あるいは親が買い与えた食べ物を食べるべきだという教育的観点から、『買い食い』は好ましくない行為とされており、特に小学生などが学校からの帰り道、駄菓子屋やジャンクフードの店に立ち寄って買い食いすることはやめるように指導されている」と。

 

買って食べるという、当たり前の行為が、買い食いという特別な行為になるのは、それが禁止されているという状況が前提なのだ。

 

したがって、そうした禁忌とは縁遠くなったおとなたち、つまり、そうした禁忌を秘かに破ることへのうしろめたい愉しみとは、もはや無縁になってしまったR50の方々にとって、買い食いという言葉は、ひたすら懐かしく甘美な響きを帯びることになる。

 

さらには「親が作った料理」を食べるべきだ、などと口が裂けても公言できなくなった昨今にあっては、その懐かしさと甘美さは、ますます増幅されるばかりだ。

 

買い食いは、コロナ禍で当たり前になったテイクアウトやフードデリバリーとは、微妙に異なる。買い食いは、あくまでアノニマスなもの、よく見かけるもの、手軽に買えるものを買って食べるというのが基本だ。シェフが作った、豪華で、特別なものを買って食べても、それは買い食いではない。

 

禁忌とそれを破る背徳という買い食いの本質とはすっかり無縁になったおとなの場合も、買い食いの形式ぐらいはまねできる。

 

きっかけは、上野の物件を見に行った帰りに上野駅構内でたまたま遭遇した《ぺリカン》の店頭販売だった。

 

《ペリカン》に、調理パン、おかずパン、総菜パンがあれば、ここで買って食えば、昔懐かし買い食いの気分だ、《ペリカン》の食パンを使ったコロッケサンドなどがあれば、まさに夢の買い食いだ、などと思った。

 

もちろん、《ペリカン》には、調理パンの類はない。そこで、買って帰って、勝手に作って、買い食い気分を味わうことにした。

 

近所の客や学生相手のまちのパン屋のショーケースの片隅には、コロッケサンドやコロッケパンが決まって置いてあった。コロッケサンドは、食パンとポテトコロッケという炭水化物どうしの組み合わせが、手っ取り早く空腹を満足させるという、昭和の空気を漂わせている買い食いにぴったりだ。

 

《ペリカン》は台東区田原町にある創業昭和17年のパン屋。作っているのは食パンとロールパンの2種類という潔いスタイルを守って、はや70有余年という老舗だ。

 

日常的に足を運ぶのには浅草はやや遠いことと、予約をしないとなかなか買えないというところが、悩ましい《ペリカン》だが、上野駅構内での偶然の遭遇をこれ幸いに、JR東日本がやっている「のもの」というショップの店頭販売で早速、食パン1.5斤・650円(★1)を買って帰った。

 

 

手で持ってみるとその持ち重りのするずっしりとした感触に驚く。生地は柔らかいが、手ではなかなかちぎれないほどの伸びと弾力を持っている。

 

まずは、おもむろに厚さ2センチほどの厚切りにしてガスコンロに乗せた焼き網で焼く。パンをのせる前に強火で焼き網を十分に熱し、その後中火に落し、パンを乗せ、途中こまめに上下左右など位置を変えながら、表面が均一のカリッとした薄い層に焼き上がるようにトーストする。

 

 

 

はじめはなにもつけずにそのまま。焼けて薄い層になった表面がカシュと音をたてて崩れる。その香ばしさとともに熱々となった中身のふんわりとした感触と小麦香が後追いする。柔らかいながらしっかりした生地の食べ応えにも圧倒される。

 

熱く、香ばしく、優しい。ロールパンでもない、クロワッサンでもない、バゲットでもない、焼きたての食パンのトーストならではの幸福感だ。

 

続いて表面にたっぷりとバターを塗って。小麦が焼けた香ばしさとバターの甘く薫る匂い、表面のクリスピーさと溶けたバターのトロンとした舌ざわり、絶妙なコントラストだ。

 

 

「R50的買い食いのすすめ ~コロッケサンド後編 ~」に続く

 

 

(★1)《ペリカン》の食パンには紺の包装の、やや小ぶりの1斤・430円という商品がもう一種類あり、そちらの方がよりもっちりとした食感だ。

 

 

 

大村哲弥 一級建築士/ブロガー

有限会社プロジェ代表:1984年、セゾングループのディベロッパー株式会社西洋環境開発に入社。住宅・マンション事業のマーケティング・商品企画・事業企画に従事する。バブル前夜からバブル崩壊とその後のカルチャーシーンのなかで20歳代、30歳代を過ごし、不動産ビジネスに携わる。1996年、有限会社プロジェ設立。建築・住宅分野のコンサルティング・商品企画・デザイン・執筆などを手がける。東京工業大学大学院修了。一級建築士。

ブロガー:本・映画・音楽・アート・デザイン・ファッション・都市・建築・食・料理・旅・暮らし・まち歩きなどのカルチャーフィールドを横断的に渉猟・論考するブログを主宰。

 

 

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