甘い生活2020/4/23

こんなに長い時間、家に居続けた記憶がない、そういう人が多いのだろう。だから年末以上に大掛かりな掃除をしたと言う人も少なくないはず。ひょっとすると、初めて断捨離に取りかかったという人も。

 

でも、換気扇の油を拭きながらも、もう着ない服を選びながらも、とても不思議な気持ちになったのではないだろうか? いつもの大掃除やモノの整理の時とは、明らかに気持ちが違う。自分はなぜ今こうして家を片付けているのだろう。なぜだろう。そうやって自問自答する瞬間があるはずなのだ。

 

いつもは、溜まりに溜まった要らないものを、自分を追い立てるように必死で捨てるのみだから、ある意味無心なのに、今回ばかりは複雑な気持ちになる。ある種の終末思想が頭をよぎったりして。

 

それも、おそらく私たちの世代では生まれて初めての非常事態。もちろん日本人は様々な天災に見舞われてきたけれど、そういうものへの覚悟はどこかでできていた。でも今自分たちが経験しているのは、全く未知の出来事。世界中の人が同じ不安と恐怖を感じている、こういうことって、やはり初めて。
それ以上に、当たり前のことが当たり前でなくなるという、想像もしなかった日常を強いられ、 しかもそれがいつ終わるか分からない。今回は収束しても、繰り返されるとも言われ、これからはもっと頻繁に起きるのではないかと言われてる。

 

今まで考えていた以上に、世の中が変わってしまうのかもしれない、そういう思いの中でのモノの整理は、本気でこれからの生き方を自分自身に問い掛けてくるはずなのだ。
もちろんそう簡単に生き方を考え直すことなどできない。できないけれど、でも今の時点でできることとは何なのか、今のうちにしておくべきことが何なのか、少し冷静になって頭の整理をしてみた。

 

まず、一つ。家族が陽性になり、その後にご自身も陽性となってしまったフリーアナの赤江珠緒さんが、とても重要な提言をした。
いつ家中の消毒が必要になるか分からないから、ともかく家の中を整理しておくべきだと。家の中が片付いていないと大変な作業になるからと。

 

考えてもいなかったことだが、なるほど全くその通り。だから今、自分は家の中を片付け、なるべく物を出さず、なるべくシンプルにしておくのだと。家の中を整理している自分の行動が、ようやく腑に落ちる、そういう人もいるのだろう。

 

そして、リモートワークでどうしても写ってしまう部屋の中、壁の一部だけでも、その暮らしぶりが何となくイメージできてしまうのはお互い様だが、とは言えはやはり、もうちょっと上質な暮らしをイメージさせなければと、そう思ったかもしれない。
背景を変えるアプリもあるけれど、自分がまるでオシャレができない今は、せめて部屋の壁をオシャレさせるような気持ちで、リトグラフでも貼ってみようか考えてみる。
でもそこで気づくのは、そんなごまかしではなく、根本的に家というものを考え直そうと、そこに気づいた人も少なくないはずなのだ。

 

1日中家にいる。だから、家との関係をとても濃厚に感じる。そして家族がいれば、家族との関係も濃密になる。良くも悪くも、気持ちまで濃厚接触となって、たとえ20年連れ添った夫婦でも、見えなかった部分が見えてきたりする。何しろ誰にとっても全く初めての経験なのだから。

 

でもその時に重要なのは、ひょっとすると家が美しいことではないかと思ってみた。
もちろんお互い“思いやり”を持つなどは当然のことなのだけれど、それが簡単にはできないからこそ、こう思うのだ。

よく学校などでも、ガラスが割れていたり落書きがあったり、そういうことが生徒たちの心を乱し、非行が目立つようになるが、校内を美しくすると、不思議に生徒たちの気持ちが落ち着いて、平和な日々が戻ってくると言われる。

 

家も同じ、家の中が美しいと自分の心も家族の気持ちも浄化され、心静かに相手と向き合えるようになる。お互いを思いやるゆとりも生まれる。そう、だからこそ、今のうちに家を美しく整え直すのだと。そういう納得ができるだけで、少しモヤモヤが晴れるのではないだろうか。

 

そういう意識でもう一度家で向き合ってみて欲しい。自分がなぜいま家を片付けるのか。片付けなければいけないのか、それを心で唱えながら。

 

 

齋藤薫 美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーと幅広く活躍。新刊『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『されど“男”は愛おしい』(講談社)など著書多数。

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