甘い生活2019/8/11

「カーテンをつけなくてもいい部屋に住みたい」………そう言い張る人がいた。何となくわかる気がした。

 

新しい家に引っ越すと、まずしなければいけないのはカーテンをつけること。しかし、カーテンをつけた途端に、私こんな部屋を借りたのだっけ?と、奇妙な違和感に襲われるほど、家の印象が変わってしまうことは多々。部屋はカーテン次第なのだと思い知る瞬間だ。

 

ましてやカーテンは、年中変えられるものでもなく、ある意味“失敗”は許されない。しかも、カーテン選びにおいて小さな柄見本などを見ても正確なイメージは掴めず、実際かけてみてないと成功か失敗かがわからない。インテリアにおいて、相当に厄介なアイテムなのである。

 

かつてこんな噂が周囲を騒がせたことがある。ライフコーディネーターであった妻と別れて、どこかの社長令嬢と再婚した男性がいた。前妻が住んでいた同じ家に住むことになった2番目の妻は、前妻の匂いを消すように、まず家中のカーテンを変えたのだという。趣味の良かった前妻は、シンプルであまり存在感のないカーテンやナチュラルなブラインドをかけていたが、2番目の妻はフリっフリのカーテンやら、大きな花柄のカーテンなどを、これでもかとたっぷりかけて、その結果、家中が砂糖菓子のように甘ったるい印象に変わっていたという。瞬間、その男性は2度目の結婚を、たちまち後悔したとか、しなかったとか……。

 

はっきり言って、カーテンによって家の空気が全く変わってしまうこと、そこに住まう人の“人となり”が、選んだカーテンにそっくり現れること、このエピソードを持ち出さなくても明らかだ。引っ越しを何度か繰り返した人ならわかるはず。だんだんカーテンに対して臆病になってくる。だからこの「カーテンをつけなくてもいい家に住みたい」と言うのは見事に「一理あり」とそう思ったのだ。

 

まず、カーテンのいらない部屋は、外から覗かれない。ハリウッド映画によく出てくる“都会の超高層タワーマンションの最上階とおぼしきガラス張りの大リビング”は、もともとカーテンなどいらないわけで、そういう意味での贅沢を、それは指しているのかもしれない。いや、何も遮るものがなく、そのまま海に降りていけるような家だって、カーテンはいらない。差し込む日差しはテラスのオーニングが遮ってくれるような。

 

そうそう、森の中の一軒家、2階ならばもうカーテンはいらない。もっと言えば、広い庭の中にぽつんと立った家だって、カーテンなど全然いらないわけだ。そういうことをひっくるめてカーテンが入らない家、本当に贅沢である。

 

ふと、『裏窓』と言う映画を思い出した。言うまでもなく、ヒッチコック映画の傑作で、グレース・ケリーの初々しい美しさが話題をさらったが、要は“向かいの建物での中で起きている事件”を主人公が目撃することに始まるサスペンス。

 

実は同じ設定を題材にした映画は、他にも結構あったりする。向かいの建物の中に他人の姿が認められれば、どんな理性ある人間でも、その生活を覗いてみたいという衝動に駆られる訳で、この心理がみな大前提となっている。それを誰もがわかっているから、カーテンのない部屋に生活すると、まるで裸でいるような不安に駆られるのだ。よほど環境の整った部屋でなければ、カーテンなしの生活では決して寛げない。それだけはみんな知っている。

 

しかし、こんな家を見かけた。葉山の海を望む別荘と思われる一軒家に、全く新しい住まい方を見つけてしまったのだ。オーシャンビューながら、目の前は国道。通行人から中が見えるが、二階は全面ガラス張り、天井の高い非常に優雅な部屋の様子がうかがえる。

 

ちょっと衝撃だったのは、道路から見える壁が天井までの本棚になっていて本が並んでいるのだが、ただ本がぎっしりと言うよりは、インテリア雑誌のように無造作を装いながらも計算された収納になっている。その本棚の前には洒落たリクライニングチェアが2つ置いてある。いかにもそこは読書スペース、海を望める読書コーナーになっていることを物語った。何と言うオシャレな家だろう。

 

しかもそこに10歳に満たない少年が、大きなチェアにのびのびと横たわって本を読んでいるのを見てしまった。これは完全に見せている! 見えてしまうのではなく見せているのだと感じた。うちはこんなに洗練された住まい方をしているのだと、これ見よがしに見せている。実際、民家が放つインパクトとしては圧倒的。一体どういう人が住んでいるのか、一度見てみたいと言うほど無性に興味をそそる、という意味では大成功なのかもしれない。なるほど、カーテンのない家に住むって、究極なのかもしれないと思ったもの。

 

その子供が、通行人の目を意識していたかどうかまではわからない。しかし親がそこで子供に読書をさせたのは間違いなく、そんなふうに自分の生活をデザインする極めて意識の高い人々が増えているのは確かなのだ。

 

羨ましいような面倒くさいような、しかしこれは、やはり究極の住まい方。カーテンのない家に住むって、1つの到達点なのである。

 

 

 

 

齋藤薫 美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーと幅広く活躍。新刊『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『されど“男”は愛おしい』(講談社)など著書多数。

甘い生活 についての記事

もっと見る