暮らしのヒント2020/12/17

コロナ以前から都会では、シェアエコノミーということで、環境に配慮し自転車や自家用車のシェアーが始まり、コロナ禍でオフィスも共有することが進んでいると言う。社会生活の基盤である人間関係が、濃厚また淡白のどちらに偏っても具合悪く思うが、大皿料理を敬遠し小皿にとか、ビールを注ぐ行為を避けるため瓶ビールをやめるとか、僕にはどうでもいいと思うことでも、人それぞれの感受性は違うので、しばらくは独り静かに酌む酒の、を通すのが良さそうである。

 

古備前徳利(桃山時代)H13.5㎝

 

コロナ禍に於いて、僕の生活にあまり変化ないのは、日常からものを言わぬモノとの付き合いが、濃密だったからであろう。独酌に欠かせない酒器は、呑めば呑むほどに相手が呼応し、徳利はねっとりと掌に馴染んできて、盃は盃の違いによる味の変化を楽しみ、徳利や盃の景色を眼で愛でるのである。自分色に染める努力は尽きないが、うまくいくモノもあれば、断念し新たなモノの下取りに手放なしたりと出入り激しく、つまりは買って所有することでしか感じ得ない世界観だと思う。

 

斑唐津盃(桃山時代)H5.7  W7㎝

 

ここに掲載した酒器は、母方の祖父が晩酌で長年使っていたものだ。僕は、元旦や命日等折々にひっぱりだし献杯しているが、決まって卓袱台に座って独酌する祖父の姿を思い出す。もの言わぬモノに魂が宿っていると思うのはまさにそうした瞬間で、やはり単なるモノではないと感じている。元々日本の焼きものはひと臭いものだ。名物の茶碗、例えば高麗茶碗に代表される利休が選んだ輸入品は、数多く渡来しているが、生まれが同じ飯茶碗でも、重文になったモノもあれば、まったく評価されないモノもある。似たようなモノの価値に大きく左右するのは、誰それが所有していたかであり、利休の発見したものを僕らは愛情を持って接すれば、その人が見えてくるはずである。

 

 

 

同じ様な経験を車でもしたことがある。1924年製ベントレー、父方の祖父が英国留学中に所有していたものだ。ベントレー初期10年ほどに生産されたヴィンテージは特別視されており、約3000台生産されたうち今でも1000台が現役であり、一台一台所有者の来歴は、ベントレーの倶楽部がすべて把握しているという。僕は来日した現所有者の好意で、ラ・フェスタなどの愛好家レースに参加し、祖父がトヨタ自動車ソアラの開発者に、「ハンドルのDiameterが足らん。細さはよほどよくはなりましたが、もう少し補足しても良いと思います」と指示したのは、このベントレーの大きな口径と細見のハンドルからかなと思ったりしたのである。

 

 

シェアーは必要だと僕も思う。リモートも然りだが、細部の微妙なことは、対面によって調整されてこそであり、人生の友になるようなモノは所有し自分流の肌感覚に仕上げていきたいと思う。僕が所有しているから魅力あり値打ちある、と言われるようなモノを一つでも多く発見していきたい。

 

https://www.wakuimuseum.com/

 

1924年ベントレー3リッター・スピードモデル。現所有者の涌井清春(左)氏と共に。

 

 

 

白洲信哉(しらすしんや) 文筆家/アートプロデューサー

1965年東京都生まれ。細川護煕元首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方、広く日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザイン、展覧会などの文化イベントの制作に携わる。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な編著書に『骨董あそび』(文藝春秋)、『白洲次郎の青春』(幻冬社)『天才青山二郎の眼』『小林秀雄 美と出会う旅』(新潮社)『白洲家としきたり』(小学館)『かたじけなさに涙こぼるる』(世界文化社)『旅する舌ごころ』(誠文堂新光社)他多数。最新刊に『美を見極める力』(光文社新書)。

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