バビロン再訪~バブル時代のマンション物語~2019/5/27

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(アダム・マッケイ監督 2015年)は、リーマンショックの際、「逆張り」で、つまり市場の暴落に賭けて大金をつかんだ投資家たちの群像劇。投資銀行の内部からバブル崩壊を描いた『マージン・コール』とは逆の視点から、100年に一度といわれた金融危機のその時を描く。こちらも芸達者な俳優たちが金融界のアウトサイダーを演じる見応えある作品。

 

人づきあいが苦手な元医者の変わり者ヘッジファンドオーナー(クリスチャン・ベール)、嗅覚抜群で立ち回りが上手いドイツ銀行の行員(ライアン・ゴズリング)、金融界への不信にイライラが募る仕切り屋のヘッジファンド経営者(スティーブ・カレル)、ガレージ投資家と揶揄されているチャラい若造個人投資家2人の4組が、クリスチャン・ベールがいち早く気がついたサブプライムローンの破綻の可能性をネタに、壮大な「空売り」を仕掛ける。実際はクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という債務先が破綻した場合に「保険金」が受け取れる商品を購入することで市場の暴落で儲けようとする。

 

タイトルにある「ショート」とは将来の値下がりを見込んで金融商品を先売りすることの業界用語。ちなみに原題はThe Big Short(大いなる空売り)というもの。

 

 

リーマンショックの元凶といわれたサブプライムローンなどをめぐる実態が具体的に描かれ、そのとんでもない実態に唖然とさせられる。

 

無収入(No Income)、無職(No Job)、無資産(no Assets)の頭文字をとってNINJYAニンジャローンと称される、ほとんど無審査の超いい加減なローン、ストリッパーが複数の担保ローンをつけて何か所もの家を所有している驚きの現実、リスクによらずAAAの格付けが常態化している、銀行とグルになったS&Pなどの大手格付け会社、低い格付け債権を集めて新たな高格付け債権を生成するほとんどハッタリの金融手法(CDO)、賭け(破綻リスク)の結果に賭け、さらにその賭けの結果にまた賭け、さらに・・・というように、胴元が知らぬ間に倍々ゲームで債務が膨らんでいく手品のようなデリバティブ商品(合成CDO)etc.

 

日本語サブタイトルからは、痛快なピカレスクものを連想させ、コメディタッチを交えてテンポ良く展開する語り口はまさに痛快そのものだが、その後味は決して甘くはない。

 

信用とコネのない若造投資家2人が組んだのが、業界に倦んで早々とリタイアして今はオーガニック野菜を育てている元投資銀行マン(ブラッド・ピット)。目論見が当たって喜びを隠せない2人がじゃれ合うのを見てブラピは諫める。「市場の崩壊の結果、なにが起こるのかをよく考えろ。何百万人の人が職を失い、家を失くす。しわ寄せが行くのはいつも普通の人々だ」。

 

驚異の運用結果を残し、自らの正しさが証明できたのもかかわらず、クリスチャン・ベールは自らのファンドを廃業し、また、市場の不正義に一矢報いることができ、大金を手にしたスティーブ・カレルも、自分たちの行為もしょせんは、詐欺まがいの腐った市場を利用しているだけではないのかと表情は曇ったままだ。

 

犯罪まがいの行為が常態化している市場、誰もそれをおかしいと思わず拡大のユーフォリアに包まれる業界、一方で市場の崩壊を今か今かと待望するアウトサイダーたち、ついに崩壊が現実となり、連鎖的に引き起こされる混乱と悲劇。

 

「誰もが心の奥底では、世の終末の到来を待ち受けているのだ」。映画では村上春樹の 『1Q84』 の一説が引用される。

 

かつて共同体における崇高さはポトラッチ(蕩尽)によって失う富の大きさと結びついていた。権力とは喪失する権力のことだ。有用さが支配する資本制社会に至り、そうした浪費の祭祀性は失われ、同時に崇高さも消え失せたと、ジョルジュ・バタイユは記した。

 

際限のない強欲さ、競うようにエスカレートする贅沢な消費、祭祀のような陶酔感とその先に待っている自己崩壊。繰り返されるバブルとは、まるで、失われた崇高さの存在を市場社会のなかで証明しようとする脅迫観念の一種のようにみえてくる。

 

あるいは、そうしたマインドセットを巧みに操る、市場にビルトインされたリブート(再起動)のための金融システムの一環なのか。

 

10年に一度で繰り返されるバブルとは、はたして我々の内なる願望なのだろうか。

 

崩壊の不気味な予兆に彩られたレッド・ツェッペリンのWhen the Levee Breaks(★)が流れ、映画は幕を閉じる。

 

 

(★)When the Levee Breaksは「堤防が決壊する時」という意。オリジナルは1927年のミシシッピ川氾濫の際に堤防の決壊を防ぐ作業を強制させられた黒人労働者の悲劇を歌ったブルース。映画で流れるのは、レッド・ツェッペリンがカヴァーしてヘヴィーなロックナンバーに仕上がったヴァージョン。アルバム『Ⅵ』収録。

(★)トップ画像 : photo by Harshil Shah-London-Canary Wharf/CC BY-ND 2.0

 

 

 

 

大村哲弥 一級建築士/ブロガー

有限会社プロジェ代表:1984年、セゾングループのディベロッパー株式会社西洋環境開発に入社。住宅・マンション事業のマーケティング・商品企画・事業企画に従事する。バブル前夜からバブル崩壊とその後のカルチャーシーンのなかで20歳代、30歳代を過ごし、不動産ビジネスに携わる。1996年、有限会社プロジェ設立。建築・住宅分野のコンサルティング・商品企画・デザイン・執筆などを手がける。東京工業大学大学院修了。一級建築士。

ブロガー:本・映画・音楽・アート・デザイン・ファッション・都市・建築・食・料理・旅・暮らし・まち歩きなどのカルチャーフィールドを横断的に渉猟・論考するブログを主宰。

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