LIFE IS BEAUTIFUL!!! 山田英幸のもの・ものがたり2019/2/17

好きなものだけに囲まれて暮らしたい。

毎日の暮らしを、わがままに、自分好みに美しく整えたい。

そのために必要なのはたっぷりのお金!!

ではありません。

ちょっとしたアイディアや工夫、少しの手間、そして何より一番大切なのはどれだけそのものを愛せるか、ということ。

 

身のまわりのものを愛する、ということは、暮らしを愛する、ということ。

それはつまり、人生を、自分を愛する、ということだと思います。

ちょっとしたことで、暮らしはもっと美しくなる。

人生も、もっと美しくなるのではないでしょうか。

 

18世紀~19世紀にフランスで作られたプリント木綿のいろいろ。 「トワル・ド・ジュイ」など。

 

前回に続き、また更紗の話です。

前回は「印度更紗」の魅力について書きましたが、今回は「ヨーロッパ更紗」です。

ヨーロッパ更紗という呼び方はたぶん日本独自のものだと思います。そもそも「更紗」は木綿の産地であるインドで作られ、世界中に輸出され消費されていったわけですが、18世紀ぐらいになると、ヨーロッパの人々も輸入するだけでなく自分たちでも印度更紗のようなプリント木綿を作りたい、となるのは自然の流れだと思います。

そうやってヨーロッパで作られたプリント生地をわれわれ日本人は「ヨーロッパ更紗」と呼んでいるのです。

 

海外製品をまねて自国でも似たものを作る、というのはいつの世も同じ。輸入超過は由々しき問題。自国で生産すれば通貨の流出を減らすことにも役立ったことでしょう。このあたり、中国や日本の陶磁器をまねて自国での生産を悲願としたマイセンなどに似ています。

インドや中国、日本などの文化が、ヨーロッパ文化の礎になっているのだ、ということにも気づかせてくれます。

 

18世紀後半にフランスで作られた「トワル・ド・ジュイ」。 このように古いものには印度更紗の影響が明確に見て取れます。

 

上の写真はわりに古い手の「トワル・ド・ジュイ」。

当時フランスは絹織物の産地として有名で、それにバッティングすると考えられた木綿織物や木綿プリントは製造禁止だったんだそう。しかし、近隣諸国が木綿プリントを生産するようになり、後れを取ったフランスが焦って「先進国」スイスから技術者を引き抜いてきてはじめたのが「トワル・ド・ジュイ」なんだそうです。

ジュイとは町の名前。「ジュイ更紗」などと呼ぶこともあります。

 

当初はインドのプリントの模倣だった「ヨーロッパ更紗」。インド風の花柄は「L’Indienne」(インディエンヌ:インド風の)と呼ばれ、今でも人気です。しかし、ヨーロッパ更紗は次第に独自の進化を始めます。

たとえばいま「トワル・ド・ジュイ」と聞いて思い浮かべるのは、ピンクや褐色などの単色でプリントされた銅版プリントでしょう。そう、藤田嗣治の裸婦のバックに掛かっているあれです。

われわれがいま、最もヨーロッパ的、最もフランス的と思っているプリント木綿のルーツもさかのぼれば実は印度更紗だった、ということを知ると面白く、少し誇らしい気持ちにもなります。

 

 

18世紀末の「トワル・ド・ジュイ」と、それで作った仕覆。中身は17世紀オランダ、デルフトの「アルバレロ(薬器)」です。

 

前回、印度更紗の魅力のその一は「手触り」だと書きましたが、ヨーロッパ更紗のそれは「文様」でしょうか。

「トワル・ド・ジュイ」が面白いのは、銅版転写の技法を編み出したことによるエッチングの細かい図柄です。特にジュイの工房では専門の画家が図案を描いていたようで、アカデミックで絵画的な図柄が他所とは一線を画しています。

 

バロックっぽい図柄の「ヨーロッパ更紗」。「トワル・ド・ジュイ」といわれて買いましたが、これは銅版ではなく木版です。仕覆の中身は、アンティークバカラのデキャンタとグラス。

 

もうひとつ、ヨーロッパ更紗の特徴的な図柄に「シノワズリー」があります。17世紀に興り、18世紀に大人気を博した中国趣味のことですが、当時のヨーロッパの人たちの遠い国へのあこがれが凝縮されているようです。

現代より圧倒的に情報量が少なかった当時、「間違っちゃった東洋」はすなわち彼らが考えた「夢の異国」であり、そんな勝手な妄想が生み出した図柄は今見てもとても面白い。

現代人には濃すぎるように思われるそんな図柄が、当時どのように使いこなされていたのか?そんなことに思いをはせるのも面白いものです。

 

「シノワズリー」のヨーロッパ更紗で作った仕覆。中の茶碗も19世紀のシノワズリーです。

 

小さな茶籠の内貼りにヨーロッパ更紗を使いました。鮮やかな色使いに当時の「エキゾチズム」を感じます。下に敷いた布は現代のインドのサリーです。

 

すべての骨董に言えることなのですが、骨董の魅力は実は「こっちを向いていないこと」だと思います。

すべての製品、商品は消費者に向けて作られているわけで、その時代の消費者のニーズや好みのほうを向いています。しかし、時が経ち骨董になったものは、いつまでも私たちのほうを向いているわけではない。

骨董好きといわれる人たちは、そのような「こっちを向いていない」ものが好きなへそ曲がりな人たちだと思うのです。

 

ヨーロッパ更紗にも、そのような「こっちを向いていない」ところがあります。

現代の生活には使いにくそうな派手さだったり、具象的すぎる文様だったり、東洋的なモチーフなのに「空間の美」を理解していない息苦しさだったり、、、。

当時の人たちが遠い異国や遠い異文化に憧れて作った「ヨーロッパ更紗」。その憧れの熱量が、いまだにこもっているような気がして、小さな端切れになってもいとおしく、それをまた仕覆などに仕立てて楽しんでいるのです。

 

 

コテコテの文様の蝋引きのヨーロッパ更紗(チンツ)と、それで作ったティーカップの仕覆(右側)。

 

 

 

山田英幸

幼い時から美しいものが好きで、長年にわたり骨董・アンティーク・古裂・ヴィンテージテキスタイルなどを収集。

また手仕事も得意で、洋服、帽子、人形、テディベアなどを制作するが、1990年頃「究極の手仕事・仕覆」に出会い、現在も制作を続けている。

西麻布「ルベイン」「銀座松屋」などで仕覆展示会開催。

自称「手芸の国の王子様」。

 

とにかく、「もの」が好き。それにちょっとした工夫や手仕事をプラスすることで、身の回りを美しく、毎日を楽しくしたいと思っている。

愛知県名古屋市生まれ。現広告代理店クリエイティブディレクター。

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