『散歩の達人』品川 

品川浦

時代に応じて変化をくり返し
新たな魅力を創出

ここ数年の変貌ぶりには目を見張る。江戸時代までこの街に海があったなんて、すぐには信じ難い。変化を恐れず、生まれ変わるごとに新たな魅力を創出してきた品川。そのタフさを肌で感じて。

たび重なる再開発の荒波を耐え、逞しく進化する街

羽田空港まで最速11分とアクセスがいい品川駅。当然、界隈に旅行者も多いが、それは今に始まったことではない。慶長9年(1604)に徳川家康が整備した東海道は、品川に第一の宿駅を置いていた。つまり、江戸時代には既にたくさんの旅人であふれていたといえる。

北品川本通商店街

いざ、江戸の面影を探す旅へ

旧東海道の品川宿を散策するなら、北品川本通り商店会からスタートするのがおすすめ。道幅は江戸時代のまま、約7mに保たれ、現代になって建てられた店や住宅に紛れるように古い石垣、寺社仏閣などの史跡が点在する。 地図★1>

江戸の日本橋と京都の三条大橋を繋ぐ東海道。3代将軍家光が参勤交代を制度化すると、西日本からやってくる大名たちがこぞって利用した。なかでも品川宿は最も江戸に近い宿駅だったので、通行量が抜きん出て多かったとか。さらに一大旅行ブームが起き、身分に関わらずさまざまな人でにぎわった。
 
品川宿があった北品川の東側に、江戸時代の風情を色濃く残す品川浦がある。釣り船や屋形船が浮かぶ舟だまりで、岸に船宿が立ち並ぶ。現在、その背景に品川駅港南口の超高層ビルも見えるが、かつてこの辺りはすべて海だった。舟だまりは、品川に漁村があった頃の名残なのだ。

品川浦

かつて品川には海があった

今も江戸時代の風情が残る品川浦の舟だまり。バックにそびえるビル群をはじめ、近代的な建築とのコントラストが印象的だ。このギャップもまた、大きく発展を遂げた現代の品川らしい見どころ。絶好の撮影スポット! 地図★2>

原美術館

現代アート専門美術館の草分け

北品川では『原美術館』にも立ち寄りたい。館内に潜む6の常設展示を回りつつ、ヨーロッパモダニズムを取り入れた建物を探検しよう。元々は個人の邸宅で、昭和13年(1938)竣工。令和2年12月で閉館することが決まっているので、今のうちにぜひ。右の写真は常設展示で、奈良美智「MY DRAWING ROOM」(平成16年8月~)。11〜17時(祝日を除く水は〜20時、入館は閉館時刻の30分前まで)、月(祝の場合は翌平日)・展示替え期間休。入館料1100円。📞03・3445・0651 地図★3>

明治に入って間もない頃、新橋〜横浜間に日本初の鉄道を敷設するため、品川湊の埋め立てが始まった。明治5年に完成した品川駅は、山手線最古の駅でもある。当時の海岸線は今よりもだいぶ内陸にあり、線路は海沿いに造られた。電車に乗っていると、窓から海が見えたという。
 
一方、高輪口がある西側の高台には、いくつもの大名屋敷があった。その跡地が明治時代に華族の邸宅地となり、やがて立派なホテルが建てられた。昭和58年(1983)になるとショッピングビル「ウィング高輪」が開業し、アメリカ生まれのレストラン『アンナミラーズ高輪店』。近隣住民やファミリー、ビジネスマン、外国人観光客など幅広い層に愛されるように。本格的なアメリカンフードやできたてのホームメイドパイは、昔と変わらず今も人気だ。

アンナミラーズ

一世風靡したアメリカンレストラン

昭和48年、日本1号店が青山にオープンし、多い時期には都内だけで20店舗近くあった『アンナミラーズ』。現在は高輪の1店舗だけだが、フルーティで自然な味わいの本格派ホームメイドパイは健在、制服は今見てもかわいい。近年登場したスモールホールパイ1296円〜。8〜22時20分LO、無休。📞03・3443・3385 地図★4>

明治から昭和にかけてたびたび埋め立てられ、劇的な変化を遂げた品川。近代的な街並みと、100年、200年も変わらない景色が隣り合っているおもしろさがある。寛永18年(1641)に大火で焼失し、高輪に再建された泉岳寺には、赤穂義士と浅野長矩(ながのり)の墓所があり、忠臣蔵ファンにとっては聖地。毎年、赤穂義士が吉良邸に討ち入りした12月14日には、「赤穂義士祭」が開催され、義士の装束で練り歩く「義士行列」が見ものだ。

泉岳寺

忠臣蔵聖地巡礼のゴールはここ

曹洞宗の江戸三箇寺の一つ、泉岳寺。赤穂藩主浅野家の菩提寺として広く知られる。最初、慶長17年(1612)に外桜田に創建されたが、寛永の大火で焼失し現在地に移転。浅野家との縁が生まれたのは移転後のことで、時の将軍家光が浅野家を含む五大名に泉岳寺の復興を命じたのがきっかけとか。7〜18時(冬は〜17時)。📞03・3441・5560 地図★5>

松島屋

昭和天皇が心底愛した豆大福

『松島屋』といえば、豆大福。かぶりつくと薄くのばした餅がモッチリかつ歯切れよく、赤えんどう豆の食感、あんこの素朴さが映える。大正7年(1918)に創業し、かれこれ100年。高輪皇族邸(旧高松宮邸)が近く、甘党だった昭和天皇のために側近がよく買いにきていたそう。9時30分〜16時(売り切れ次第終了)、日休・月不定休。📞03・3441・0539 地図★6>

泉岳寺の北側はハイソなイメージの白金高輪エリアと接するが、「この辺りには下町に似た人情味があるんです」と地元の人。なるほど、商店街「メリーロード高輪」には、個人経営の飲食店や食料品店、花屋、テーラーなどが軒を連ね、人懐っこい笑顔であふれている。立ち寄った店で質問すると、近所にあるおすすめの店を教えてくれたり、土地の歴史を話してくれたり。もう少しおしゃべりしたくて、つい長居したくなった。

高輪消防署二本榎

みんなの安全を守る歴史的建造物

品川から白金台に抜ける桂坂と、高台を走る二本榎通りの交差点にドイツ表現主義の建物がある。この『高輪消防署二本榎出張所』は、今も消防署としてバリバリ現役。昭和8年(1933)に落成した東京都選定歴史的建造物で、予約すれば内部も見学できる。敷地内に展示された昭和20年頃の消防車も必見。📞03・3473・0119 地図★7>

ちなみに、前述した通り品川はかつて漁村だったが、現在は肉の街でもある。芝浦に東京市営の家畜市場と、と場が建設されたのが昭和11年(1936)のこと。昭和41年には、東京都中央卸売市場の組織となり、食肉市場が開場した。近隣には、質のいい正肉や仕入れたばかりのホルモンを食べられる店がひしめく。

東京食肉市場まつり

「おいしい肉」を生む現場に潜入

毎年10月の週末、2日間に渡って開かれる「東京食肉市場まつり」。東京中央卸売市場食肉市場を会場に、数万人訪れるビッグイベントだ。協賛県のブランド肉を無料で試食、気に入ったものを購入できるほか、世界の屋台コーナーや抽選会もあり、市場内の「お肉の情報館」ではと畜から解体、セリに至るまでの工程をDVDで学ぶこともできる。2019年は10月19日(土)、20(日)の2日間。📞03・3472・9259(代表) 地図★8>

居酒屋 みかさ

新鮮な肉を使った酒肴が評判

『居酒屋 みかさ』の創作モツ&肉料理が飲兵衛をトリコに。醤油ダレで炒める牛ギアラやわらかいため800円、ハチノスきゅうり和え500円など、モツの弾力と濃い味付けがたまらない。考案したのは現店主・堀幸一さんの父で、先代の堀淳(あつし)さん。芝浦で仕入れた新鮮な肉が酒肴になる。18時〜22時30分LO、日・祝休。📞03・3472・0562 地図★9>

MONDE BAR 品川店

気軽に入れる駅近の本格バー

駅ビルにある『MONDE BAR 品川店』はビジネスマンのオアシス。バーテンダーの洗練された動きに見とれているうち、仕事の疲れも忘れてしまう。昼は買い物途中に立ち寄る女性客も多く、敷居は意外と低い。本格的なカクテルを気軽に楽しめるのがうれしい。ブラッティメアリー1400円。11時〜23時30分LO、無休。📞03・6717・0923 地図★10>

変わるべきところは変わり、残すべきところは残す。品川という街が再開発の荒波を乗り越えられた秘訣は、培ってきた歴史と豊富なスタミナにあるのかもしれない。
 
 
 
文=信藤舞子 撮影=丸毛透、金井塚太郎、今田壮、鈴木愛子、門馬央典、木村心保、中西多恵子

 

*本ページに記載されている情報は2019年8月12日現在の情報です。

利田神社
江戸を驚かせた巨大動物

寛政10年(1798)5月1日、品川沖に体長九間一尺(約16.5m)、高さ六尺八寸(約2m)の鯨が出現。地元の漁師が見事捕獲した。この事件はたちまち江戸中の評判となり、11代将軍家斉が浜御殿(現在の浜離宮恩賜庭園)で上覧されるほどの大騒ぎに。利田(かがた)神社の境内に鯨塚があり、その鯨の骨が埋まっている。 地図★11>

カフェ ダール
芝生の緑と青空が気持ちいい

原美術館の中庭に面した『カフェ ダール』。晴れた日は壁一面に広がるアコーディオンドアが開け放たれ、空の高さを感じながらくつろぐことができる。腕利きのシェフによるフレンチ・イタリアンが評判。11〜16時30分LO(祝日を除く水は〜19時30分)、月(祝の場合は翌平日)・原美術館休館期間休。入館料1100円(カフェのみの利用不可)。📞03・5423・1609 地図★12>

泉岳寺 水琴窟
美しい音に耳を澄まして無心に

水琴窟とは、地中に作り出した空洞に水滴を落とし、その共鳴音を楽しむ装置。たいてい庭の手水鉢のそばにあり、底に穴を開けた甕を伏せて埋めることで空洞を作る。泉岳寺の水琴窟は甕が外に出ているタイプ。赤穂出身の造園家が四十七士を鎮魂するために寄贈した。 地図★13>

ニ本榎通り
細い路地を抜けた先は……

日本榎通りの細い路地を折れると、小体な家々がぎゅっとひしめく住宅地。井戸なんかもあり、まるで昭和の風景だ。先へ進むと道幅がどんどん狭くなり、行き止まりになったらどうしようと不安になるが……。辿り着いたのは、なんと泉岳寺の境内だった。

Liebe
小麦粉と水、塩で作るこだわりパン

お目当は、特殊な製法で手作りしたパン。『Liebe』で使う材料は、一部の菓子パンを除き、小麦粉と水、塩だけだ。砂糖や玉子、バター、牛乳は使わず、生地を長時間寝かすことが大事。大量生産できないため売り切れることもあり、できれば早めの時間に訪れたい。チーズクッペ298円。10時〜売り切れ次第終了、日・祝・第1・3月休。📞03・3444・1918 地図★14>

彫刻
パブリックアート鑑賞のすすめ

個性派のパブリックアートが目を引くこのエリア。難しいことを考えず、まずは素直に感じてみたい。高輪のとあるマンションの入り口に、狛犬のように向かい合って立つ彫刻「花束」(本郷新)を発見。写真の像は真顔だがもう一方は笑顔だったので、想像が膨らむ。

お肉の情報館
命の大切さ、食の大切さを学ぶ

東京都中央卸売市場食肉市場・と場のセンタービルには、一般の人も入れる「お肉の情報館」がある。展示は、実物大の枝肉や生体の模型、解体や加工の工程を解説するパネル、VTRなど豊富。関連書籍は閲覧可能だ。「食肉の歴史と人権」コーナーなどもあり、深く学ぶことができる。10〜18時、土・日・祝休。入場無料。📞03・5479・0651 地図★15>


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